「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第三章

13.

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 翌朝、悠斗は公園に居なかった。
 そのまま学校に行く。心春と、ものすごく、気まずい。

 怒ってるとか、そんな感じはしないが。
 ……昨日の夜のままだし、普通に話すような事も出来ないんだろうと。
 何となく話すこともなく過ごす。


 ふと、心春が友達と笑い合ってるのが目に入った。


『花が咲くみたいに、ふわふわと笑う子なんだ』

 悠斗が言ってた言葉を、思い浮かべる。

 今は――――……そんな風には、見えない。
 無理やり笑ってるみたいな。困ってるみたいな。


『笑ってても、なんか冷たくて』

 昨夜の心春の言葉も、頭をよぎる。
 ……なんとか頑張って、笑ってんのか。

 そんな事を、考えていた。

 三時間目が終わって、休み時間。心春が席を立たず、隣に居る。
 何か話す気なのか、と思うが、話しかけては来ず、固まってる。

 そんな時。

「なんか、警察沙汰になったらしいよ」

 ふと、そんな声が聞こえた。心春も聞こえたらしい。
 一瞬、顔を見合わせる。

 オレは、視線を逸らした。

「……心春」

 女子達が心春を呼ぶ声。心春がゆっくり立ち上がって、そっちに行くと。

「何か、上宮くんさ、昨日喧嘩してたんだって」
「……」

「怖いよね。上宮君」
「――――……」

 こそこそ話してるつもりだろうが、聞こえてんぞー、と思う。
 まあ別にこの位、心底どうでもいいが。
 むしろ、心春の方が可哀想かも。返事が出来ないみたいで。

「……不良ともめて、逮捕されたらしいし」
「離れてた方が、いいよ、心春」

 ちら、と目を向けると。喋っていた女子達が固まり。
 心春は、すごく困った顔をしてる。

 ――――……めんどくせえな。
 ため息をつきながら、オレは、ガタン、と立ち上がった。

「早退するわ」

 誰にともなく、言うと。心春が、え、と身を乗り出して来ようとした。オレが、視線を逸らして歩き出すと、固まってる。

 その前を通り過ぎて、オレは教室を出た。


 昨日の悠斗が気になってたから、ちょうどいいや。
 そのまままっすぐ、公園に向かった


 悠斗は、居なかった。
 しばらく待ったけど、出てこない。

 もしかしたら。
 悠斗は。消えたのかもしれない。

 ……それもありだ。霊なんだから。ずっとこっちに居て良い訳がない。
 ――――……だけど。


 もし、あれで、消えたんだとしたら。


 満足して、消えたんじゃない。
 心春の為に、消えたんだ。



 そう思うと。やりきれなくて。
 消えてない事を望んでしまう。



◇ ◇ ◇ ◇


 十五時から空手が始まるのを待って、道場に入った。いつもなら夕飯前に帰るが、今日は途中コンビニで夕飯を買って、社会人の時間まで参加した。

 大人と戦うので、もちろんかなりキツイ練習になったが、なんとなく今はちょうど良かった。一番最後まで練習をした。

 帰り道。
 公園を通ったけれど、悠斗は、居ない。

 今度は待たず。
 家に帰った。


 シャワーを浴びて、水を飲んで。
 そしたら、急に、いたたまれなくなって。


「 ――――……悪い、父さん、少しだけ出てくる」
「え?」

「……公園――――……行ってくる」
「……気を付けてね」

 父さんの言葉に、頷いて、家を出た。



 公園に着いたけど。悠斗は居ない。


 でも。
 桜が、咲いていない。


 桜が咲いてないって事自体が。
 ――――……悠斗が消えていない、証拠、な気がした。

 根拠なんか無いけど。
 そんな気がした。



 桜の樹の下に立って。
 しばらく、樹に触れて、見上げた。


「――――……悠斗」

 一度、静かに、呼びかける。返事はない。


「……悠斗……居るんだろ?」

 もう一度。


「……出てこいよ!! 満足してる訳、ないだろ……悠斗……!」


 今度は思わず。叫んだ。


 数秒。静かな時が流れて。



「――――……あのさぁ……伊織の声は、周りの人に聞こえるんだよ? 噂に拍車がかかっちゃうよ?」


 悠斗の声。

 そっちを振り返ると。
 悠斗の、姿。

 ふ、と力が抜けた。



「悠斗――――……」



 誰かの顔が見れたことで――――……こんなにほっとして。
 泣きそうになったことが、あっただろうか。


「……伊織はさ。きっとお父さんたちには頼まないし……頼めないだろうから。だったら、オレが自然と消えたことにしようと思ったのに。伊織や心春に絡まずに、離れてれば……その内。消えられるかなと思って……」

「……心配、しただろ」

 そう言うと。悠斗は、ふ、と笑った。


「心配……オレ幽霊だけど?」
「関係ない。悠斗は悠斗だろーが」


「――――……はは。なんか、ちょっと感動する……」



 少し、泣きそうに。顔を歪めて。
 それから、また笑う。


「ありがと、伊織」



 ――――……本当に。
 消えてなくて、良かった。







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