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side*陽斗 1
しおりを挟む昼を外で一緒に食べてから、電車で会社に戻った後は、午前中に問い合わせ対応したせいで出来なかった仕事を片付けていた。もう、あっという間に定時を越えた。
三上の同期が、三上の様子を伺いに来て少し話している途中で、「先輩」と呼びかけられた。
「オレ、そろそろ行っても良いですか?」
「明日に回せないものは?」
「それはもう無いです」
「じゃあ良いよ。同期に合わせて行っておいでよ」
「分かりました――――……じゃあ出口で集合にする?」
三上が同期と話して、一旦同期は出て行った。
まわりに誰も居なくなってから、三上が、椅子に座ったまま、オレの方に近付いてきて。
「先輩」
「ん?」
「これ」
手に、キーケースを渡される。入り口での使い方を説明されて。
「無理言って、すみません」
謝りながらだけど、すごく嬉しそうに笑われて。
オレが首を横に振って見せると、更に嬉しそうに笑う。
「先輩ご飯は?」
「どっかで食べて帰って一旦家に帰って、スーツとかは、昨日と同じ感じで持ってく」
「はい。冷蔵庫に入ってる酒とか水とか食べ物とか、もうなんでもご自由に」
「ん」
「バスタオルは、脱衣所の棚に入ってるので。昨日の部屋着、そのまま置いてあるし。ほんと好きにして、ゆっくりしててくださいね」
「ん」
「じゃあ、行きますね」
三上はまた、嬉しそうに笑ってから、歩いて行った。
――――……つか。
嬉しそうすぎて、笑えるくらい。
なんか、可愛いし。三上。
なんか、先に三上の家に帰って、待ってるとか。そんなのってさすがに変じゃないかと思って、断ろうかと思ったんだけど。
あんなに喜ぶなら、OKして良かった。
なんて。思ってしまう。
午後の仕事中も、なんかずっとご機嫌で、楽しそうだったし。
なんか午後の三上の様子を思い浮かべてしまうと、口元が緩みそうになってしまって、ふー、と息を吐いた。
――――……ああ。オレ、ほんと。
……三上、好きだな。
付き合っていいのかとか、うんて言えないとか。保留とか。
……悪あがきとしか思えない。
――――……なのに。
三上は、なんかずーっと、優しくて、待ってくれようとして。でも、ほっとかないで、まっすぐ好きだってずっと。
1ヶ月試そうとか。
――――……オレみたいな奴には、すごく良い案なんだと思う。
これからずっと、三上と居ていいのかとか、あれやこれや、堂々巡りで考えてるオレには。1ヶ月で区切って考えられるって。
それなら。と思って、受け入れてしまった。
キスもそれ以上も。
――――……「付き合う」なら、「今更」。それも込みでお試し、でいいとか、そんな風に思わされて。
三上って。……頭、いいよな。
ここ数日で。オレの扱い――――……すげえうまくなってるような。
仕事ではオレ、先輩だけど。
なんか、三上は、提案するだけで、いつもオレに決めさせてくれてるような気がする。実際の決定権はオレな気がするんだけど。
でも、自分で決めているようで、実は「決めさせられてる」ような気がするほどに。
オレってば、なんかいつでも、三上の手の平で転がってるような気がするんだけど。
でも、なんか形的には、そうじゃないし。
そこら辺が。
うますぎると言うか。
でもって、あの笑顔で、大好きって見られてて。
――――……勝てない気がする。
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