学内格差と超能力

小鳥頼人

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2巻 2科分裂編

第2話 ④

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    ☆

「で、次はどうするんだ?」
「へ? 次って?」
 体育の授業が終わり、体育館から教室に移動中のことだった。
「そらアレよ。対1科との勝負内容だよ」
 誠司が打倒1科の話を持ちかけてきた。
「そうだなぁ……」
 直近で1科と勝負できそうなイベントといえば――
「中間試験で勝負したかったところだけど」
「それは無理だね。もう試験まで日がない。もっと前もって言っておかないと2科が自分たちに有利な条件の勝負を突きつける卑劣なイメージを持たれてしまう」
「それもそうか」
「もっとも、前もって提案したところで元来1科よりも2科の方が平均点が高い試験の勝負って時点で却下されそうだけどね」
 太一の否定どおり、まともな対策期間も設けずにいきなり勝負を挑んでもただの卑怯者で終わってしまう。2科の心証を余計に悪くしてしまうだけで終わる。
 俺たち2科が1科に負けてないと証明するには同じ、もしくは2科に不利なフィールドで戦わないと。
 現に勉強だけは勝ててるけどそれ込みでも現状は悲惨なんだ。他の要素で勝たなければ。
 とすれば、できればやはり運動系で勝ちたいんだけどなぁ……球技大会のような成果がもっと欲しい。俺たちは結果を出さなければいけないんだ。
「え、遠足で、な、何かできれば、いいんだけど」
 俺たちの会話を黙って聞いていた豊原が遠足の話題を出した。
「遠足ねぇ」
 しかし、遠足で勝負事なんてあるのかな?
 それ以前に学園外のイベントなので下手な騒ぎは起こせない。騒動を起こしてそれが貴津学園の生徒の仕業とバレれば苦情に繋がってしまう。
 ただでさえ俺は先日沢口君から注意を受けた立場なのだ。ここでやらかせば、彼らはよりいっそう俺に目を光らせてくるようになる。
「遠足では何するんだっけ」
「お台場近辺を歩いたり倉庫や工場を見学する。自由時間もあるぞ――ってか、そのくらいもらったプリントで確認しておけよな」
 誠司がジト目で俺を睨む。
「ごもっともでございます」
 先日遠足のスケジュールが記載されたプリントが配られたものの、俺はろくに内容も読まずにすぐさま鞄にしまっていた。反省。
 それにしても倉庫と工場見学かぁ……小学校の頃を思い出すな。あの頃は割と頻繁にあちこちの企業(主に工場)を見学していたっけ。
 うーん、どちらにせよ遠足で勝負は無理だなぁ。
「遠足でひと悶着もんちゃく起こすのはやめておこう」
 俺の結論を聞いた三人全員が頷いた。
「次、勝負の舞台があるとしたら体育祭かなぁ」
「結構間が空いちゃうな」
 俺の発言を聞いた誠司は唸り声を上げた。
 遠足後の学園行事は学科総会、修学旅行、期末試験、夏休みだ。
 学科総会とは各学科の全生徒が一堂に会して会議を行う行事だ。年に二回実施される。
 基本的には生徒会主導のもと進行されるんだけど、あいにく2科に生徒会役員は誰一人としていないため、学級委員の人たちで取り仕切られている。
 学科総会は生徒主導のイベントのため、教師は学科主任一人しか参加しない。
 まぁそれはともかく。いずれも勝負には向かないイベントしかない。修学旅行なんて青春のイベントなのにそこに変な勝負を差し込んでぶち壊すのはさすがに気が引ける。基本的に高校時代の修学旅行なんて人生一度きりだし。
 ――それに。
「頻繁に勝負するわけにもいかないしね」
「宏彰の言うとおりだね」
 毎日のようにやり合っていたら学園の秩序が著しく乱れてしまう。そうなればやはり俺たち2科の風当たりは余計厳しいものとなる。
 またあまりにも派手な勝負も厳禁なので均衡を保つのが難しいところだ。悩ましいな……。
(――――ん?)
 ふと視線を感じたので背後を振り返る。
「………………」
 するとクラスメイト二人組と目が合った。
 俺が軽く会釈えしゃくすると向こうも返してくれた。
 なんてことはないやりとりだったけど、しこりが残る感覚がした。
「どうしたんだい?」
「クラスの人と目が合ったから会釈えしゃくしただけだよ」
「そっか」
 太一は特に深掘りしてこなかった。
(今の二人……)
 勘違いかもしれないけど、二人が俺に向けた視線は冷えていた気がした。あまり好意的ではなかったような。
「にしても、誠司だいぶ乗り気じゃん」
 当初は問題を起こすな~とか言ってたあの誠司が。
「んなわけ。事前に情報を押さえて当日監視するために決まってるだろ」
 腕を組んで溜息をく誠司。
「この前の戦いでは監視関係なく協力してくれたじゃん」
「そ、それはそれ! これはこれだ!」
 真っ赤な顔で反論する誠司に学級委員の威厳など一切なかった。
「いずれにせよ、だ」
 太一が喚く誠司をなだめて真面目な空気を作り出した。
「1科に2科の爪痕が残ってるうちに次なる一手を打ちたいところではあるね」
 鉄は熱いうちに打てなんてことわざのとおり、ほとぼりが冷めてしまう前に俺たちは何度でも抗う姿勢を見せたいところではある。
「そうだね。学内格差をなくすためには現状をどうにか打開しないとだから。急がば回れだなんて悠長なこと言ってられる状況じゃない」
 高校生活は長いようだけど結局終わりは必ず来るものだ。もたもたしているとあっという間に卒業だ。
 それに手をこまねいている間に2科が起こしたささやかな抵抗は風化されてしまうことだろう。
 だから、現段階でできることは。
「体育祭で1科にひと泡吹かせる作戦を考えるよ」
 次なる舞台に向けて事前に対策を練ることだ。
「よろしく、宏彰☆」
「太一貴様も少しくらい考えろや」
 やる気がなくてもわざわざ口に出すな。
 ――と。
(――――?)
 またも視線を感じた俺は再度背後を振り返った。
 けれどもそこには誰もいなかった。
(気のせいだったのかな……)
 今日の俺は自意識過剰なのだろうか。
 だけど、さっきの二人よりも明確な敵意を感じた気がしたんだよなぁ。
 腑に落ちないものを感じつつも、俺は太一たちと6組の教室へと戻ったのだった。

