176 / 567
揺れる
「普通に話せる」*奏斗
しおりを挟む一緒に駅前に向かいながら、オレは、一番気になってる事を先に言った。
「あ、お前、今度抱き付いたら、ほんと怒るからな」
「だって、すげー感動だったんだもん、カナ先輩に会えて」
「……つか、ほんとに何で探してたの?」
「何でって、さっきも言ったけど。会いたいからに決まってるでしょ」
「――――……ほんと、お前って……」
んなことばっかり言ってるから、超懐いた大型犬、とか言われるんだよ。
もう、今はもっとデカくなってんてのに、言ってることがそのまんまって、どーなの。
「抱き付くのは禁止。良い?」
「ちぇー」
「ちぇーじゃないよ。正門前で抱きつくってほんと、大地、どーなってんの」
「あー、それはすみません。目立ちまくってましたよね」
「分かってんなら、すぐ離せよ」
おかげで四ノ宮に見つかったじゃんか……。
ため息を付きたい気分。
「だって、ほんとにマジで嬉しかったんですって」
「……もう落ち着いたから、大丈夫だよな?」
「まあ……」
頷く大地を見上げて、ん、とオレも頷いた。
――――……はー。
四ノ宮の最後の顔……。
……オレ、さっきから同じこと何度も考えてるけど……。
……別に悪い事は、してないよね。
オレから抱き付いたならまだしも。
抵抗してたよね、オレ、確か。
責められることもないよね。
……と思うんだけど、どうも、四ノ宮の事考えると、なぜか後ろめたいし。
はー。意味わかんね……。
「カナ先輩」
「んー?」
「さっきの、誰?」
「さっきのって? あ、さっき最後まで居た奴?」
「うん」
「んー……ゼミの後輩」
それが一番、正しい関係の名前だよな。
そう思って答えると。
「ふーん……」
言いながら、小さく何度か頷いてる大地に、首を傾げてしまう。
「何で? 知ってる?」
「いや、知らないですけど。見たことはある」
「どこで?」
「入学式の、新入生代表」
「え? そうなの?」
「うん、多分。あの顔、似た奴は居ないでしょ。オレ前の方に居たから、近くで見てたし」
「――――……へー」
はー、そんなことも、やってたんだ。へー。
……ほんと、嫌味だな。
あーそういえば小太郎とかが言ってたような言ってないような。
王子エピソードは要らないと思ってたから、あんまり真剣に聞いてなかった。
……ますます宇宙人だっつの。
「……彼氏じゃないですよね?」
「……は?」
「さっきの奴」
「……え? 彼氏? 誰が?」
「さっきの、あいつ」
「……誰の?」
あまりにオレが険しい顔で聞いたせいだと思うけど。
大地が可笑しそうに笑った。
「カナ先輩のって意味で聞いたんですけど、違いますね」
「……当たり前だろ」
何言ってんだ、ほんとに。
……彼氏って。
何それ。オレが男と可能性あるって知ってんの? って、そんな訳ないよな……?
頭の中で色んな思いが巡り巡っていると。
大地がクスクス笑った。
「だって、オレがカナ先輩に抱き付いてたら、奪われたから」
……あ、それでふざけて聞いただけか。何だ。……そりゃそうだよな。
「関係ないよ。オレが苦しがってたから助けてくれたんだろ。お前、でっかすぎ」
「先輩は全然変わんないですね」
「どういう意味?」
「褒めてるんですけど」
「そーか?」
そんな会話をしながら、駅前到着。自然と止まって、辺りを見回した。
「大地、何食べたい?」
「先輩は? 何が良いですか?」
「いいよ、お前の好きなので」
「あそこの定食屋行きます? 結構美味かったんで」
「うん、いーよ」
大地が指さしたビルの二階に向かって歩き始める。
「――――……元気でしたか? 先輩」
「うん。元気だったよ? 大地は? ……って元気そうだよな」
すくすく育ってるし、と追加しながら笑うと、大地も笑った。
――――……一年以上会ってなかったけど……。
敢えて関係を断った手前、すごく、気まずい気持ちでいたんだけど。
相手からしたら、ちょっと会えなかった、程度なのかな。
思ってたより、普通に話せるんだなあと思うと、嬉しい気もする。
134
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる