「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

文字の大きさ
40 / 41
第三章

14.

しおりを挟む



 二人で、桜の樹の下に、座った。


「……伝えなくていいのか? 気持ち」
「今伝えても、心春が困るだけだから」

「……心春は困らないと思うけど。お前の言葉を忘れないで、ちゃんと生きてくと思う」
「……伊織、心春のことよく分かってるみたいだね……」

「……分かんねえよ。まだ会って数日だし」

 はー、とため息。

 
「けど、心春が悠斗を好きだったのは本気だと思うし、お前だって」
 
 オレがそう言いかけた瞬間。
 悠斗がオレを見て。そのまま、オレ越しに何かを見つけて――――……。

 また風が吹いて、ざあっと、桜が舞った。

「――――……っ……」


 振り返るまでもなく、もう分かっていたけど。後ろに心春が立っていた。


「伊織……」

「お前。……つか。不良か。二日も夜に、何してんだよ」

「昨日は、伊織帰れたかなって心配で……連絡網でお家に電話したら、今公園に寄っててって、おじいさんが言うから。……今日も、話したいことがあって、電話したら――――……お父さんが、公園に行ったって」

「つか、親、心配するだろ」

「昨日は勝手に出ちゃったから心配されちゃったけど……今日は出てくるって言ったよ。お父さんがそこまでついてきて……昨日助けてくれた伊織が居て話したいって言ったから帰ってくれた。少ししたら帰るって言ってあるから、大丈夫」

 その言葉を聞いて、ため息。

「それで? ……何か、用か? 話したいことって?」

 聞くと、心春は、じっとオレを見つめた。

「……今日ね、伊織が、帰っちゃった後……皆に話したの。昨日の話、ちゃんとした。絡まれて、守ってくれただけだって。彩も分かってくれたし、他の皆も聞いてくれてた。もう今日みたいにはならないよ。だから。伊織も早退とかやめて、一緒に……過ごそうよって……言いたくて、電話、したんだけど――――……」

