学内格差と超能力

小鳥頼人

文字の大きさ
47 / 63
2巻 2科分裂編

第3話 ①

しおりを挟む
「毎日の儀式だけど休日は面倒極まりないや」
 今日は極楽の土曜日。終日全ての時間を自由に使え、しかも翌日も休みという最高の曜日だ。
 それなのに、ゴミ出しのために早起きしなければいけないのはどうなんでしょうか。
「土曜日だけゴミの収集時間がもっと遅くなってくれればいいのになぁ……」
 口からはついつい溜息が零れる。
 しかしぼやいたところで部活の練習に向かった弟が代わってくれる訳でもなく。
 ゴミ捨て場まで徒歩五分という微妙に遠い距離も億劫さに拍車をかけてくれる。
 往復で約十分。ちょうど学園の休み時間を徒歩で消費している計算になる。
 そんな下らないことを頭の中で考えつつ、ゴミを捨て終えた俺は自宅へときびすを返す。
 さっさと帰って二度寝しよう。
 ――――ん?
 前方からジョギングをする女の子の姿が見えてきた。
 俺と同年代の人っぽいな。
 徐々にその姿が大きくなっていき、女の子と俺の距離が縮んでゆく。
 俺と目が合うと女の子はニコッと微笑み、ペコリと丁寧に会釈えしゃくしてくれた。見目麗しい笑みには慈愛すら感じ取れた。
 我に返った俺も慌ててぎこちなく返す。
 その際に気がついたけど彼女は貴津学園のジャージを着用していた。1科なのは間違いないけど、学年までは分からなかった。
(美人だったなあ……)
 長身で手足が長く抜群のスタイルを誇っていた。
 走る度に艶やかなロングヘアーが不規則に揺れ、あの人独特の色気をかもし出していた。月並みな感想しか出ないけど、大人っぽい綺麗な人だったなぁ。
 些細な喜びだけど綺麗な人と会えてゴミ出しも悪くないかな、なんて思っちゃったりして。
 でも――
(初めて会った気がしないのはなんでだ……?)
 もちろんどこかで会った記憶はない。
 けれど、過去に接点があったように感じてしまう。
(まぁいいや。帰って寝よ――)

「ねぇ、こんな朝早くから何の用?」
「朝から悪いね」

 ――――おや?
 たった今聞こえた会話の主は――蓮見さんと、ついでに太一だった。
 蓮見はすみしずくさん。
 太一の幼馴染で、俺たちの一つ年下の女の子だ。顔は美少女、性格はキツイ。
 こんな朝っぱらから何事だろうか。
 って、ダメだろ俺! これじゃあ盗み聞きじゃないか。
 二人に気づかれないようそろりとその場を立ち去ろうとした、
 その瞬間。

