「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第二章

1.

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【side*上宮 伊織うえみや いおり


 中学の卒業式が終わって、春休みに入った頃だった。

 家から空手の道場に行くまでの道、いつも通る公園の、一番大きな桜の樹の下に――――……また一人、ことに気付いた。

 世の人が言う『霊』というもの。
 オレは、それが見える。

 神社の息子だからなのか何なのか。
 とにかく、物心ついた頃には、見えていた。

 薄い感じの霊っぽいのも居るのだけれど、普通に人間のように見えてしまう霊もいる。

 小学生までは、それが人なのか、霊なのか区別が出来ないことが多くて、なかなか苦労した。今は雰囲気というか、立ち方とか、そういうので大体分かるようになってきた。でも、いまだに、分からないのも居る。
 
 神主のじいちゃんと父さんは、オレよりもっと多く見えるらしいし、それを祓うこともできる。それを仕事としても、請け負っている。

 父さんはあまり言わないが、じいちゃんは、オレに経験を積ませて修行させて、跡を継がせたいらしい、が。

 ……大体、霊に関わると、大体ろくなことがない。
 嫌な思い出しか、無い。

 そもそも霊は、自分を見える人間を好む。目が合うと。寄ってくる。
 よく憑かれて帰って、じいちゃんや父さんに祓われた。

 引き寄せる体質だとじいちゃんはよく言う。気をつけろと。目を合わせるなと。でも、最初、人にしか見えない奴は、マジで困る。目が合ってから、霊だと気づくんだから。

 ――――……もし、神主を引き継ぐにしても、出来たら、お祓いはしたくないとも思っていて、この能力を強くするような修業はしたくない。

 なので、ほんとなら、霊だと確信した時点で、見えない振りで通り過ぎる。



 桜の樹の下。
 空手帰りのオレは、ちらりと視線を向けた。

 あいつ、朝も居たよな……。
 普通の人間なら、朝からの数時間。一人で桜の樹の下に立ち続けることは無いだろう。てことは。あれは、霊か。

 いつものように、通り過ぎようと思ったのだけれど。
 あの男って――――……と、少し気になってしまった。

 ここは、小・中学校の時の通学路でもあるし、空手の道場への通り道でもある。昔からずっと、通ってた、

 多分あの男は、しょっちゅう、女と二人で居る所を見かけた奴じゃないかな……。

 もう本当に何年も何年も。この桜の樹の下で、見かけていた。
 よく飽きずに、そんなに話すことあるなぁと、なんとなく不思議に思う程度だったが。

 多分――――……あの二人の、男の方、だよな……。

 霊なのか? 
 もしかして、ただ朝から、女の方を待ってるとか? ……喧嘩したとか??

 気になってしまって、思わず少し近づいてみたら。


 完全に、目が、合ってしまった。

 ……あぁ、やば。目が合った。
 目が合った瞬間に、霊だと、分かった。


「――――……もしかして……オレが見えるの?」

 話しかけられた。
 視線を外して、無視。

 ……もうこの、視線を外す動作で、見えている事が絶対バレると分かっているが。


「もしかして、声も聞こえる?」

 はー。……まずいなぁ。

「ねえ、オレが見えるの?」
「……見えねーよ」

 霊の声は、他の奴には聞こえないが、オレが霊に話す声は、他の奴に聞こえてしまう。小さな声で、はー、とため息を付きながら答えた。

「話せるの?」
「話せない、独り言」

 もう。見えてるし、話せるって、伝えてるようなものだけど。
 ……まあ、それも分かって、答えた。

 ――――……悪い霊には、見えなかったから。


「何だよ、それ」

 そいつは、霊のくせに。
 すごく、穏やかに。くすっと笑った。


 ……笑うな、霊のくせに。


「何で、オレが見えるの?」
「――――……はー……」

 もう完全に会話になってしまってる。


「家族や友達、ここ通るけど……誰にも見えないみたいなのに」

 ため息交じりの言葉。 
 オレはもはや諦めて、桜の樹に近付いて、寄りかかった。

 俯いて、他の奴には聞こえない声で、そいつに答える。


「――――……オレ、神社の息子。……だからか分かんないけど、昔から、見える」

 そう言うしか無くて、伝えると。


「あー。なるほど。そういうことなんだ……そっか」

 ふうん、と納得した顔。


 ――――……穏やかな、霊だな。

 何がしたくて、残ってるんだ?

 ――――……まあ……この場所に居るってことは、気がかりなのは、片割れの子なんだろうけど。


 ちら、と視線を流すと。
 そいつは、オレを見て、ふ、と笑った。



「――――……なんか、嬉しいな、また誰かと話せると思わなかった」
「……」

 穏やかな声と言葉に、黙ってそいつを見つめ返すと。


「名前、何? 教えてよ」
「……上宮 伊織」

「伊織って呼んでいい?」
「……好きにすれば」

「ありがと。……よく分かんないけど、オレがここから離れられるまでかなあ。それまでよかったら、話してくれたら嬉しいな……。 あ、オレは、相沢悠斗。悠斗でいいよ?」


 ……自己紹介まで、しあってしまった。






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