【初恋よりも甘い恋なんて】本編・番外編 完結💖

星井 悠里

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揺れる

「昔の仲間」*奏斗

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 定食屋は割と混んでた。まだ早い時間なのに。

 白身魚のフライ定食を頼んで、一口、水を口にする。

 ――――……目の前に、断ち切ったはずの過去の人たちの一人が座ってることに。どうも、違和感というか、ざわざわした感覚。

 でも、学校のこととか、オレが卒業してからの部活のこととか、そういうのを聞きながら、食事をしている間に、大分、慣れてきた。
 まあもともと、大地を断ち切りたかった訳じゃないし、な……。


「こないだね、バスケ部の同じ学年の奴らと、久しぶりにバスケしたんですよ」
「そっか。皆元気だった?」
「まあそんな経ってないし。でも皆体なまってて、大変でしたよ」
「まだ全然若いのに」

 クスクス言いながら笑うと、大地は肩を竦めた。

「先輩だって、ばてるでしょ、もう。オレらより現役から離れてるし。余計じゃないですか?」
「んー……そうかもね」

 言葉を濁して頷くと、大地は、オレをじっと見つめた。

「カナ先輩は、先輩達と会ってないんですか?」
「ん、まあ……」
「卒業してから一回も?」
「ん。……色々忙しくてさ。スマホも、壊れちゃったし。一人暮らしも慌ただしいし……」

「今、先輩のスマホ、オレとつなげてくれたら、バスケのグループに招待しますけど……どうしますか?」

 まっすぐすぎる質問。何て断ったらいいか分からなくて、固まる。

 繋げましょう、じゃなくて、どうしますかって言うんだから、少し何か、感づいているっぽい。……そういうの敏い奴だったと思う。

 もう、誤魔化しても仕方ない。そのために来たんだし。

「あのさ、大地……」
「――――……」

「ごめん。あの――――……言い辛いんだけどさ」
「――――……」

「……事情があって、オレ、しばらく、昔の皆と距離、置きたいんだ」

 もう、そのまんま言うしかない。
 そう思って、言うと、大地はふー、と息をついた。

「まあ……なんとなく……」
「え?」
「……なんとなくは、何かあるのかなとは、思ってました」
「――――……ん」

 まあ。そんな感じ、してたけど。

「スマホが壊れたって、連絡取りたければどうにか取れるだろうし。卒業以来誰とも会ってないってなると……やっぱりそっか、て感じですね」
「――――……ごめんな」

「別にオレに謝る事じゃないですけど……」

 んー、と大地は、オレをまっすぐに見つめた。

「カナ先輩」
「ん?」

「……オレ、誰にも言わないから。先輩に会った事」
「――――……」

「だから、オレとは、連絡先交換してくれません?」
「――――……」

「絶対、誰にも言わない。約束、絶対守りますから。もしオレから漏れるような事が万一あったら、新しいスマホプレゼントしますから」

「……何だよそれ……」

 苦笑いが浮かぶ。

「せっかく会えたのに、また偶然でしか会えないとか、嫌なんで」
「――――……」

「多分オレと先輩、取ってる授業とか教室とかが、かぶらないんですよ、きっと。だって、ずっとオレ、何となく探しながら居たのに、こんなに会えなかったんだからさ」

 なんか、一生懸命言ってくる大地に、ふ、と息をつく。

「分かった。いいよ。絶対バラさない約束を守ってくれるなら。……別に大地と離れたくて、そうしてた訳じゃないし……」

 大地は頷きながらスマホを出してくる。連絡先を交換すると、大地は、まっすぐにオレを見つめた。

「……カナ先輩はさ――――……誰と、離れたかったんですか?」
「……それは、内緒でいい?」

 少し笑って見せると、大地は、少し頷いてから、黙った。

「先輩」
「ん?」

「良く分かんないけど……皆、先輩に会いたがってるし」
「……ん」

「事情が変わったら、また皆でバスケしましょうね」
「ん。……ありがと」



 まっすぐな視線に頷いて、ふっと笑みがこぼれた。



 ……いつか。
 カズに会っても平気で、一緒にバスケできたりする日が、くるのかなあ。

 ……二年以上たった今でもまだ全然……。
 ほんと、無理な気しかしないけど。





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