奪われし姫、 鬼の溺愛に 包まれて

星井 悠里

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6話「生きてきて一番」

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 家まであと少し、というところで、総司さんが、歩こうか、と言ってくれた。
 星が綺麗だから、ゆっくり話しながら帰ろう、と。
 馬車を下りて、二人でゆっくり歩き始める。

 もうすぐ着いちゃうと思っていたから、嬉しくて。
 並んで歩きながら、心が弾んでる。

「紗月、明日は忙しい?」
「うーん……朝は診療所に行くの。加藤のおじいちゃんの腰痛が最近酷くて。あと鈴ちゃんもだし。それから、母さまの使いで出かけなきゃいけないのと……あと夕方は……」
「じゃあ、明後日は?」
 総司さんが笑いながら質問を変える。

「午前は同じかな。午後は少し空くかもしれない」
「――――忙しそうだね」

 総司さんは、可笑しそうに笑う。

「総司さんも忙しいでしょう?」
「うん。まあ、そうだね。父さんの仕事を代わりにやることも増えてきたし」
「でもまた、お出かけ、出来たらいいな。……今日、楽しかった」
「うん。また時間、作るから」

 そう言ってくれる総司さんが嬉しくて、ふふ、と笑いながら頷く。

「総司さん、髪飾り、ありがとう。大事にするね」

 新しく飾られた自分の髪飾りに触れながらそう言うと、総司さんは優しく微笑んだ。

「すごく似合ってる。それにして良かったね」
「うん」

 頷いて少し、会話が途切れた。

 小川が流れている、まっすぐな細い道。
 静か。
 空を埋めつくすみたいな星。

「星、綺麗」

 そう言うと、総司さんも、そうだね、と笑った。
 周りを見回していた私は、少し遠くの茂みを見て、ふと思い出した。

「そういえば、この奥だったかも……」
「うん?」
「昔、あのあたりで、怪我をした男の子に会ったの。罠にかかってしまったみたいで、母さまが慌てて、罠の鍵を取りに行って……」
「ああ、前も言ってたよね」

「初めて見る子でね。おうちの人も一緒に居なくて、一人で……」
「うん」
「それで、私、治してあげたんだけど……本当は、もっと綺麗に治してあげたくて、次の日診療所に来てねって言ったんだけど、来てくれなくて……」
「里の子じゃないなら、来れなかったのかもね」
「多分そうなんだと思う。もっと綺麗に治してあげたかったなっていつも思い出すの。今頃どうしてるかなあって――あ、思ったんだけどね、朝、茂みで会ったあの人――なんだかあの男の子に似てたような……」
「そうなんだ……」
「うん。……もうすごく、昔の話だから、はっきりしないけど、雰囲気が」
「――――」

 んー、と思い出そうとしても、何となくしか思い出せない。
 似てたような。似てなかったような……。
 考えていると、ふ、と総司さんが足を止めた。

「――紗月。今はさ、そんな昔の男の子のことじゃなくて、俺を見てほしいな」
「え……あ。ご、めんなさい」

 焦って見上げると、少しむっとしていた総司さんは、すぐにクスッと笑った。

「嘘。全然怒ってないよ」

 私がホッとして、良かった、と笑った瞬間。ふわ、と頬に触れる総司さんの手。
 びっくりしすぎて強張ったまま、総司さんを見上げていると。


「俺を見てほしいのは、本当」
「――――え」
「紗月」

 総司さんの声がすぐ近くで聞こえて。
 そっと、肩を引き寄せられて、抱き寄せられた。

 胸が弾む、どころじゃない。
 心臓がどきどきしすぎて、痛いくらい。手をどうしていいか分からなくて、下に降ろしたまま、ぎゅ、と握る。

「――――嫌?」
「……嫌、じゃない……」

 小さく首を振って、そう言うと。「良かった」と力を抜いて笑う総司さん。
 ゆっくり、肩に触れられて、そっと離される。でも、すごく近い。

「紗月。俺と……父さんのところに、来てくれないかな」

 それって……と、心の中で唱える。緊張して、声にならない。

「結婚の話を、したいから」
「――――……」

「里の人のために頑張るとこも。優しいとこも。一生懸命なとこも。しっかりしてるのにたまに幼くて可愛かったり。あ、雷が苦手なところも……紗月のことは、全部好きだよ。ずっと一緒に居たいから」

 聞いている間に、涙が滲んできてしまった。
 浮かんだ涙を、総司さんの指が、優しくふき取ってくれる。

「私、雷、平気になったよ……?」
「ほんと? 大泣きしてたのに」
「……得意ではないけど」

 涙声で苦笑しながら言うと、ふ、と笑った総司さん。


「結婚、して、紗月」


 見つめ合った後。
 はい、と頷いた。

 すると、また、ぎゅ、と抱き締められた。
 今度は、手を――――……ゆっくり、あげて、総司さんの着物をそっと握った。




 この日は、本当に今まで生きてきて一番幸せだと思って、眠りについた。
 この先ずっと、この幸せが続くんだって、信じていた。












◇ ◇ ◇ ◇

(2025/1/31)

昨日から紙に書きだしていたストーリーを
PCで打ち終えた時点で3万文字を超えました。
全然短編で終わらないのが分かったため、大賞中の完結は夕方位には諦めてました…(^^;💦
まだあと一時間は、書けるところまで書きますが(´∀`*)

読んでくださった方、投票してくださった方。
ありがとうございます♡ 今日で大賞期間&投票期間も終わります。

600文字位しか書いてない時から、874もの参加作品の中で、30位くらいに置いて頂いてて。
作品が面白いというよりは💦 なにせ600字なので💦
いつも読んでくださってる方達の、応援のお気持ちなのだろうと……感謝でいっぱいでした。

ありがとうございました。


心置きなくBLに行くためにも(笑)
終わらせるまで続けて書くつもりですので、良かったらお付き合いください(★´∀`)ノ❤


悠里♡
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