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第三章
14.
しおりを挟む二人で、桜の樹の下に、座った。
「……伝えなくていいのか? 気持ち」
「今伝えても、心春が困るだけだから」
「……心春は困らないと思うけど。お前の言葉を忘れないで、ちゃんと生きてくと思う」
「……伊織、心春のことよく分かってるみたいだね……」
「……分かんねえよ。まだ会って数日だし」
はー、とため息。
「けど、心春が悠斗を好きだったのは本気だと思うし、お前だって」
オレがそう言いかけた瞬間。
悠斗がオレを見て。そのまま、オレ越しに何かを見つけて――――……。
また風が吹いて、ざあっと、桜が舞った。
「――――……っ……」
振り返るまでもなく、もう分かっていたけど。後ろに心春が立っていた。
「伊織……」
「お前。……つか。不良か。二日も夜に、何してんだよ」
「昨日は、伊織帰れたかなって心配で……連絡網でお家に電話したら、今公園に寄っててって、おじいさんが言うから。……今日も、話したいことがあって、電話したら――――……お父さんが、公園に行ったって」
「つか、親、心配するだろ」
「昨日は勝手に出ちゃったから心配されちゃったけど……今日は出てくるって言ったよ。お父さんがそこまでついてきて……昨日助けてくれた伊織が居て話したいって言ったから帰ってくれた。少ししたら帰るって言ってあるから、大丈夫」
その言葉を聞いて、ため息。
「それで? ……何か、用か? 話したいことって?」
聞くと、心春は、じっとオレを見つめた。
「……今日ね、伊織が、帰っちゃった後……皆に話したの。昨日の話、ちゃんとした。絡まれて、守ってくれただけだって。彩も分かってくれたし、他の皆も聞いてくれてた。もう今日みたいにはならないよ。だから。伊織も早退とかやめて、一緒に……過ごそうよって……言いたくて、電話、したんだけど――――……」
「――――……別にそんなのどうでもいいのに」
「どうでも良くないよ。どうしても伝えたくて……電話したの」
「――――……」
「用は――――……それ、だったんだけど……」
心春は、ぐ、と自分の手を握り締めて、オレを見つめた。
「伊織」
「――――……」
「悠斗は――――……ここに、居るの?」
「――――……」
「伊織……?」
心春のまっすぐな視線。
多分心春は。
悠斗が見えるとか、話せるとか。
そんな訳はないと、理屈では、思いながらも。
感覚で。悠斗を感じてるのかも、しれない。
「……今ここに居るって言ったら、信じるのか?」
「――――……」
「オレが居るって言ったら、信じるのか? 父さんに聞いたろ? 別のものだと思った方がいいって」
「……でも。伊織が、悠斗が居るって言うなら、信じる」
「お前が見えてないの良い事に……適当なこと言う可能性だってあるだろ」
「信じるよ。伊織は、そんなことで嘘ついたり、しない」
「――――……」
「―――……伊織が、居るっていうなら、伊織を信じるよ」
オレは。悠斗を、見つめた。
悠斗は、ふ、と笑って、頷いた。
「――――……伊織は、悠斗と、話せる、の?」
「……お前が信じるなら」
「信じる」
即答されて、言葉に詰まる。
しばらく見つめ合って。
「――――……なら。話せる」
覚悟を決めて、オレがそう言うと。
心春は、少し息を止めてから。
「……じゃあ。悠斗に、聞いて、くれる?」
そう言った。
「あの日――――……何を、言おうと、してたか」
心春の瞳はまっすぐで。
オレは、悠斗を、見つめた。
すると心春は、オレの視線をたどって。
「こっちに、居る、の?」
そう言って。涙ぐむ。
「お誕生日、おめでとうって、伝えて」
悠斗が言うまま、心春に伝えると。心春は、頷いた。
「うん。……あとは……?」
と心春。
悠斗は、それだけ、と言う。
「それだけだって」
「あの日、何か――――……伝えたいことが、あるって……」
オレは、悠斗を見た。
悠斗は、首を振る。
「それだけだって、言ってる」
「――――……」
オレの言葉に、心春は、言葉を止めた。
「伊織、あとこれも、伝えて? ――――……車に気を付けて。食べ過ぎないように。頑張りすぎないで。体、冷やさないように。マフラーとか手袋とか、忘れないでねって」
悠斗が言うまま、言葉を伝える。
「……マフラーと手袋って……私……よく忘れてた、からだね」
心春が、泣きそうに、顔を歪めて――――……少し、笑う。
「……これから夏だよ……?」
心春が、震える声で小さく呟く。
「……元気でって。伝えて」
――――……悠斗の言葉を、また、伝える。
「――――……ほんとに……それ、だけ?」
オレを見つめた、心春の瞳から、涙が溢れ落ちる。
オレは、頷く。
「それだけだって、言ってる」
オレの声も――――……少し、震える。
――――……悠斗は言わないけど。伝わってくる。
一緒に居たかった。
心春をずっと、この手で守って、
優しくして、愛して、ずっと一生。
悠斗は、言葉にしていないのに。
