「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第三章

6.

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 泣いていたら。
 上宮くんが、困ったように。
 
「手当できる? 家に誰か居るか?」
「……ううん。大丈夫、自分で……」

「……結構血出てるぞ。――――……今の時間なら、オレの怪我手当してくれてた巫女さんが居るけど。来るか?」
「……悪いし」

「別にオレには悪くねえよ」
「――――……」

 どうしようと思ったんだけど。
 ……もしかして、神主さんに、会えるかも、とふと思った。
 少し。話、聞いてみたい、かも。
 
 そう思って、一緒に神社に向かうことに、なって。

 行く途中、痛いかとか、何回か聞かれてしまうのだけど。

 上宮くんて、私が、転んで痛いから泣いたと思ってるのかな。
 違うんだけど……。でもほんとの理由は説明できないし……。
 また悠斗を見た、なんて。さっき、なぜだか言ってしまって、すぐ後悔したし。


 神社について、鳥居をくぐって中に入った。
 奥の方にある、お守りを売ってる建物に上宮くんが近づいていく。

「こんちは、春香さん」
「あ、伊織、お帰りー」
「由紀さんいる? ちょっと手当してほしくて」

 言いながら、上宮くんが私を振り返る。

「あら? 女の子。どうしたの?」
「あら、伊織お帰りー」

 聞かれて、転んだと言おうとしたら、もう一人の女の人が どこかから戻ってきた。

「あら、女の子。何? 怪我させちゃったの?」

 そんな言葉に、私が焦って首を振る。

「勝手に私が転んだだげで……」

 言うと、二人が、クスクス笑い出した。

「分かってるよー」
「とりあえず手当しよっか。伊織、家入るよー救急箱借りる。清士郎さん、居る?」
「居ると思う」

「じゃあ伊織、ここお願い」
「――――……分かった」

 店番を頼まれた上宮くんが、頷いてる。
 上宮くんを呼び捨ての、仲良さそうな巫女さん二人に連れられて、裏のお家へ連れてこられた。

 引き戸をガラガラと開けて、「清士郎さーん」と呼ぶと。
 中から、一人の男の人。

「こんにちは。どうしたの?」

 格好が私服だから分かりにくいけど、でも見た事がある。
 神主さんだ。てことは、上宮くんのお父さん。

「こんにちは」

 そう言って頭を下げた。

「伊織の友達みたいなんだけど、膝怪我したみたいだから、救急箱、貸してください」
「ああ、ちょっと待ってね」

 優しい声。
 家に入れてもらって、座らされて、巫女さん二人が、あれこれ言いながら、手当してくれる。

「どうして怪我したの、これ?」
「樹の根っこに引っかかって……膝からついちゃって……」
「そっか。痛かったね……あ、お名前は?」
「安達 心春です」
「心春ちゃんね。私、由紀。こっちは、春香さんね」

 元気な由紀さんに気圧されながら、よろしくおねがいします、と言うと。

「心春ちゃんは、伊織の友達?でいいのかな?」
「クラスメートになったばっかり、です」
「そうなんだ。怖そうだけど、イイ子だから、よろしくね」
「伊織のお母さんも巫女さんだったんだけど、伊織が小さい頃に亡くなっちゃってね……由紀さんと私、伊織の母代わりだから」

