学内格差と超能力

小鳥頼人

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1巻 学内格差編

第5話 ①

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    ☆

「おっ、先にピッチで待ってるたぁ関心だ。身分が低いヤツぁそうじゃねぇとな」

 ピッチで待機していると、汚い台詞を吐く辻堂をはじめとした5組の面々が現れた。
 誠司曰く5組は運動神経が良い人が多く、1科クラスの中では二番目に強いんだとか。
「どんなイカサマを使って高沢たちから点を取ったのかは知らねぇが、俺等相手にそうはいかねぇぜ。相手がどんな雑魚だろうがフルパワーで叩き潰す。それが俺等の――」
「それではじゃんけんをしてください」
「おい石倉いしくらぁ! まだ喋ってんだろうが! つかオメェはいつも空気を読まな――」
「審判の僕に文句があるなら、5組の不戦敗にしますけど?」
「すんませんした」
 辻堂は審判に頭を下げる。しかし下げているのは頭だけ。
 なってないな。頭を下げる際は腰の角度を変えるんだ。頭だけ下げるのは、ただ下を向くのとなんら変わらないよ。
 と、俺が心の中でぼやいているうちにじゃんけんが終わっており、5組がキックオフをすることとなった。

「行くぞぉ! 2科の連中を全員まとめて病院送りにしてやろうぜぇ!」
「「「オオオーーッ!」」」

 5組生徒たちは大変物騒な目標で気合を入れている。もう少し爽やかな抱負とかはないのか。
 辻堂が味方にパスをする。パスを受けた男子はいきなりゴール手前で待機する男子の元へとボールを蹴った。
 距離は結構あるのにいとも簡単にあそこまで飛ばしてしまう。確かに誠司の言う通り、3組戦とは明らかに個々のレベルが違う。
 ゴール手前の男子にボールが渡り、受け取った男子はすぐにシュートをキーパーの――俺に向かって打ってきた。
 正面からボールがすごい速さで飛んでくる。
「ぐっ! ……な、なんとか取れたぁ」
 よし、手筈通りにっと!
 全身の力を右足に注入してボールを蹴った。
 だけど非力な俺の力ではピッチの真ん中付近までしか飛ばすことができなかった。
 6組男子がボールを取ろうとするけど、5組男子の方が走るスピードが速い。あっという間に再び5組にボールの主導権を奪われてしまった。
「今度こそ点を入れるぜ!」
 5組男子は立ちはだかる6組男子を軽くあしらい、再度ゴール手前までやってきた。その間およそ十秒。
 数名の6組男子がボールを奪おうと待機しているけど、実力差から奪い取るのは難しい。
 もう一度俺が止めるしかない。
 相手がどうシュートを打ってくるのか、素人では予測できない。
 しかし、俺が中学時代にかじったバドミントンで培った経験が色せてなければ、防げるかもしれない!
 シュートが放たれる。決断する時間はほんの一瞬――――左かっ!
 自分の動体視力と反射神経を信じて左方向に飛びついた。
 予想通り、ボールはゴールの左上めがけて飛んできた。
 よし、これもかろうじて止められ――――
「ッ!?」
 しまった! ボールが左手人差し指の先端に当たってしまった。
 シュート自体は止めたものの、指がジンジンと鈍痛を訴える。突き指だ。
「チッ。高坂の野郎、なかなかしぶてぇじゃねぇか。去年は一度もシュートを止められなかったのによ。ゴキブリかテメェはっつー話だわ」
 辻堂は忌々しそうに唾を吐いて俺を睨む。
 残念だったな。そう簡単に先制点はやれないんだよ。
 指の痛みはいっそう強まっていくが、怪我がばれたらまずい。上手いこと隠し通さないと。
 俺は平静を装いつつ、ボールを蹴り上げる。
「やば、蹴り損ねた!」
 足がボールにジャストミートせず、5組男子の真正面に飛ばしてしまった。
「おやっ、もう一度俺にチャンスをくれるワケ? ありがたいな!」
 相手は再びシュートを打ってくる。
 今度は俺の胸部目がけてボールが飛んでくる。
「――よしっ、また防いだ!」
 しかし、今の俺のプレーを見た5組男子は訝しそうな顔をこちらに向けてくる。
「なんでボールを腕で弾いてんだ? あの高さのボールなら普通はキャッチするだろうに。それに奴もさっきまでは……」
「もしやアイツ――へっ。試す価値はあるな」
 辻堂が汚い笑みを浮かべる。
「オイいいかお前等! 次からシュートは全て右上方向に打て! そうすりゃ簡単に点が入る」
 まずい! あっさり感づかれてしまった。
 さすがは辻堂。人の粗を嗅ぎつける能力だけは達人の領域だ。
 手の指を少し曲げて誤魔化しているけど、それでもずきんと痛みは走る。
 痛みで人差し指を動かせられない。つまり、キャッチが一切できない。
 かといってゴールの左端に寄れば、逆方向にシュートされて為す術もなくゴールインだ。
「全部右上方向? なんでだよ」
「実践すりゃ分かる話よ、ヒャハハ」
 どうしよう。このままじゃ指の怪我がみんなにばれてしまう。いっそキーパーを交代してもらうか?
 けど太一が「5組戦のキーパーは宏彰以外には務まらない」と言ってたしなぁ。なんでさっきの試合では俺がキーパーをしなくてよかったのかは知らんが。
 俺は今一度全力でボールを蹴った。よし、今度は結構遠くまで飛ばせたぞ。
「ヒャハハ、さっきから無駄に遠くへ飛ばそうとしすぎだってぇの! 競技間違えてねぇか?」
 辻堂の下品な高笑いがピッチ内にとどろく。
 あぁ、何度聞いても本当に気分を害する声だな。
 ――ん? 辻堂の他にもう一人、ボールに向かっている5組男子が。
 これって――