    ★

「学内格差をなくす――? 奴の言ってたことが全く理解できん。そのために争ってたら本末転倒じゃないのか?」
 俺こと沢口修平は高坂宏彰のしょうもない妄言を陰から聞いていた。決して盗み聞きではない。そう、たまたま、たまたまだ。
「大体、1科の人間と2科の人間では同じ人間でも根本的な部分で全く違うだろ。そこに優劣で争うのが不毛だわ」
 互いに相容れない要素を学科というカテゴリーで区分する。実に合理的な仕組みだと俺は考えている。
「学内格差は必要だ。2科は1科から抑圧されてるのが原因で皮肉にも学業には力を入れている」
 2科は学業成績でしか1科に勝てる要素がないからそこ一点にしがみついている。いわば最後の砦だ。
 そしてその現状は俺にとって好都合。真面目な2科の環境、周囲からの評価は俺の大学進学がより有利になるよう後押ししてくれている。
 ――――だがしかし!
「2科の地位が高くなってみろ? 調子に乗ってどんな真似しでかすか分からん。そんなことされて俺が志望してる大学の推薦が来なくなったらどうするんだ!」
 下手に1科の真似事をされて青春を謳歌! などと頭の沸いた行動を起こされたら2科の肩書きにも、そしてその肩書きを背負う俺の評価にも傷がつきかねない。
「現段階で大学側の貴津学園の評価は、『2科は真面目で成績も良好』と良い印象を持ってるんだ」
 俺の父親は私立大学の学長だからその辺の情報を聞き出すコネがある。人生の勝ち組は生まれ持っての環境からして負け組どもとは違うのさ。
「1科と絡んで2科の印象までチャラついたものに変わってしまえば確実に推薦はなくなってしまう……」
 特に俺が目標としている理科大学はその辺りの素行をとても気にすると聞く。
「そんなことはさせん! 1科と2科が交わっちゃいけないんだ。2科の地位が上がってはいけないんだ」
 2科は学内地位なんて気にせずに大人しく勉学にのみ励んでおけばいいんだ! そうすることで2科の生徒たちは皆いい大学に行ける。いい大学に行ければ将来成功者になる可能性も上がる。
「お互いを隔てる壁を壊しちゃいけないんだ!」
 それなのに高坂宏彰、貴様は俺の将来を壊そうとしている。2科を1科と同じにしようと画策している。無意味な抗争を何度も何度も引き起こそうとしている。
「ふざけるなよ、高坂宏彰。貴様がしていることは、学園の崩壊だ」
 学科間がただ不仲なだけなら俺も見過ごすところだが、常に一触即発の空気にされてはたまらん。
「だがこの俺の目が黒いうちはいくら貴様があがいても無意味だ。俺がこの学園を守るからな」
 そうならないように問題児を監視し制裁を下すのが学級委員たる俺の使命だ。
「学園のルール、評判、秩序、そして学科序列。これらは何より俺自身のために絶対に壊されてたまるか」
 そう、全ては俺自身の将来のために。両親や兄と同じ勝ち組になるための成功手形を手にするために。
「俺の悲願、理科大学の推薦状を手にするために――!」
 俺は廊下の壁をグーで一殴りした。脆い壁だ、本気で殴れば砕けてしまいそうだ。
 俺は深呼吸した。いかんいかん、気を落ち着かせなければ。
「――高坂宏彰め、当面は注意だけで見逃してやるが、それでも改善しないようならこっちにも考えがあるぞ」
 俺たちが好き好んでお前なんかを無意味につけ回してるわけがなかろう。全ては計算よ。
「邪魔者の貴様を自主退学に追い込む算段はできてるからな。覚悟しておけよ」
 俺は誰もいない廊下で一人ほくそ笑んだ。
 なぜ廊下に誰もいないのかは知らんが、俺の独壇場どくだんじょうよ。
「ふ……はは……」

 高坂宏彰。
 頼むぜ。あんまりこの俺をその気にさせるんじゃないぞ。
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