学内格差と超能力

小鳥頼人

文字の大きさ
48 / 63
2巻 2科分裂編

第3話 ②

しおりを挟む
「十五年以上の付き合いがある年下の幼馴染を心配するのは当たり前でしょうに」
「……やっぱ太一君って、あたしを妹のように見てるのね」
「妹分だとは思ってるね」
 あぁ、それなら納得。妹のように接していれば、太一が蓮見さんを気にかけるのも頷ける。
「でもあたしは……ううん、なんでもない」
 何か言いたげだった蓮見さんは柄にもなくしおらしい態度で首を横に振ると、再び瞳に炎を宿して太一に向き直る。
「あたしは自分を偽ってない。これがあたしのありのままの姿。1科と2科の争いの時もそうだったじゃない」
 彼女は毅然きぜんとした態度で太一が投げかけた疑念を再否定した。
 しかし太一はそんな蓮見さんと対峙してもなお涼しげな表情を崩さない。
「うん、君はあの時もつくろっていたね。役者になれるんじゃない? 子役としてね」
 かたくなに否定を続ける蓮見さんにごうを煮やした太一は挑発的な台詞を彼女へとぶつけた。
「ぶふぅっ……! こや、こやくっ……ぷ……くく」
 俺の隣では太一のあおりにツボを突かれた元貴が腹を抱えて唾をまき散らして吹いていた。おい、爆笑するとさすがに気づかれるって。
「子役ですって!? あたしは高校1年生よ! はたからはそうは見えないかもしれないけどさぁ!」
 噛みつくところそこなの!? 話の真偽よりもそっちの方が君にとって重要なのか?
「俺的にはそんな雫を見てみたい――ゴホン、軽音楽部。あれも、自分を取りつくろうためにはじめたんでしょ?」
 今アホ太一のろくでもない本音がこぼれ落ちたけど、蓮見さんにはそこに切り込む余裕すらないらしい。頬を引きつらせている。
「軽音に入ったのは――! 元々ベースに興味があったからで……!」
 というか、蓮見さん軽音部だったんだ。知らなかった。
「ベースに興味を持ったきっかけは?」
「お、音楽をやってれば……その、舐められないじゃない……。で、一番やってみたかったのがベースだったってだけの話よ……」
 舐められる? 蓮見さんは気が強いから舐められるなんてことはないと思うんだけどなぁ。
「確かに俺だったらいい感じにイジるわ~。太一っちは分かってらっしゃる、うん!」
「蓮見さんの怖さと運動神経を知らないからそんなこと言えるんだよ。見た目に騙されちゃダメだよ。蓮見さんはああ見えても合気道経験者なんだから。技をかけられたら痛いぞ?」
 実際に技をかけられた張本人が身を持って言うのだから間違いない。
「そんなんかわせば済むでしょ~? オレっちの電光石火に触れられる女はなし! 女と接触する時はオレっちが女に触れたいと感じた時だけさっ」
「あっふーん」
 そっすか。心底どうでもいい話をどうもありがとう。けど今お前の与太よたばなしを聞くのに費やした時間、約数秒を返してくれ。時は金なりだぞ。
 それにしたってさっきから取り調べみたいなやりとりだな。太一から蓮見さんへと向けられる嵐のような質問ラッシュがすさまじい。
「君が偽りの自分を作り上げた原因はやっぱりそれ、、だったんだ」
「…………そこも感づいてたのね。勘が鋭い人は苦手」
 これ以上しらばっくれても無駄だと悟ったのか、蓮見さんは観念したように苦笑した。
「中学2年生までの君と今の君とでは性格や雰囲気がまるで別人だからね。高校で再開した時は衝撃だったよ――俺が君と顔を合わせなくなった一年間に何があったんだい?」
 太一と蓮見さんは年齢が一つ違う。太一は中学3年生の、つまり去年の蓮見さんを知らない。そしてその期間に何かが起きていた。
「……あたしって昔から背が低くて、しかも体型も華奢きゃしゃだったじゃない?」
 蓮見さんは自らの過去を語りはじめた。
 過去形で語ってますけど、今でも背が低くて華奢きゃしゃでは? 口には出しませんが。
「現在進行形、いや生涯ちんちくりんじゃね? でしょでしょ兄貴?」
「お前うるさいよ」
 俺の弟がウザくて困る。
「だから周りの男子からはいつもからかわれて。年下連中からもずいぶんと舐められた」
「相当もてあそばれてたね。君はいつも涙目で『やめてよぉ~』、って可愛らしく訴えてたよね。懐かしいなぁ」
 太一は数年前の記憶を掘り起こし、しみじみと当時の思い出を懐かしんでいる。