「「いってえ!」」

 ああ、やっぱり。辻堂とその5組男子は激しく衝突し、二人して転倒してしまった。
「てんめぇ、どこ見て走ってやがんだ!!」
 辻堂は立ち上がると、ぶつかった相手の胸倉を掴んで声を荒げた。
「す、すまん」
「チッ。ったく、俺の足引っ張んじゃねーよ!」
 うーん。今のはお互いに声をかけ合ってさえいれば防げたんじゃないかなぁ。辻堂にも非はあるでしょう。
 仕切り直し。現在は6組男子がドリブルをしている最中だ。
 ふとそこで、視界の端に違和感を覚える。
「――マジかよっ……!?」
 さっき辻堂とぶつかった男子が座り込んだままじゃないか。辻堂は気づいてないのか?
 クラスメイトだろう? なぜ誰も駆け寄りに行かないんだ!
 ていうか審判も試合を中断させてくれよ!
「おい辻堂! 仲間が倒れてるじゃないか! どうして、みんな放ったらかしのままでいられるんだ? クラスメイトでしょ!?」
 俺はゴールネット前から怒号を上げるが、
「アホが。今は試合中だ。試合時間を無駄にすりゃ、その分得点のチャンスも減っちまうじゃねぇか。今のあいつの状況は、あいつの自己責任だろ? ガキのお守りじゃねぇんだよ」
 辻堂は冷やかな表情で言葉を吐き捨てた。
 な、なんて恐ろしい奴だ。アイツには血も涙もないのか?
 辻堂だけじゃない。5組の生徒全員が、その場から動けないクラスメイトなど最初からいないかのようにスルーしている。
「ああもう!」
 俺はゴールネット前から飛び出した。
「お、おいっ?」
「誠司ごめん、少しの間キーパーを代わってくれ!」
 釈明はあとですると伝え、辻堂と衝突した男子の元へと駆け寄った。
「だ、大丈夫?」
「お、おい。キーパーのお前がなんでここにいるんだよ!?」
 俺が声をかけると、負傷した男子は目を剥いて驚きの声を上げた。
「君が心配だからに決まってるじゃないか! ずっと立たないなんて、足かどこかを怪我したんじゃないのか?」
「お、俺はどこも怪我してないけど?」
 辻堂と衝突した男子はよろつきながら立ち上がる。
 しかし立ち上がった瞬間、痛みを隠せずに顔を歪めた。
「やっぱり怪我してるんじゃないか! すぐ保健室に」
「平気だって。辻堂の言う通り、今は試合が大事だ。それに俺一人が多少怪我をしたところで、お前ら2科にそう簡単に圧されはしないよ」
「けど……」
「気持ちだけ受け取るよ。俺は本当に大丈夫だから、自分の持ち場に戻ってくれ」
 ここで負傷した男子は俺の左手に視線を送ってきた。
「それより、お前こそ平気なのかよ?」
「何のこと?」
「とぼけるなよ。指、痛めてるんだろ?」
 この人にもばれてるなら、いずれは全体にばれてしまうのも時間の問題だな。
「ふっふっ、君にだけネタバレするとね、これは巧妙な罠なんだよ。指を怪我してるふりをして右上方向のシュートを打たせ、それを俺が防いで攻撃に繋げる。相手がそのことに気づいても時既に遅し、って寸法だ」
 俺は精一杯の虚勢を張り、ひとまずゴールネット前へと戻る。
 現在ボールは太一の元にあるが、太一はボールを蹴らず、パスもしない。かといってドリブルをする気もなさそうだ。
 5組の面々はそんな太一を訝しんでいるのか、警戒したまま誰もボールを奪いに行かない。
「何企んでやがんだ? それとも単なる時間稼ぎか?」
 5組男子が邪推する。まぁ企みがないとは言い切れないんだけど。
「このままじゃ平行線だ! さっさと突っ込め!」
 辻堂の鶴の一声で、太一の近くにいた5組生徒たちはボールを奪い取ろうと近づいてくる。
 ちなみに太一が立ってるのは相手側ゴールのすぐ側。ゴール近くにいるならシュートを試みるものだが、太一にはその気がない。
 得点する気がないわけではない。
 ただ、今ではない。これも作戦なのだ。
「ほい、パス」
 太一はひょいと6組男子にパスを繰り出す。
 試合前にたっぷり練習をした感覚が残っているのか、そのパスはまぁまぁ正確だった。
「くそっ、今度はそっちかよ」
 5組の生徒たちはパスをされた男子に向かって走る。すっかりボールに踊らされてるなぁ。
 6組男子は先ほどの太一と同様に別の男子にパスをする。
 正直ここまでパス回しが上手く行くとは思ってなかった。
 ただ、その理由がさっき怪我をした男子が機能してないことから、こちらには一人ノーマークの生徒がいるため、というのが俺の胸を突き刺す。
 5組生徒はさっきから走り回ってばかりだ。一方、俺たちはマークがついてない生徒以外はほとんど動いていない。
 よしよし、いい具合に仕上がってきている。
 こうやってじわじわと相手の体力を削り取るのが対5組戦での対策なのだ。
 試合前のミーティングで示し合わせておいた通りだ。

