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◇遭遇
しおりを挟む「――――……2年間、フル稼働で働きっぱなしってひどくねえ?」
「まあなぁ……でも、仕方なくねえ? お前の場合は、他の同期とは違うんだし」
「――――……」
兄貴がまだ若すぎるから、いきなり社長交代はせず、既成事実的に務めさせて、周りを納得させている所。
――――……もう、十分な気がするけど。
この期間に一通り仕事を覚えろと、兄貴に言われている。
大体にして、兄貴は、素性は隠して普通の新入社員として入った営業部で、誰も抜けないような記録を打ち立てていた訳で。くわえて「若造が」などと口にできないような、あのオーラ。はっきり言って、親父よりもよっぽど、カリスマ性はある。
とにかく兄貴が営業部時代。
プレゼンや企画の立ち上げをしたりするのを、兄貴と一緒にやってたのが、陽斗先輩。仕事は出来る。それは認める。
営業先に回っても、相当信頼されてるし、好かれてる。それも知ってる。
オレが、社長である親父の息子で、社長代理の兄貴の弟っていうのを知ってるのは、先輩だけ。そこらへんも絶対漏らさないし。
ダントツで教え方はうまいし、あの人自体が色んな事が出来るから、教えてもらえる仕事の種類も、一緒に入った同期の教育係とは全然違う。
だから、オレを育てるために、兄貴があの人をオレにつけたのは、まあ分かる。
――――……分かってるけど。
「あ、蒼生先輩ー」
「やっぱり居たー」
数人入ってきて、オレの隣に座る。
「また会社の先輩の話ですか?」
「うるせーな、お前ら、別のとこ座れよ」
「やですよ、せっかく会えたのに」
「そーですよ」
ぎゃいぎゃいうるさい。
族の後輩達。オレらから引き継いだこいつらも、もう下の代に引き継いで、もうとっくに足を洗ってて、マジメに会社員だったり、ちゃんと皆働いている。
けど、やたら懐かれたままで。
祥太郎が店を開いた事を良い事に、客として結構な頻度でやってくる。
態度が悪かったりうるさくなると、祥太郎にシメられるのが分かっているので、結構な団体で来てても、割とお行儀良くしている。
「後輩達でずいぶん稼いでねえ?」
「あーそーだな。色んな奴、来るしな」
オレの言葉に祥太郎もクスクス笑う。
まあもう見た目には、誰も族の名残もねえしな……。
「蒼生先輩、あっちで飲みましょうよ」
「オレは今、祥太郎に愚痴り中なんだよ」
「もう結構愚痴ったでしょ? テーブル席いきましょ」
「後で行くから、先飲んでろよ」
「はーい」
「まってまーす」
それぞれ返事をしながら、離れていくのを見送ってると。
祥太郎がクスクス笑った。
「相変わらず、人気あんなあ」
「そーなのか?」
「まあ、最強だけど仲間には優しい総長、だったもんな。そりゃ人気あるよな。先週お前が居なかったから、寂しそうだったぞ。……そういや、合コンだったんだっけ?」
「ああ、そう。久しぶりに合コンだった」
「お持ち帰りした?」
「――――……んーまあ」
「何その返事」
「なんか最近、盛り上がんねえんだよなー……」
「うわー。 もう枯れた?」
「るせえな」
「好みじゃなかったの?」
「いや? ……イイ女だったけど。なんかなあ……」
「あれだな、お前は。今迄やりすぎたんじゃねえ?」
「――――……」
「やたらモテるし、特定の相手作んねえから、やりたい放題だったもんな。だからじゃねえの?」
「……まあ、引き続き、イイ女探すから良い」
ため息をつきつつ、ビールを飲み干した。
「なんかうまいカクテル作って」
「甘いの? 甘くないの?」
「甘くねーやつ」
「はいはい」
祥太郎がカクテルを作り始めるのを見ながら、またため息。
「お前、ほんと、ため息ばっか」
祥太郎に苦笑いされる。
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