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揺れる
「懐かしい」*奏斗
しおりを挟む四ノ宮が止まっちゃってるから、四ノ宮と来た何人かも、そこで一緒に止まってる。そいつらは好きに話していたけど、四ノ宮は完全にこっち向いてるから、何だかすごく、ばつが悪い。
「四ノ宮、授業、行かなくていいの?」
正門横にある柱の時計を見上げて、オレが言うと、四ノ宮がめちゃくちゃムッとした。
行くわけないだろ、とその目が言ってる気がする。
そんな四ノ宮の視線には気づかない大地は、オレをまっすぐに見てにっこり笑う。
「ね、カナ先輩、この後暇?」
――――……懐かしい。
昔、部活の後、よくそう言ってたな、こいつ。
まあ部活の後だから、寄ったのはコンビニとかで、皆で何か買って食べて帰るって感じだったけど。
「ほんと、変わんないなー、お前」
思わずクスクス笑ってしまいながら、大地を見上げると。
じっとオレを見つめた大地は、不意にまたオレを抱き締めた。
だから、もー、やめろって、四ノ宮が居るんだから……っ!
一番気になるのがたくさんの人目じゃなくて、そこって? と、自分でもよく分からないけれど。
とにかくなんか怖いから、ほんとやめて。
心の中で一瞬でそこまで考えていると、大地の声が、ぼそ、と耳元で聞こえた。
「……変わってんだよね、オレ」
「え?」
変わってる? 首を傾げたその瞬間。
腕と肩を掴まれて引っ張られて、え、と思ったら。
気づいたら、オレは、四ノ宮の近くに立ってた。
――――……大地の腕の中から、四ノ宮の元へ、引っぱられた感じ。
大地はきょとんとして、オレと、オレを掴んでる四ノ宮を見てる。
「先輩。ちょっとオレ、用があるんで。来てもらえます?」
すぐにオレの肩からは手を離したけど、でも腕だけは掴んだままで、四ノ宮がニッコリ笑う。
……怖い。
と思うのは、気のせいなのかな。
いやでも、怖い。
「でも、お前、次授業……ていうか、マジで、何でずっと居るんだよ、お前……」
オレと大地のやりとり、関係ないじゃん。
思いながらそう言った時ちょうど、五限を知らせるチャイムが鳴った。
四ノ宮と一緒に居た一年生達が、「あ、早く行こ」と、四ノ宮に声をかける。
四ノ宮の葛藤が何だか掴まれてる所から流れてくるような気がする。
「ほら、大翔、次の先生遅れるとヤバいぞ」
友達のその声に、四ノ宮はオレの手を渋々離した。
「次外せねーから行くけど……後でね、先輩」
「早く行けよ、遅刻するよ?」
そう言うと、何だかじろりと睨まれる。
そのまま、四ノ宮は友達と一緒に走り去っていった。
……すごく行きたくなさそう。
後ろ姿でも分かる気がする……。
周りから人が消えて、大地と二人残された。
「大地、授業は?」
「オレ今日は四限まで。先輩は?」
「オレも四限までだよ。帰るとこだった」
そう言うと、大地は、ものすごく嬉しそうな顔で、オレを見下ろしてくる。
「先輩、この後、暇?」
「――――……」
正直、暇じゃない、と言いたい。
昔の奴と――――……特に、あいつが絡む部活の後輩なんて、本当は絡みたくない。
けど。嘘ついて帰るの、無理そう……。
――――……それに……色々、口止めしないと、だし。
「……夕飯、一緒に食べる?」
そう言うと、大地は嬉しそうに頷いた。
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