学内格差と超能力

小鳥頼人

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1巻 学内格差編

第5話 ②

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 二週間の練習の半分以上がパス回しだった。試合前もひたすらパスの練習だけをした。
 太一の奴、はじめから5組戦に備えた練習メニューを設定していたんだ。
 辻堂の方針なのか、3組とは違って5組は個人プレーでひたすら押してくるプレースタイルが目立つ。悪い言い方をすれば、力業ばかりで戦略性が皆無。まぁこれは高校の球技大会で本番の試合ではないから当然か。
「さっきからパスばっかじゃねぇか! 勝つ気あんのか!?」
 6組のパス祭りに辻堂の苛立ちが露骨になってきた。
「しっかしパスのコントロールだけはそこそこありやがるからタチが悪い! ――稲田いなだ! お前もしっかりマークしろよ! お前さえちゃんとすりゃ、2科どもは簡単にパスを出せなくなる!」
 辻堂が先ほど足を怪我した男子――稲田君に無理難題を突きつける。
 彼は怪我をしているんだぞ!? よくもまぁ残忍な指示が出せるな!
「あ、あぁ。やってみるよ」
「頼むぜ? パス大好き2科からボールを奪うには、相手全員をマークする必要があんだよ」
 稲田君はおぼつかない足取りでノーマークの6組男子につく。
 あまり無理はしないでくれ。俺は冷や冷やした気持ちで稲田君を見つめる。
「全員にマークがついたか。だが、稲田とやらはあの足では満足に走れまい」
 太一が邪悪な面で呟いた。
 嫌な予感しかしない。それは稲田君が可哀想すぎる!
「――今から全て稲田にマークされた人にパスを回すんだ」
 太一! いくらなんでも酷すぎないか!? そりゃ6組からしたら大事な試合だけど、いち高校の球技大会で稲田君にトラウマを植えつけかねないことをするのは……。
「そうだね。俺たちは勝つために闘っているんだ。綺麗事言ってられないよね」
 他のクラスメイトたちは太一の指示に賛同した。
 そりゃ、打倒1科を目標に掲げて勝負してるけど、それはいかがなものかと。俺が甘ちゃんすぎるのか?
「ボール回して!」
「させるか――ぐっ……!」
 稲田君にマークされた6組男子は稲田君を振り切ってパスを催促する。
 稲田君も足を引きずってなんとか追いかけようとするけど、6組男子からどんどん距離が離れている。
 あの怪我で全力疾走なんてできるわけがない。どうしてそこまでして……。
 パスは無事に成功し、ボールは別の男子へと渡る。更に別の男子へとパスが回り、ボールは相手側ゴール手前にいる誠司の足下まで運ばれた。
 皮肉にも稲田君が怪我で満足のいくプレーができないため、パス回しは想定していた以上にスムーズにいった。
 5組の生徒たちは誠司からボールを奪おうと向かってくるが、そのスピードは試合開始直後と比べて明らかに落ちている。
 作戦が効いてきているな。あの辻堂でさえもがバテ気味になっている。
「さっきから走らされてばっかじゃねぇか……おまけに気温が高ぇから余計体力が」
 辻堂が息を切らしながらぼやく。
「もういい! 無理にマークすんな! 稲田が使い物にならねぇ以上、パス回しからボールを奪うのはそう楽じゃねぇ。無理矢理にでも突っ込んだ方がまだ成功率が高ぇ!」
 5組の生徒たちは体力が消耗しているにも関わらず、全力疾走で誠司に向かって突っ走ってくる。
 おいおい、体力が減少しているのにまだ大味な根性プレーをするのか?
「パスだ! シュート頼む!」
 誠司がノーマーク状態の男子にパスを渡し、男子はボールを受け取った。
 しかし、そこに辻堂が突っ込んでくる。このままではボールが奪われてしまう。
「くっ、パスを……!」
「させねぇ!」
「うぉわっ!?」
 辻堂がスライディングをし、6組男子の足を引っかけた。
 引っかけられた男子は派手に転倒してしまった。
 ってこれファウルでは?
 ……審判はなぜかポケーっと明後日の方向を向いて辻堂の狼藉を見逃している。
 頼るのはやめておこう。あの審判は天然ボケだと俺の勘が訴えている。
 レッドカードものの反則プレーによって、ボールは辻堂の元に渡ってしまった。
 俺はゴール前でシュートを警戒する。
 辻堂はスタミナが落ちているはずなのに、6組男子を軽くかわし、ドリブルを続けてどんどんこちらへと近づいてくる。
「大方、3組戦は運で勝てたんだろうけどなぁ、運だけで試合に勝てるんなら――」
 なんというワンマンプレーだ。確かにこいつはサッカーが上手い。でも、こんな独り善がりの試合をして楽しいのか? マークされていない味方が結構いるのにパスも出さない。
 あぁ、今のコイツには周りなんて見えてないのかもな。辻堂の視界に映っているのは眼前にあるボールとゴールネットだけなんだろう。
 などと考えているうちに辻堂はゴール前まで辿り着いた。
 そして止まることもなく、
「練習なんざいらねぇんだよぉ!」
 シュートを打ってきた。やっぱり左上方向か。スタミナがバテバテでもそこは冷静なのね。恐るべき執念。
 けどこっちだって負けるわけにはいかないんだよ。
 飛びついてボールをキャッチしようとする。最早突き指してたって関係ない!
「ぐっ……!」
 気を奮い立たせたものの、やはり突き指には勝てなかった。痛みと握力の低下により、ボールに接触するも弾いてしまい、ボールはそのままゴールネットに入ってしまった。
「ぜぇ、ぜぇ。2科無勢が、1科にスポーツで勝てると、思うなよ……!」
 ついに均衡が破れ、先制を許してしまった。
 残り時間はあと五分。
 これはまずいな……いてて。