 ふふ、と2人が笑う。

 ――――……お母さん代わり。
 そっか。お母さん、居ないんだ。
 上宮くんも、大事な人、亡くしてるんだな……。だから、なのかな。色々。

「んー、心春ちゃん、可愛い。お肌すべすべだね」
「え。そう、ですか?」

「いいなー、綺麗なお肌。羨ましくなっちゃう」

 二人がクスクス笑って、そんな事を言ってくる。

「前から思ってたんですけど……巫女さんの服って素敵ですよね」

 私がそう言ったら、二人とも、ぱあっと笑顔になって。

「心春ちゃん、着てみる? いいよね、清士郎さん?」
「いいよ。……あれ? そういえば伊織は?」

「お守り売ってくれてるはず」

 由紀さんが笑いながら言うと、神主さんがクスクス笑った。

「伊織、昼食べてないから、手当が終わったら呼んできてもらえる?」
「あ、じゃあ、私替わってきます」

 春香さんが立ち上がって、玄関を出て行く。


「心春ちゃんは、お昼は?」
「あ、家に置いてあるんですけど、家帰る前に怪我してここに来て……」

「……良かったら一緒に食べる?」
「え。いいえ、そんな」

「おじいちゃんが急に昼は外で食べてくるとか言うから、一人分余ってて」

 クスクス笑う。

「食べてから、巫女の衣装、着たら?」

 え、私、巫女の衣装着る事になってる?
 神主さんの言葉に驚いてると、由紀さんが笑った。

「いいね、食べておいで、そしたら、ちょっと着てみようよ。すぐ着れるから。写真、撮ってあげるよ?」

 手当を終えながら、由紀さんが笑う。
 断りにくい雰囲気。

「……いい、んですか?」

 聞くと、二人がもちろん、と頷いた。

「じゃあ、戻るから、食べたら、また来てね」
「はい」

 由紀さんが外に出て行って、神主さんと2人になった。
 神主さんが救急箱を片付けている。


「あの……」
「うん?」

「ちょっと、聞いても、いいですか?」
「どうぞ?」

 こちらをまっすぐ見て、神主さんが、少し離れた所に座った。

「あの――――……幽霊って……居ますか?」
「ん……? どういうこと?」

「……私……ずっと仲良かった幼馴染が三月に亡くなって……今日……その人を見た気がするんです。二回も」
「――――……」

「それって……私が会いたいと思ってるから幻が見えてるのか……それとも、幽霊、なのか……」

 私の質問を、私を振り返ってじっと見つめながら聞いていた神主さんは、少し、頷いた。


「あのね、心春ちゃん。信じてもらえるかわからないけど……霊というものは存在してると、私は、思ってる。ただ、小春ちゃんが見たものが霊なのかどうかは、見てないから分からない。今言ったみたいに、姿を見たいと望むあまりに、幻を見たって事も、あるかもしれないし」
「――――……」

「ただね、一つだけ言えるのは、例えばそれが霊だったとしても、生きていた時に心春ちゃんと居た人とは、別の存在だと思った方がいい」
「――――……」

「言ってしまうと、違う世界の存在だと、思った方がいい」

「――――……」

 ゆっくり。噛みしめるように、頷くと。
 神主さんは、ふわ、と笑んだ。

「思い出してあげることは、良いと思うよ。人は、死んでも、誰かの心に生きていれば、完全に消えないでいられると私は思っててね。思い出して、懐かしんで、自分はその人の分も頑張って生きていくからと思って、前を向いていく。それが亡くなった人にとっても嬉しい事だと思うし、残された人も、そうやって、前をむいて生きていける――――……って。よく神主として話す事、なんだけど……意味、分かるかな……?」

「――――……分かります」

 頷いた瞬間。

 何だか急に溢れてきた涙が、ぽたぽたと、零れ落ちた。


 その時。玄関が開いて上宮くんの声。


「なんか飯食ってく事になったって聞いたけ――――……」

 私たちの居る部屋に入ってきた上宮くんは、とっさに顔を上げてしまった私の顔を見ると、ぴた、と固まって。



「うわ、お前、こんな僅かな間にまた――――……今度はどした?」

 と、何だかすごく、心配してるし。
 この人。ほんと。最初の印象と、違うなぁ……。


「だ、いじょうぶ。ちょっと……お話を聞いてたら……泣けてきちゃった、だけ……」

「泣かすなよ、父さん……」
「あー……ごめんね」



 ――――……なんだか、やり取りが優しくて。
 泣きながら、でも。くす、と笑ってしまった。






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