「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第三章

5.

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【side*心春】


「じゃあまた明日ね」
「うん」

 彩と別れて、一人で家までの道を歩く。

 悠斗との思い出を追いたくなくて。
 一人の時は、俯いて歩いてしまう。

 学校は今日も早く終わった。
 今週は、お昼無しで早く終わるみたい。部活動の見学とかも、来週から。
 ショッピングモール、昨日は一棟と少し、聞き終わったし。関係ない所を除いていくと、意外と早く回れるかも。

「――――……」

 ふ、とため息をついてしまう。


 ……悠斗は、居なくなったけど。
 日常の世界は、いつも通り、進んでいく。

 悠斗が居なくても。
 世界はそのまま。


 それがものすごく切なくて――――……何だか、虚しい。


 ほんとなら、悠斗も居て。
 一緒に通って。
 一緒に学校で、過ごして。笑って。楽しくて。

 そんな未来もあったかもしれないのに。
 
 あの時の電話で。
 ――――……私が引き止めなかったら。

 あの電話、分かった、って、すぐ切っていたら。


 ――――……何秒か、違ったら。

 悠斗は事故に遭わなかったかも。


 そしたら。
 ――――……今も、側に居てくれたかも。


 考えても仕方ないことだけど。分かってるけど。

 ほんの数秒、数メートル、それだけのことで、運命が変わるのは、知ってる。
 そういうことが、時に人生で起きてしまうことは、きっと誰でも、知ってる。


 でも多分。身近で起こるまでは、他人事で。


 その僅かな差について、どうして、と思うのは。
 起こってから。



 ――――……考えても仕方ない。

 事実は、今、悠斗がもう居なくて。
 これから先も、ずっと居ない。


 ――――……大好きって。
 伝えることも。


 出来ないってことだけ。



「――――……」


 涙が、ぽつん、と零れ落ちた。


 あ。だめだ。
 ここは、外。……泣いちゃだめだ。

 そっと、顔を拭って、俯く。

 


 ――――……桜。少しは、咲いたかなぁ……。


 気になって、公園に足を向けた。


 もしかして上宮くん、居るかなあ……?
 ……でも居ないよね、そんなに公園に居るとか、無いよね。
 そう思いながら、公園に着いたら。

 ……上宮くんが。居た。

 お腹痛いとか言って早退して、何してるんだろう……と思ってしまう。

 私に気付いた上宮くんが、呆れたような顔をする。

「……また来たの?」

 その言葉を、そのまま返してもいいかな……。
 じっと見つめてしまう。


「……上宮くんは、何してるの? ここで」
「……咲かねえから、気を送ってる」

 思わず瞬き。
 本気かな。……んー、本気……? よく分かんない。

 でもなんか、送れそう。
 思ったら自然と、ふ、と笑ってしまった。


「何笑ってんだ、お前」
「だって――――……なんかほんとに気を送るとか、出来そうだなって思ったら……」


 クスクス笑ってしまって。あ、怒るかな、と思ったけど。
 ――――……何だか面白くなさそうに、視線を逸らすだけ。

 あ、やっぱり。
 怒らないんだ。こういうので、笑われても。


「……早退、何で?」

 そう聞いたら、ふっと視線を向けられて。


「……ちょっと気になる事があったから」
「……そうなんだ」

 ……よく分かんないけど。
 ――――……サボって遊びに行ってるとかじゃないんだよね。
 変な人だなぁ。ほんとに。


「……私がここで一緒に居た人の事、聞いたって、上宮くん、言ってたでしょ?」
「――――……ああ」


「……顔、知ってる?」

 聞くと、少し間を置いてから、知らない、と言われた。
 何でか分からないけど。見せたくなって。

 スマホの悠斗の写真を見せた。

「悠斗って言うの」
「――――……ああ」


 笑顔の悠斗。私、何でこの人に、悠斗を見せてるんだろう。
 ――――……でもなんだか……縛ってしまうとか。成仏できないとか。

 悠斗の側で、話すこの人に。

 顔、見せたくなったのかもしれない。


「……優しい人で。――――……ずっと一緒に居たんだけど……」
「……たまに見かけてたから、知ってる」

「――――……なんか」
「――――……」


「――――……さっきね。学校で……窓際で、カーテンがすごくなった時にね」
「――――……」


「……何でか、分かんないんだけど……悠斗を見た気がしたの」


 言った瞬間。上宮くんは、急に私に視線を向けた。


「見たって?」

「……わかんない。願望かもしれないけど……一瞬。見えた気がして」
「――――……」

「……上宮くんには、何も、見えなかった?」
「――――……」


 上宮くんは、無言で、首を振る。


「そうだよね。……ごめんね、変なこと、聞いて」

「いや……」


「じゃあ私、行くとこあるから。またね」
「……ああ」


 何だか、変なこと言っちゃった。
 私今、幽霊を見たって、上宮くんに言っちゃったんだよね。
 わー。何言ってんだろ、私。彩にも言えなかったのに。

 焦って、立ち去ろうとした瞬間。
 桜の幹に足を引っ掻けて。

 「キャ」と、声が出た瞬間。上宮くんが、咄嗟に手を出してくれて、支えられて。


 目の前に。
 私を支えようとする、心配そうな、悠斗が、一瞬見えた気がした。 
 でも、すぐに、消えた。


 力が抜けて、がく、と膝をついた、


「おい……? 大丈夫か?」

「――――……ッ……」


 不意に、ボロボロ涙が溢れ落ちた。


「……おい?」

 上宮くんが、目の前に座る。
  

「怪我した?」

 膝を見ると、少し血が出てた。

  
「泣くなって。……痛いか?」


 違う。怪我じゃない。


 ……悠斗が――――……また、一瞬だけ。
 見えたような。
 


 そんな訳ないのに。




 涙が。
 止まらない。







 
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