    ★

「サッカーの試合はっと、今は2年5組と6組、反対側のコートは1年2組と3組みたいね」
「2年生の方は5組が一点リードしていますね――あ、高坂さんがいます」
「せっかくだし観ていこっか。カッコイイ高坂君も見れるし、ねっ佳菜♪」
「ちょっ、ま、真夏ちゃん~!」

    ★

 先制はされてしまったが、これで辻堂は体力を使い果たした。それだけが不幸中の幸いだ。5組の中心である辻堂が動けなければ、だいぶ脅威は減る。
「これがサッカーだ! 先制したからって気ぃ抜くな! どんどんシュートを決めろ!」
 疲弊していても口はいつも通り元気に動いている。やかましい限りである。
 一点は取られたけど、相手の体力は限界まできている。取り返すのは難しくない。
 またもパス回し戦法で徐々に相手のゴールに近づいていく6組の生徒たち。それを5組男子が追っていくが、距離が縮まることはない。
 温存しておいたスタミナをがっつり使う時が来たらしい。といっても俺はキーパーで蚊帳の外なんだけどね。とりあえずは怪我が公にばれないように振る舞わなきゃ。
「どうやら俺が輝く時が来たらしい」
 太一がおぼつかないドリブルでゴール前まで迫っている。
 意外や意外、こいつは中学時代は陸上部で長距離選手だったのでスタミナが余っている。
 ゴール手前に着いた太一は一旦止まり、5組男子がギリギリまで近づいてきたタイミングでシュートを打った。
 太一め、とことん相手を走らせて限界まで体力を削り取るつもりだな。やりおる。
 地味ながら見事にシュートは入った。6組はあっけなく一点を返して振り出しに戻った。
 まだだ、まだ試合は終わっちゃいないんだ!
「おいキーパー! そこは意地でも止めろや! あんなへなちょこシュート、難しくもなんともねぇだろ! お前等も、もっとキビキビ走れや! 勝つ気あんのか、えぇ!?」
「無茶、言うなよ……お前がさっき、突っ込めって言ったから突っ込んだら、体力が……」
「あぁん!? 仮にも運動部だろうが! なっさけねぇなぁ、気合入れろよ!」
 なんだ? 何やら5組から険悪な雰囲気が漂っている。雲行きが怪しくなってきたな。
 5組って3組と比べて個人の技能は高いけどまとまりがない節がある。
「もうゴールは守らなくていい! 超攻撃型布陣で大量得点だオラァ!」
 辻堂がキックオフをする。こいつも体力なんて残っていないはずなのに。そんなに2科に負けたくないのか……――
 ――えっ、嘘だろ……?
 さっき辻堂と衝突した稲田君がうずくまっている。
 試合を観ている生徒たちもさすがにざわついている。6組生徒も心配なのか、稲田君の様子をちらちらと見ている人が多い。
 一方、5組の生徒たちはまたも倒れたクラスメイトを無視し、ロボットのように感情がない顔でボールだけを無心で追いかけている。