なぜだか、――――……考えてる事が、伝わってくる。
もしかしたら――――……。
触れば、また、心春に悠斗を、見せることができるのかもしれない。
顔を見れば。全部、伝わるに違いないのに。
……危険、だと父さんは言ってた。
危険。
――――……確かに……どんな衝撃が来るか。
くそ。
ほんとは――――……ダメだと思う。でも。
「悠斗……居る、の? ――――……ほんとに……それだけ、だった?」
心春の言葉に。
悠斗は、答えないのに。
伝わってくる。
大好きだよ、心春。
ずっと、そばで守りたかった。
悠斗の気持ちが流れてくる。
この気持ちを言わないで、いくつもりなのかと。
腹が立ってくる。
「――――……っ」
父さん、悪い。
――――……言いつけ。破る。
オレは、心春の手を取った。
「覚悟、しろよ?」
「――――…………」
オレの言ってる意味が分かったとは思えないけど。
心春は、オレを見て、うん、と頷いた。
オレは、悠斗の手を掴んだ。
え。と驚く悠斗を、引き寄せて。
心春と悠斗の手を、右手でひとつかみにして。それから、心春の手を、悠斗に、触れさせた。
バチ!と電気が走って。
一瞬ものすごい痛みが走った。
だめかと、思ったけど、ふっと、少し、落ち着いた。
オレが心春の手を離しても、悠斗と心春が、手を、繋いだまま。
お互い、まっすぐ、視線が絡んで。
見つめ合えてることが、分かる。
オレは二人の手首を、ぐ、と握る。
気を抜くと。
――――……弾かれそうな、力を感じる。
「……あんまりもたねえ、かも。早く話せ……」
オレの言葉に。
心春は、悠斗を、まっすぐ、見つめた。
「……悠斗――――……」
心春の瞳から、涙が溢れる。
「――――……プレゼント……ありがとう。大事にするから。ずっと」
「……うん」
悠斗は、ふ、と笑んだ。
「心春」
「……うん」
「大好きだったよ。心春」
「私も……大好き」
「心春の笑った顔が、ほんとに、大好きだった」
「……うん。……っわか、た」
涙一杯の目を拭って。心春は、笑う。
でも堪えきれない涙が、溢れ落ちていく。
「……心春の誕生日が、命日になって、ごめんね」
そんな風に笑った悠斗に、心春は、泣きながら、苦笑い。
「絶対忘れない、から。……いいよ……一緒に…大事な日に、するから」
また涙、溢れる。
「うん。その日だけは、思い出して。オレが、心春のこと、大好きだったって……」
「…その日だけじゃない、よ。忘れないから」
「――――……心春……」
「悠斗……あのね……」
「……ん?」
「……っずっと一緒に居てくれて――――……ありがと……!」
ずっと話させてやりたいけど。
「そろそろ、限界かも……」
バリパリ、と電気みたいなのが、手を駆け抜けていく。
こうなるのか。このままだとどうなるんだ。
とりあえず。よく分からないまま、とにかく、ぐっと抑える事だけに集中する。
「――――……心春」
悠斗は、心春に近付いて――――……。
キスを。唇に、するのかと思ったら。
額に、そっと、キスした。
「元気で」
心春が頷くと。悠斗は。幸せそうに。笑って。
心春の手を、離した。
心春の視界から、悠斗は消えたみたいだったけれど。
まだオレの目の前には、居る。
「伊織。ありがと。伊織の事も大好きだよ」
悠斗が、笑う。
「……オレ、実はもう、心配してないんだ」
ふ、と笑って。
悠斗は、オレを見た。
「心春を――――……よろしくね」
「――――…………」
どんな気持ちで言ってるのか。
悠斗の気持ちを思うと、涙が滲む。
唇をかみしめて。――――……すこしだけ。頷いた。
「ありがと」
悠斗は、優しい笑顔を、オレに見せて。
そのまま。見えなくなった。
突然。
張りつめていた力が抜けて。
流れていた電気みたいな力も、ふっと、抜けた。
少し強く、風が吹いて。
桜が舞って。
花びらが舞い落ちたら、完全に無風。
しん、と静まり返った。
住宅地のど真ん中なのに、異様な位、何の音も、しない。
オレの顔を見ていた心春は。
多分、悟っていて。
「――――……悠斗、は……?」
もう答えも分かっているだろう表情で。
涙を、ぽろぽろ溢れさせながら、そう聞いてきた。
「……もう、オレにも、見えない」
「――――……っ……」
うん、と頷いて。
それから、なぜか少し笑おうとした心春は。
涙を溢れさせた。
がく、と膝が抜けたみたいで。
地面に、膝をついた。オレも咄嗟に一緒にしゃがんで、支えて。
「――――……っ」
ボロボロ零れ落ちてくる涙に、心春は、俯いた。
その腕を掴んで、引き寄せて。
思わず、抱き締めた。
「……気が済むまで――――……泣けよ」
最後の悠斗の表情がまざまざと浮かぶ。オレも、泣いてしまった。
たくさん泣いて。
心春は疲れきったみたいで、眠ってしまった。
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
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