「桜の樹の下で、笑えたら」

悠里

文字の大きさ
上 下
5 / 41
第一章

4.

しおりを挟む


 明日は、入学式。

 ――――……私は。高校の制服を、着てみた。



 悠斗と一緒に通うはずだった、高校の、制服。

 悠斗は着れなかった。
 ――――……私だけ。この学校の制服。

 小学校の卒業式も。中学の入学式も、卒業式も。
 二人で写真を撮った。

 一緒に写真。
 ――――……撮りたかった。

 すぐ、涙が浮かぶ。
 涙が枯れる日なんか、来ないと思う。

 

 ――――……でも頑張る。
 頑張るしか、ない。


 悠斗はきっと私に、頑張れって、言うと思うから。


 ……見せたかったな。この制服着たとこ。
 見てほしかった。

 似合うって。言ってくれたかな。
 もしかしたら。少し。照れたり。したかなあ……。


 照れくさそうに。笑うとこ。
 大好き。だった。


 今も――――……大好き。


「――――……」


 涙がまた溢れてきて。
 
 涙って、こんなに。
 堪えることすら間に合わないで、溢れ落ちるものなんだって。


 悠斗が、居なくなってから、思い知った。



「……あーもう……」


 だめだ。こんなんじゃ。

 悠斗は。泣いてるといつも慰めてくれた。
 泣かないでって言ってくれた。

 だから。泣いてちゃ、だめなんだ。



 溢れる涙が落ち着いて。
 顔が、まともになってから。

 一階に、下りた。 
 今日は休日。家族皆がリビングに居た。


「……おはよ」

 もうおはようの時間じゃないけど……。なんだかそれしか言えなかった。

 家族皆が、私を見て驚いてる。

 そうだ。お風呂とかで一階は通ったけど……リビングに顔を見せたのは、久しぶり、かも。

 皆、私が制服を着てることにもびっくりしてる。

「ごめんね。……私……頑張るから」

 そう言うと。
 皆が。ぐっと、泣くのを、堪えるみたいな顔をした。


 ――――……ごめんね。心配。かけて。
 心の中で、謝る。

「私、ちょっと……桜、見てくるね」

 私が悠斗とそこで会ったこと。皆、知ってる。あの日家族で花見に行って、人見知りの私が、初めて会う男の子とずっと遊んでて。それだけでも意外なことだったみたい。だから皆が、そこから覚えてる。

 その子が次の日になったら同じクラスで。それから一緒に通うことになって。ずっと桜の樹の下でおしゃべりして、ずっとずっと誰よりも仲良しだったことも。皆、知ってるから。


「気を付けてね」

 お母さんの、震える声を誤魔化すみたいな。笑い方。


「いってきます。すこし――――……長いかも……でも帰って来るから。 明日。学校だし」

 明日、学校に行くから。心配しないで。
 その意味を込めて、そう言ったら。

 皆、もう何も。言えないみたい。
 頷くだけ。

 …………涙もろいんだよね、うちの家族。


 引きずられて、また泣きそうになるけれど。
 なんとか耐えて、私は玄関から、外に出た。


 悠斗とお別れしたあの日以来。初めて、外に。


 卒業式の帰り道、肌寒かった気候は、すっかり春らしくなっていて。
 でも今日は少し風が強いみたいで。風が吹くと少しだけひんやりする。

 悠斗と、綺麗な桜の樹の下に居た時の、感覚。
 毎年、少し寒いね、なんて言いながら、お花見してたことを思い出す。



「――――……」

 色々な感情をぐっとこらえて。足を踏み出してみた。
 



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,442pt お気に入り:139

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:859pt お気に入り:139

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:584

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,171pt お気に入り:452

漫才の小説

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:9,627pt お気に入り:1

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:2,625

処理中です...