 だからなんで誰も助けないんだよ!
 俺はゴール前から飛び出し、稲田君の元に走っていた。
 この試合は大事だ。でも、それ以上に人の身体が大切だ! 体育委員だからとかは関係なく、俺個人の思いで稲田君を放っておけない。
 このままでは、いつ5組生徒に踏みつけられるか分かったもんじゃない。
「い、稲田君、大丈夫!?」
「あ、あぁ。さすがに無理しちまったようだ」
「今から保健室まで連れていくよ!」
「お、おいキーパーはどうするんだよ!?」
 現在、両クラスのゴールネット前には誰もいない。
「そりゃ、ここまで来たら試合も落としたくないけどさ、君を放っておけるかっての!」
 苦渋の決断だけど、苦しむ人を放置してまで己の都合を優先できるほど俺は割り切りができる人間ではないらしい。
 俺は稲田君をおんぶして、グラウンドの外へと向かう。
「っ――すまない」
「無茶しないでよ。さっきから冷や冷やしてたんだから」
 グラウンドの外に向かうと同時に、試合の進行状況を見つめる。
 5組男子からボールを奪うことができたようだ。あの調子なら、しばし俺がいなくても大丈夫そうだな。
 再び歩を進めて校舎前に着いたところで、二人の女子生徒が心配そうな面持ちで佇んでいた。
「お疲れ様。あとは私たちに任せて高坂君は試合に専念して」
「星川さん、遠藤さん! 観に来てたんだ?」
 全然気がつかなかったよ。彼女たちと同じ1科の応援かな?
「って、そんなこと言ってる場合じゃないか。うん、お願いするよ!」
 負傷した稲田君を星川さん、遠藤さんに託して俺はグラウンドに戻るべくきびすを返す。
 再びピッチに視線を移すと、6組男子がボールの所有権を握ったまま、落ち着きなくキョロキョロしている。
「あれ? どっちのゴールにもキーパーがいない? ロングシュートのチャンスだな。で、どっちにシュートするんだっけ? ――えーい、確かこっちだ! とりゃあああ!」
 ――あれ? なぜか6組男子は6組側のゴールに向かってロングシュートを放ったぞ?
 しかも最悪なことに、本日最高のコントロールでボールはゴールネットに綺麗に入った。
 直後に試合終了のアラームの音が虚しく鳴り響いた。
 ピッチにいる全員がその場で硬直した。

「うおおい、稲田! 美少女二人から介抱されやがって、羨ましいぞ! ちょっと俺も足の骨をかち割ってくるわ!」
「俺は両手両足の全指を切断してやる!」
「こらこら、自分の身体をわざと傷つけちゃダメだよ!」
「ほ、星川さん! あぁ、叱っている星川さんも素敵だぁ」
 俺の背後では、醜い男子生徒たちが自分の身体に傷を入れようと躍起になっていた。

 …………あ。
 俺、次の試合から体育委員の仕事があるんだった。
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