6 / 41
第一章
5.
しおりを挟む私を心配してくれる人達が居てくれて。ありがたい。
ちゃんとそう、思える。思えてる。
だから。……頑張るしかない。とも、思う。
……悠斗は居ないけど。
――――……ちゃんと。しないと。
外に出て歩き出す。でも、前が向けない。
悠斗と歩いた道。遊んだ道。
あちこちに、数えきれない位の、悠斗との思い出がある。
誘いに来てくれた悠斗と公園に向かう途中。あの花壇のレンガに乗って歩いてたら転んで。泣いてる私に焦ってた顔とか。
兄貴と喧嘩したとか言って、あのガードレールに寄りかかってて。珍しく怒ってたけど、話してたらその内、すぐいつもみたいに笑った顔、とか。
私を迎えに、この道を走ってきてくれてる時の、笑顔、とか。
顔を上げると。
――――……色んな悠斗が見えるみたいで。
ただひたすら、コンクリートを見ながら。俯いて、歩いた。
公園まで。ただ、斜め下。目に映るのは、灰色だけ。
公園について。
一番。悠斗と、一緒に居た、大きな桜。
悠斗と会った場所に近付く。
ひゅ、と喉が。変に空気を吸って。鳴った。
一番。思い出がたくさんある場所。
こんな、ことになるなら。
あの時、ここで、会わなきゃ良かった。
そんなことも、何度も浮かんできてしまった。
あの時、ここで会わなければ。
何時間も、悠斗と、遊んでいなければ。
私達があの日公園で遊んでる時に、私のお母さんと、悠斗のお母さんも知り合って、話をしていた。それがなければ、一緒に学校に行かせましょう、なんてことにもきっとならなかった。
そしたら、もしかしたらただの、クラスメートの一人だったかも。
もしかしたら、こんなに。
……死にたいと思う位、辛くはならなかった、かも。
そんなことも、何度か、考えてしまった。
でも、実際ここに立つと。
何年も何年も積み重なってた思い出が、たくさんよみがえってきて。
私は、ずっと、幸せだったと、思えて。
悠斗に会えてなかったら。
こんなに好きになれる人は、居なかったし。
あんなに、毎日幸せに生きてこられなかった。
涙をこらえて。
桜の樹の下に立つ。
ここでは、泣きたくなかった。
悠斗と、ずっと、笑ってた場所。
笑顔しか、無かった場所。
「――――……ほんとに……咲いてない……」
不思議な光景だった。
ほんとに、この大きな桜の樹だけ、花が咲いていない。
他の桜の樹は、全部咲いてるのに。悠斗と見た、つぼみのまま。
ここは、この公園の中でも、一番日当たりが良い場所で。
だから毎年、一番先に、咲き始める樹なのに。
「――――……どうしたの……?」
思わず、話しかけて、見上げた。
やっぱり。悠斗が居なくて、寂しいの?
――――……だったら。私と、一緒だね。
見上げた目尻から。勝手に、涙が流れていく。
ああ、だめだ。
……やっぱり。泣いちゃう――――……。
その時。後ろから。
「心春ちゃん……?」
ためらうように、静かに呼ぶ声が、した。
聞き覚えがありすぎる、その声。
振り返って――――……その声の主を確かめて。
「――――……おばさん……」
「良かった、やっと会えた」
――――……悠斗のお母さん。
私は俯いて、髪を直すふりをして、さっと涙を拭ってから。
こんにちは、と頭を下げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる