「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第一章

6.

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 目が赤いと思うからまっすぐに見つめ返せなくて、少し俯きながらだけど。目の端に映るおばさんは、少し、痩せた気がする。
 
「心春ちゃん……お葬式、来てくれてありがとうね。悠斗、心春ちゃんが来てくれて、嬉しかったと思うから」

 そんな風に言われて、ただ、頷いた。
 言葉を発したら。泣いてしまいそうだった。

 悠斗は、三人兄弟の末っ子。優しい悠斗を、おばさんが、すごく可愛がってたの知ってる。
 だから、おばさんが泣いてないのに、私が、泣く訳にはいかない。

「……いえ」

 それだけ言って、首を振る。

「心春ちゃん、あのね――――……断って、くれても良いんだけど」
「……?」

「形見分けというか……あのね」
「――――……」

 おばさんは、バッグの中から、桜の袋を取り出した。

「……悠斗が亡くなった日に、鞄の中に持っていたの」
「――――……?」

「貰ってあげてくれないかな。心春ちゃんに会えたら渡そうって思って、ずっと持ってたの」

 受け取って、中を見ると。
 桜のモチーフのシュシュと、ヘアゴム。

「可愛い……」

 そう言うと。おばさんは、うん、と笑った。
 でもすぐに。目に涙を浮かべた。


「……心春ちゃんに、受け取ってほしいと、思うから――――……貰ってくれる?」
「――――……」

「多分……心春ちゃんのだと思うから」
「――――……」


 私は。
 俯いたまま、頷いた。

 おばさんの涙を見てしまったら、もうだめで。
 どうしても我慢できなくて。涙が、ポタポタ、零れ落ちていく。
 なんとか、しゃくりあげないようにするのだけでも。大変で。

「……心春ちゃん」

 おばさんが、私を軽く抱きしめて。
 私の、背中を、ポンポン、と叩いた。

 ……おばさんも。泣いてるのに。
 私が慰められるとか。ダメだ。

 必死で、涙を止めようと堪えて。息を顰める。

「……ありがと……おばさん……」
「心春ちゃん。明日入学式でしょう。制服似合ってる。……楽しんでね、学校」

 ――――……堪えようとしているのに。
 そんな風に、言われると。


 この制服を着られなかった悠斗と。
 着ている悠斗を見られなかったおばさんと。

 もう。――――……切なくて、悲しくて、やりきれない。
 
「……うん……」


 頷きながら。
 ――――……泣きながら。


 手には。今、貰ったもの。

 悠斗。
 これ。――――……私に、渡してくれる、つもりだった?
 ……話って、何だった?

 ――――……悠斗。
 聞きたいことがいっぱいあるよ。


 ――――……あの日、これを買いに行ってくれたの? 

 そう考えて、あ、と止まる。
 違う。悠斗はきっと、行こうとしてたお店に行けてないんだ。


 だって、お店を出る時に、連絡するって。言ってた。その連絡は、来なかった。てことは――――……。

 このシュシュ達はきっと……もし私のなら。元々買ってくれて、最初からバッグに入れてくれてたはず。

 ……多分、私に何も関係ないものだったとしたら、あの時、私を待たせて取りにいかない筈。

 悠斗。――――……何を取りに、行ったのかな……。


「おばさん……」
「ん?」

「……悠斗って……あの時、どこに……?」

 おばさんは私を見て、苦笑い。

「駅の方に行ってくるって言ってたの。その途中で、だったから――――……スマホとかお財布とかも見たんだけどね……どこに行こうとしてたかは、全然分からなくてね」
「――――……」

「知りたいよね。悠斗が最後に行きたかったのは、どこなのか。何か買おうとしてたなら、それを買ってきてあげたいんだけど……」
「…………」

 また涙を浮かべたおばさんに、また溢れそうな涙を、ひたすら我慢する。
 私はまた俯いて、小さく頷いた。


 暫くして、おばさんは、私が泣き止んでから。
 またね、と言いながら、帰って行った。

 ――――……手の中の、髪飾りを見る。

 桜。
 ――――……悠斗と私が、大好きな桜の。

 こんな可愛いの。初めて見たなぁ……。


 自惚れじゃなくて。
 多分。
 私の為に、用意してくれてたんだろうなって、思う。


 悠斗から、受け取りたかったな……。
 ありがとうって、言いたかった。


 背を桜の樹に寄りかからせた。


 その瞬間。急に風が強く吹いて――――…… まわりで咲いてる桜の樹々から、花びらが、ばーーっと散って、舞った。


 ――――……綺麗……。

 悠斗と。花びら、キャッチ、したなあ……。
 毎年。


 ふ、と顔を上げて、一つも咲いていない、桜の樹を、見上げる。


 どうして、咲かないの……?
 本当に、悠斗が、居ないから?


 そう思った時だった。


「なあ」

 そんな声が聞こえた。

 瞬間。また、風がものすごく、強く吹いた。

 わ……何。これ。 

 スカートがめくれないように押さえて。
 風が収まってから、その声の方を見たら。

 背の高い、私服姿の男の子。黒のTシャツにジーンズ。

 茶髪。ピアス。とにかく、なんだかすごく、派手。顔は……すごく整ってる、のかもしれないけど。どう見ても。
 不良さん、としか思えない……。

 ……何この人。怖い……。
 涙も忘れて、固まっていると。


「――――……あんまり悲しんでると、良くないぞ」
「――――……え?」

「……お前にもだし。……相手にも」
「――――……」

 ……相手? 相手って?? この人、何言ってるの……?
 今度は怖さも忘れて、固まる。





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