「――――……別にそんなのどうでもいいのに」

「どうでも良くないよ。どうしても伝えたくて……電話したの」
「――――……」

「用は――――……それ、だったんだけど……」


 心春は、ぐ、と自分の手を握り締めて、オレを見つめた。


「伊織」
「――――……」


「悠斗は――――……ここに、居るの?」
「――――……」


「伊織……?」


 心春のまっすぐな視線。


 多分心春は。
 悠斗が見えるとか、話せるとか。
 そんな訳はないと、理屈では、思いながらも。

 感覚で。悠斗を感じてるのかも、しれない。



「……今ここに居るって言ったら、信じるのか?」
「――――……」


「オレが居るって言ったら、信じるのか? 父さんに聞いたろ? 別のものだと思った方がいいって」

「……でも。伊織が、悠斗が居るって言うなら、信じる」

「お前が見えてないの良い事に……適当なこと言う可能性だってあるだろ」
「信じるよ。伊織は、そんなことで嘘ついたり、しない」
「――――……」

「―――……伊織が、居るっていうなら、伊織を信じるよ」


 オレは。悠斗を、見つめた。
 悠斗は、ふ、と笑って、頷いた。


「――――……伊織は、悠斗と、話せる、の?」

「……お前が信じるなら」

「信じる」

 即答されて、言葉に詰まる。
 しばらく見つめ合って。
 

「――――……なら。話せる」


 覚悟を決めて、オレがそう言うと。
 心春は、少し息を止めてから。


「……じゃあ。悠斗に、聞いて、くれる?」

 そう言った。


「あの日――――……何を、言おうと、してたか」


 心春の瞳はまっすぐで。
 オレは、悠斗を、見つめた。

 すると心春は、オレの視線をたどって。


「こっちに、居る、の?」

 そう言って。涙ぐむ。



「お誕生日、おめでとうって、伝えて」
 
 悠斗が言うまま、心春に伝えると。心春は、頷いた。

「うん。……あとは……?」

 と心春。

 悠斗は、それだけ、と言う。

「それだけだって」
「あの日、何か――――……伝えたいことが、あるって……」

 オレは、悠斗を見た。 
 悠斗は、首を振る。

「それだけだって、言ってる」
「――――……」

 オレの言葉に、心春は、言葉を止めた。

「伊織、あとこれも、伝えて? ――――……車に気を付けて。食べ過ぎないように。頑張りすぎないで。体、冷やさないように。マフラーとか手袋とか、忘れないでねって」

 悠斗が言うまま、言葉を伝える。

「……マフラーと手袋って……私……よく忘れてた、からだね」

 心春が、泣きそうに、顔を歪めて――――……少し、笑う。


「……これから夏だよ……?」

 心春が、震える声で小さく呟く。


「……元気でって。伝えて」


 ――――……悠斗の言葉を、また、伝える。


「――――……ほんとに……それ、だけ?」

 オレを見つめた、心春の瞳から、涙が溢れ落ちる。
 オレは、頷く。


「それだけだって、言ってる」

 オレの声も――――……少し、震える。


 ――――……悠斗は言わないけど。伝わってくる。



 一緒に居たかった。
 心春をずっと、この手で守って、
 優しくして、愛して、ずっと一生。


 悠斗は、言葉にしていないのに。
 なぜだか、――――……考えてる事が、伝わってくる。

 もしかしたら――――……。
 触れば、また、心春に悠斗を、見せることができるのかもしれない。


 顔を見れば。全部、伝わるに違いないのに。

 
 ……危険、だと父さんは言ってた。

 危険。
 ――――……確かに……どんな衝撃が来るか。


 くそ。
 ほんとは――――……ダメだと思う。でも。


「悠斗……居る、の? ――――……ほんとに……それだけ、だった?」


 心春の言葉に。
 悠斗は、答えないのに。

 伝わってくる。



 大好きだよ、心春。
 ずっと、そばで守りたかった。


 悠斗の気持ちが流れてくる。


 この気持ちを言わないで、いくつもりなのかと。
 腹が立ってくる。



「――――……っ」



 父さん、悪い。
 ――――……言いつけ。破る。



 オレは、心春の手を取った。



「覚悟、しろよ?」

「――――…………」

 オレの言ってる意味が分かったとは思えないけど。
 心春は、オレを見て、うん、と頷いた。


 オレは、悠斗の手を掴んだ。
 え。と驚く悠斗を、引き寄せて。

 心春と悠斗の手を、右手でひとつかみにして。それから、心春の手を、悠斗に、触れさせた。

 バチ!と電気が走って。
 一瞬ものすごい痛みが走った。

 だめかと、思ったけど、ふっと、少し、落ち着いた。

 オレが心春の手を離しても、悠斗と心春が、手を、繋いだまま。
 お互い、まっすぐ、視線が絡んで。


 見つめ合えてることが、分かる。


 オレは二人の手首を、ぐ、と握る。

 気を抜くと。
 ――――……弾かれそうな、力を感じる。



「……あんまりもたねえ、かも。早く話せ……」


 オレの言葉に。
 心春は、悠斗を、まっすぐ、見つめた。




「……悠斗――――……」


 心春の瞳から、涙が溢れる。


「――――……プレゼント……ありがとう。大事にするから。ずっと」

「……うん」


 悠斗は、ふ、と笑んだ。


「心春」
「……うん」

「大好きだったよ。心春」
「私も……大好き」

「心春の笑った顔が、ほんとに、大好きだった」
「……うん。……っわか、た」


 涙一杯の目を拭って。心春は、笑う。
 でも堪えきれない涙が、溢れ落ちていく。


「……心春の誕生日が、命日になって、ごめんね」


 そんな風に笑った悠斗に、心春は、泣きながら、苦笑い。


「絶対忘れない、から。……いいよ……一緒に…大事な日に、するから」

 また涙、溢れる。


「うん。その日だけは、思い出して。オレが、心春のこと、大好きだったって……」
「…その日だけじゃない、よ。忘れないから」
「――――……心春……」

「悠斗……あのね……」
「……ん?」

「……っずっと一緒に居てくれて――――……ありがと……!」


 ずっと話させてやりたいけど。


「そろそろ、限界かも……」

 バリパリ、と電気みたいなのが、手を駆け抜けていく。
 こうなるのか。このままだとどうなるんだ。

 とりあえず。よく分からないまま、とにかく、ぐっと抑える事だけに集中する。



「――――……心春」


 悠斗は、心春に近付いて――――……。
 キスを。唇に、するのかと思ったら。


 額に、そっと、キスした。


「元気で」

 心春が頷くと。悠斗は。幸せそうに。笑って。
 心春の手を、離した。


 心春の視界から、悠斗は消えたみたいだったけれど。
 まだオレの目の前には、居る。


「伊織。ありがと。伊織の事も大好きだよ」


 悠斗が、笑う。


「……オレ、実はもう、心配してないんだ」


 ふ、と笑って。
 悠斗は、オレを見た。


「心春を――――……よろしくね」
「――――…………」


 どんな気持ちで言ってるのか。
 悠斗の気持ちを思うと、涙が滲む。


 唇をかみしめて。――――……すこしだけ。頷いた。


「ありがと」


 悠斗は、優しい笑顔を、オレに見せて。
 そのまま。見えなくなった。


 突然。
 張りつめていた力が抜けて。

 流れていた電気みたいな力も、ふっと、抜けた。


 少し強く、風が吹いて。
 桜が舞って。

 花びらが舞い落ちたら、完全に無風。
 しん、と静まり返った。



 住宅地のど真ん中なのに、異様な位、何の音も、しない。


 オレの顔を見ていた心春は。
 多分、悟っていて。


「――――……悠斗、は……?」


 もう答えも分かっているだろう表情で。
 涙を、ぽろぽろ溢れさせながら、そう聞いてきた。



「……もう、オレにも、見えない」
「――――……っ……」


 うん、と頷いて。

 それから、なぜか少し笑おうとした心春は。
 涙を溢れさせた。


 がく、と膝が抜けたみたいで。
 地面に、膝をついた。オレも咄嗟に一緒にしゃがんで、支えて。


「――――……っ」


 ボロボロ零れ落ちてくる涙に、心春は、俯いた。


 その腕を掴んで、引き寄せて。
 思わず、抱き締めた。



「……気が済むまで――――……泣けよ」


 最後の悠斗の表情がまざまざと浮かぶ。オレも、泣いてしまった。
 
 たくさん泣いて。
 心春は疲れきったみたいで、眠ってしまった。







しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

処理中です...