「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第一章

7.

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 整った顔の、その人は、私をやたらまっすぐに見つめてくる。

 睨まれてる訳では無い気がするから、ダッシュで逃げようとは思わないのだけど……何で、そんな風に見られてるのか。一体何が言いたいのか、全然分からないから、やっぱり怖い。
 よく分からないけど、ごめんなさいで逃げようと思った、その時。

「お前、よくここに、男と居ただろ」
「――――……」

「そいつの話、聞いた」
「――――……」

 私が、よくここに居た「男」の話を、聞いたって。
 言葉の意味を、考えていたら。


「あんまり、悲しんでると…… 縛り付けちまうぞ」

 そう言われて。
 私は。自分が向けられた言葉を。頭の中で、繰り返した。

 この人は。悠斗と私がここによく居たのを知ってて。
 悠斗が、亡くなったことも、聞いて、知ってて。

 私がここで泣いてたから。
 今、こう言ってるの……?


「縛り付けるって……どういう意味……?」

 縛り付けるも何も。
 悠斗は居ないのに。

 どうやって、縛り付けるの?

 そう思っていると。


「……よく言うだろ、成仏できないって。そういうこと」

 その人は、ため息を付きながら。茶色の頭をバリバリ掻きながら。すごく嫌そうに、そう言った。


「……っ……」


 何それ。成仏って……。

 成仏なんて……しないでほしい。居れるなら、ここに居てほしい。

 霊でもいいよ。悠斗に会えるなら。
 霊だって、私は、会いたいもん。


「――――……っ」

 何だか急に現れた不良みたいな人が、なんだか似合わないセリフを次々口にして。頭が追い付かなくて、咄嗟に色々思うけど、自分の中の気持ちが、整理できない。
 
 何も答えられず、手を握り締めてる私に、その人は、また息を吐きながら、言った。

「死んじまったら、戻らない。生きてる奴は、前を見て、進むしかない」
「――――……」

 その言葉には、すぐ、言い返したい言葉が、浮かぶ。

 ……分かってる。そんなこと。
 分かりすぎる位、分かってる。

 だから。立ち上がって、制服を着て、外にも出た。
 分かってる。

 でも。
 ――――……。


「分かってる、そんな、こと……」

 分かってたって、どうにもできない気持ちが、あるんだもん。

 前を向こうって何度決めたって。
 悠斗は、過去にしか、居ないんだもん。
 振り返らないと、会えないんだもん。


 涙が浮かぶ。
 何とか零れ落ちないまま。その人を見つめる。

 言葉は返せない。

 涙目で見つめたからか、その人は、一瞬、眉を寄せて。
 はー、と、ため息をついて、私から目を逸らした。


「……分かってるなら、こんなとこで泣いてないで、早く帰れ」
「………っ」


 ……何だかもう、意味が分からない。
 でも、少し立ち尽くしていたけど、この不良さんは立ったまま動かないし。帰ってくれないみたいだから、もう、私が帰るしかない。
 ……また明日、入学式の帰りに、来よう。


 私は、そこから離れて、家路についた。


 とぼとぼ、歩く。

 何だったんだろう、今の会話。


 ……最初、怖いと思った。

 ……悠斗が居なくなって。
 もう私、どうなってもいいやとか。思ってたのに。

 ……咄嗟に、怖いって思うんだ。
 何されるか分かんないから、怖い。って。

 ということは。
 私、まだ。
 本当は、どうなってもいいやって――――……思ってない、のかな。

 なんか。
 ……よく、分かんないや……。


 そんなことを思いながら、ゆっくり、また灰色のコンクリートを見つめながら歩いていたら。
 シュシュしか持ってないことに気付いた。桜の飾りのついたゴムが、無い。


 落としちゃった……?

 ……公園までは戻りたくないんだけど……。


 
 でも探さない訳にはいかなくて、仕方なく、今来た道を、ますます下を見ながら歩き始めた。







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