「おぉっ、兄貴じゃねーか! ゴミ捨てサンキューな!」

「うわっ――げ、元貴……」
 どでかい声で兄貴の俺を呼んだのは実弟じってい元貴げんき
 外見、性格ともに俺とは真逆でチャラついた青春を謳歌している中学3年生だ。
 髪にはメッシュをつけまくっているので、虹のようなグラデーションが完成されている。また、両耳にはピアスが元貴の身体の一部のように輝いている。
 …………なんだろう、コイツを見る度に辻堂の顔が脳裏に浮かぶんだが。顔は全然違うのに不思議だ。
 もっとも、元貴との兄弟仲は良いんだけどね。
「んで、兄貴はそんなとこでコソコソ何やってんの??」
 元貴は空き家の陰に潜む俺に怪訝な表情を向けてきた。
「しっ! 今とある二人が大切な話をするみたいだから帰るぞ」
「とある二人……?」
 そこで元貴の目が二人を捉える。
「おっ! 太一っちじゃねーか!」
 元貴は太一と面識がある。俺たちは太一と中学が同じであり、なおかつ太一が何度か俺の家に遊びに来るので、そこで元貴とも親交を深めているんだ。
「もう一人の女の子は……迷子の子供か?」
 蓮見さんを視界に捉えた元貴は顎に手を当てて首を傾げた。
「……お前、蓮見さんに蹴り飛ばされたいのか? 彼女は俺の一つ年下だぞ。つまりお前より一年先輩だ」
「ええっ!? あれはどうみても中学生っしょ!?」
 俺の発言が相当衝撃的だったようで、元貴は目を大きく見開いて驚きを表現した。
「ってか最悪小学生っしょ! あれで俺より年上とかマジパネェな!」
 たいそう失礼な発言だが、幸いにもあの二人がこちらを振り向くことはなかった。
 危ない危ない。元貴の声は二人、特に蓮見さんには聞こえていなかった。
 頼むからあまり油をばら撒くことを言わないでくれよ。万が一、火がついたら間違いなく死ぬぞ。
「いいから帰ろうよ」
 元貴の腕を引っ張ってこの場から去ろうとするも、
「何言ってんスか兄貴ィ! オレっちには分かる。今から……修羅場がはじまる! こんな美味しいイベント、しかと両耳かっぽじって聞いておかねーとバチ当たるぜ! だから聞くっ♪」
 この愚弟ぐていは何を血迷ったのか、野次馬根性丸出しで二人を凝視しはじめた。しれっと腕から俺の手を振りほどく作業も忘れずに。
「止めてくれるな兄貴っ、オレっちの決意はチタンのごとく固いんだ」
「いやいや、盗み聞きみたいな真似は人としてどうかと思うよ!」
「違うよぉ。みたいじゃなくて、盗み聞きそのものだぜぃイェイ!」
 確信犯です。どうもありがとうございました。殊更ことさらタチが悪いんだけどどーすんのコイツ。
 うはははと笑って俺の横につくチャラい弟。本当に俺たち兄弟なの? DNAどうなってるの? 両親ともにチャラくないよ?
 そんな俺たちを尻目に例の二人はとりとめのない話をしている。幸いにもまだ本題に入っていない。退散するなら今のうちだ。
「もう好きにしていいよ。俺は帰るぞ」
 その場から離れようとするも、
「それ監督不行き届きスよ! 兄とは常に弟の面倒を見て尻拭いするモンっしょ!」
 謎の理論を振りかざす元貴に肩を掴まれた。
「そんな決まりがどこに――ところで部活はどうした?」
 今更ながら練習に向かったはずのコイツがなぜ今ここにいるんだ。
「顧問が体調を崩したから急遽きゅうきょ休みになった――んなコトどうでもいいから修羅場をじっくりねっとり見守ろうじゃないの。兄弟仲良く。ねっ、兄貴」
 親指を立てて舞い上がる弟を引き気味で一瞥いちべつしたのは内緒だ。
 結局、罪悪感を覚えつつも元貴に押し切られる形でやりとりを見届ける羽目に。
「――で? さっさと用件を言ってよ。あたしは暇じゃないんだけど」
「はっきりさせておきたいことがあってさ」
 太一はもったいぶって間を開けたのち、続きの言葉を発した。
「――いい加減に自分を偽るのはやめてほしいんだけど」
 太一から飛び出したのは、是正の言葉。
「……たったそれだけの理由で呼んだわけ?」
 蓮見さんは拍子抜けしたのか気の抜けた返事をしたけど、太一は意に介さず続ける。
「エア彼氏の存在を周囲に吹聴ふいちょうして何が楽しいんだい?」
 えっ? エア彼氏ってなんだ?
 そもそも自分を偽るとはどういうことだろう。今まで俺が見てきた蓮見さんは本当の姿ではなかった?
「なっ…………な、なな、なんのことよ! 証拠を見せなさいよ!」
 嘘が苦手なのか、蓮見さんは俺でも分かるくらいあからさまに動揺している。
「彼氏がいない証拠? |彼氏がいる方の証拠、、、、、、、、、を見せれば早いじゃないか。なぜわざわざ検証が面倒な彼氏がいない証拠の方を提示しなければならないのか分からないんだけど?」
「うっ……そ、それは……」
「本当に彼氏がいるなら顔写真と一部でもいいからチャットのやりとりを見せてよ」
「………………」
 太一の尋問を浴びる蓮見さんは口をつぐんでしまった。視線は宙を泳いでいる。
 会話の優劣は明らかだ。蓮見さんが口論で太一に勝てるとはとてもじゃないけど思えない。重箱の隅をつつくタイプの太一に対して、蓮見さんは完全感情型だから。
「うっひょ~、最高にムラムラしてきたッスよ~! いやぁいいねぇ高校生はぁ!」
「シリアスな雰囲気がビンビンと漂ってるのによくムラつけるよな……」
 全然盛り上がるところじゃないだろう。おまけに俺たちは盗み聞きしている立場だし。
「た、太一君には関係ないじゃない!」
 蓮見さんは地団駄を踏みはじめ、声を荒げて逆ギレした。
「ふんっ、いないわよ! いなければ何? ダサい? 女としての魅力がない? そう言いたいんだ!?」
 早口で開き直りの言葉をまくしたてると、ぷいっと太一から視線を外してしまう蓮見さん。その顔は真っ赤に染まっている。
「誰もそんなこと言ってないでしょう」
 太一はやれやれといった具合で溜息をいた。
「たださぁ。『彼氏がいる』なんて公言してしまったら、ほとんどの男は君にアプローチしてこなくなるじゃないか。それじゃあずっと本当の彼氏はできないじゃん。自ら縁を遠ざけてどうする? 君はそれでいいのかい? それともそうせざるを得ない理由でも?」
 太一は決して蓮見さんの顔から目を逸らさない。思わず息を呑むほどに真っ直ぐな瞳だ。
「……相変わらずお節介よね、太一君って」
 太一と視線は合わせないものの、蓮見さんの目にはずいぶんと力が入っていた。眼力のこもったその瞳が俺に向けられたならば、脂汗を出しながら思わず後ずさりしてしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...