「か、かわっ……ゴホン」
 蓮見さんは太一が何気なく放った台詞に顔を赤くするも、すぐさま咳払いで仕切り直した。
傍観者ぼうかんしゃからしたらそうかもしれないけど、当事者のあたしにとっては忌々いまいましい過去でしかないわ。懐かしくもなんともない!」
 蓮見さんは太一とは対照的に眉間にしわを寄せて歯ぎしりしている。これっぽっちも思い出したくない、一切触れたくもない過去のように。
「だんだんちょっかいもエスカレートしてきて、ボディタッチされたり、あたしの持ち物を取り上げたりする人間も現れたわ。あたしには絶対に言い返す気の強さもやり返す強さもないってみんなが知ってからはそれこそ嫌がらせが増えた。ホント、アイツらは最低の下衆げすどもだった!」
 吐き捨てるように叫んで地団駄じたんだを踏んでいる様子から判断するに相当な嫌がらせを受けてきたみたいだ。
「でも……太一君だけはいつもそんなあたしを助けてくれたよね」
 蓮見さんは一転して表情を緩め、大切な思い出を噛み締めるように語る。
「最初の頃は相手を言葉でとがめるだけだったけど、相手が太一君に暴力を振るうようになってからは太一君も相手に技をかけてあたしを守ってくれた。力ってすごいなって感じたわ」
「大変だったよ。俺は当時喧嘩の経験もなかったから初めて相手が殴りかかってきた時は殴られっぱなしで情けない姿を見せてしまったね。申し訳ない」
 心から申し訳ない気持ちを出して頭を下げた太一に、蓮見さんは慌てて左右に手を振った。
「そんなこと……でも途中からは相手を一網打尽いちもうだじんにするようになってビックリよ」
「特訓して剣道と合気道、それぞれ初段を取りましたから」
 太一は誇らしげにドヤ顔した。
 そういう経緯けいいがあったのか。だから太一は合気道の技を使えるんだね。
 少々意外だな。太一は特訓とか鍛えるとかのスポ根ちっくな行為を好まなそうなのに。
 球技大会の時も進んで練習してたけど、時の流れによる心境の変化でもあったのだろうか?
 中学時代の陸上部ではそこまで本腰を入れて取り組んでいたようには見えなかったのに。
「そ、それってさ――あ、あたしを守るためにわざわざ?」
 蓮見さんは生唾なまつばを飲んで問う。何かに期待を寄せるかのように。
「当然じゃないか。理由もないのに合気道も剣道もやりたくないって」
「………………っ!?」
 太一は一瞬の間を開けることもなくきっぱりと言い放ってしまった。格好良いような、多少は謙遜けんそんしてもいいような。
 対峙している蓮見さんの顔は真っ赤に染まっている。
「太一っちって武道の心得あったわけ? マジ超意外なんスけど! 兄貴は知ってたん?」
 太一の意外な特技を知った元貴は瞳を輝かせて鼻息荒く興奮している。
「俺も最近まで知らなかった。進んで鍛錬するような奴じゃないから驚いてる」
 俺だって1科との勝負で初めてこの目で見たのだ。
 それもそうか。誰かを守るために身につけた力なら、無意味に周囲にひけらかす必要なんて微塵みじんもないのだから。
(誰かを守る、か……俺の能力でもそんなことができるのかな)
 一見すると危険な超能力。だけど、世のため人のためになる使い道があるならば――それでもおおやけにはできないけれど、陰ながらひっそりと役立てたいなぁ。
「手合わせ願えないかな~。太一っちの全力を受けてみてぇ」
 元貴は俺の思考などつゆ知らず、のんきに太一と力比べをしたい欲求に駆られていた。
「いやお前は剣道も合気道も素人でしょうに」
 お前が太一に突っ込んでも痛みだけくらって終了だよ。
「口だけで相手をあしらうのが難しくなってからは、君を守る強さが欲しくなった。相手を攻撃する力ではなくて、君を守る力をね」
 クサイ台詞を臆面もなく吐く太一。こういうところが奴の魅力の一つなんだよね。
「暴力はもちろん駄目だけど、真に舐められない、いじられないためには『言葉』だけじゃなくて『武力』も提示しなければ通用しないと身を持って知った」
 太一はいじめられっ子の蓮見さんと月日をともにしている間で色々と考えていたらしい。俺にはその辺の事情は一切話してくれなかったけどな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...