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第三章
12.
しおりを挟むじいちゃんと別れて、悠斗の所に着いた。
「何かあった? 伊織」
「何でそう思う?」
「……何となく。おじいさんと帰ってきてるしさ」
「……悪い。今日――――……心春をちょっと巻き込んだ」
「え?」
今日会ったことを、悠斗に話した。
「何だ――――……それ、伊織は悪くないじゃん。ありがと、心春守ってくれて」
「でもオレと居るとこ、見られてなければ、あいつが絡まれることは無かったはずだから」
「――――……まあでも……怖がってなかった?」
「……怖かったと思うけど。警察来ると面倒くせえから離れてろって言っても、離れねえし。……頑固だな、あいつ」
「――――……そう、かもね。 譲らない所は、あるかも」
ふふ、と悠斗が笑う。
「ちゃんと、見つけたぞ。お前のプレゼント」
「――――……ありがと」
「……オレは何も言ってない。外も見てみるかって言って出ただけ。外に出たら、悠斗と一度来た事があるって言い出してさ。悠斗が店員と何か話してたって思い出して。その店、自分で見つけてた」
「――――……結構前なんだけど。覚えてたんだ、心春」
「らしいな」
「そっか……良かった。喜んでた?」
「すげえ喜んでた。まあ。……すげえ、泣いてたけど」
「はは、そっか――――…… ありがと、伊織。すごく、嬉しい」
しみじみ言って、悠斗は笑う。
またいつものように桜の下で、座りながら、とりとめもなく話していたら。
不意に、悠斗がオレを見た。
「プレゼントが心春に渡ってさ。心残りが一つ、消えたんだよ。それでも、成仏ってやつ、しないんだね」
「――――……」
「どうしたら、オレ……消えるのかな?」
悠斗の言葉に、少し考える。
「オレに何かしてほしいこと、あるか?――――……悠斗がしてほしいことがあるなら……」
そう言った瞬間。
不意に人の気配。
振り返ったら――――……心春が、立っていた。
「は? お前何して……21時だぞ?」
「……今」
心春が、何だか必死に、オレを見つめてくる。
「伊織、悠斗って……言った?」
「――――……」
「悠斗って……どうして?」
まずったな、と思いながら。
「お前が、悠斗悠斗言ってるから。つい口に出ただけ。そいつとここにずっと居たんだろ?」
意味がわかんねえ言い訳。
それを聞いた心春が、唇を噛みしめる。
「――――……伊織には……見えてるの?」
「何が?」
認めるわけにはいかない。すっとぼけるしかない。
「悠斗が、見えるの……? 伊織と居ると……悠斗が、見える気がするの。昨日もそうだった」
「――――……」
「……悠斗、見えるの? 話せるの?」
言ってて、感極まったのか。心春が、泣きだした。
悠斗は、心春の側に立って。
泣きそうな表情で、心春を見ている。
――――……キツイ。ほんとに。
この二人がどんなに思いあってたか。
今となっては、誰よりも知ってる気がする。
「悠斗に会いたい――――……悠斗に会えるなら死んでもいい。……でもきっと、死んでも……死んだりしたら、悠斗は会ってくれない……。だから、死ねない……」
「……心春」
「……でも、毎日、心が冷たくて。笑ってても、なんか冷たくて」
「――――……」
泣いてる心春に、そっと触れる、悠斗。
触れても。気づかないのに。
優しく、髪の毛を撫でているような仕草で。
オレは、目を逸らした。
だから、嫌いなんだよ。だから。霊の事情に絡むと。ろくなことが無い。
楽しいことなんか、無い。
切ないだけ。
恨みか、憎しみが、愛情か、とにかく、強い気持ちが残ってる。
恨みが強い霊は質が悪い。それは、じいちゃんや父さんの、仕事の範疇。
愛情が強すぎて残ってる奴は――――……多かれ少なかれ、こんなんだ。
この二人は。
何年も思いあってきて。いよいよ、告白しようという。
一番、愛しさが募ってる時に。
失って。
思ってた言葉を伝えられなくなった奴と。
永遠に聞けなくなった、奴。
伝わってくる空気だけで、涙が出そうだ。
「心春」
泣かないように、落ち着いてから、心春の名を呼んだ。
「落ち着けよ。……オレには、何も見えないし、話すなんて、できない」
「……うん。そう……だよね。ごめん……」
「家まで送る」
「いいよ。……近いし」
「送る」
「――――……うん」
泣いてる心春を家まで送ってから、公園に戻った。
桜を見上げて立つ悠斗は。
オレを振り返って、少しだけ、笑った。
「――――……オレさ。早く消えた方がいいよね」
「――――……」
「……心春と、一目でも見つめ合えて、幸せだった。あの瞬間、心春はちゃんとオレを見てくれてた。今もあんなに泣いてくれて。もう十分だよ」
「悠斗……」
「オレがここに居て、もしまた見えたりしたら。心春が前を向けない」
「――――……」
「あのさ、伊織。……お父さんかおじいさんに、オレを送ってもらえないか、聞いてもらえない?」
「――――……悠斗……」
そんな言葉に。さっきから堪えていたものが溢れそうになる。
オレの顔を見て、悠斗は驚いた顔をして――――……苦笑い。
「何。もう――――……伊織まで、泣くなよ……」
「――――……泣いてねえし」
顔を背ける。
はは。と悠斗が少しだけ笑う。
「――――……普通なら、あそこで終わりだったんだよ」
「――――……」
「それがさ。伊織にも会えたし。心春のことも見れた。見つめ合うことも出来た。プレゼントも――――……伊織のおかげで、受け取ってもらえた。もう十分」
「――――……」
「考えといて。でさ。もう帰りなよ。警察につかまった日なんだから。ね?」
「――――……」
悠斗は、帰ってほしそうな気がして。
オレも、もう何も言える事が見つからなくて。今日の所は帰る事にした。
帰り道。
堪えていた涙が、ぽつ、と零れた。
「――――……っ」
心春と悠斗のせいで。涙腺がおかしくなってる。
あいつら、泣きすぎなんだよ……ほんとに――――……。
ぐい、と拭って。
十分だと言うけど。
ほんとに心残りがないなら、自然に消えるはず。父さんたちはそう言ってた。
てことは。
まだ心残りがあるはずで。
――――……想いを、伝えようとしていた。
心残りは、それ以外に無いと思うのだけれど。
一体それをどう伝えればいいのか。
分からない。
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