    ☆ ☆ ☆

 対5組戦ミーティングにて――――
「辻堂の性格を考えると、相手が誰であろうと細かいことは考えずに、容赦なく全力で潰しにかかってくると思う」
 太一の言う通り、辻堂ならそうするだろうな。全力を出す分、体力の消耗は大きい。
「なら、そこを利用させてもらう。相手をとことん走らせて体力を奪い取る。更にどんどん上昇する気温も味方につけて、できる限り相手のスタミナを減らすんだ。基本的にこちらはパスを回すだけでほとんど動かなくて済むから、高温下を差し引いてもスタミナを温存できる。相手の体力がなくなった時が攻撃のチャンスだ」
「確かに、3組とは違って手を抜かない5組相手にその手は効くかもしれないね。でも」
「晴生が俺たちの思惑に感づかないとも限らないぞ」
「問題はそこなんだ。気づかれたら詰む。だから今回の試合ではパスが肝になる。かなり厳しい注文にはなるけど、正確なパスでボールをたらい回しできれば、俺たちの思惑がばれたとしても、簡単にボールは奪われない」
 なるほどね。3組戦は神頼みの側面が強かったけど、今回は俺たちの実力次第か。これなら3組戦での戦略よりは胸を張って実行できる。
「ちなみに今回のキーパーは宏彰に任せる」
「俺? いやいや、去年の二の舞になるって」
 シュートを一度も防げずに辻堂に煽られた去年の球技大会を思い出す。
「本当にそうかな? 去年の君と今の君では辻堂、ひいては1科に負けたくない思いの強さが違うでしょ? 君ならできる。中学時代にやっていたバドミントンで鍛えた動体視力だって多少は残ってるはず。自分の潜在能力を信じてもいいんじゃないか?」
 確かに、去年は試合なんてさっさと終わらせて遊びたいとすら思っていたよ。けどさ、ドラマじゃあるまいし、果たして勝ちたい感情だけでそんなに上手く行くかね。
「ひとまずそんなところかな。宏彰以外の全員は今からパス練習をするから校門前に移動だ」
「俺はどうするの?」
「宏彰は英気を養っててくれ」

    ☆
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