嫌われ者の皇族姫

shishamo346

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戦争準備

王国からの使者

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 平和な日常を過ごしたいけど、ともかく、帝国の困り事ばっかり集まってくるのよね。ただの一皇族なら、大変だねー、と笑って他人事なんだけど、女帝は強制的に巻き込まれちゃうからなー。
 結局、貴族の学校の先輩である文官ナックルは、そのまま、戦争のために作られた組織に残ってしまった。
「家族も増えるから、偉くなりたい」
 権力を求めて頑張るそうだ。もう、家族が増えるんだー。品行方正な感じなのに、やっぱり男なんだなー。
 女帝のお披露目のほうは、戦争が起こるから、という理由で、ともかく延期に成功した。どっちにしても、あの元呪われた布地は、辺境の貧民街の支配者エンジに盗まれてしまったので、わたくしの衣装を作ろうとしても出来ないし。
 残るは、戦争への出征をどう、回避するかである。
 このまま、わたくしが戦争に出征しちゃったら、もう、女帝と公言したようなものである。誰か代わってくれないかなー。
「ティッシー、わたくしの代わりに戦争に行ってください」
「あんたは戦争に行って、死ねばいいのよ!!」
 新婚夫婦の様子を見に行ってみれば、こんな悪態をつかれた。
 もう、ティッシーは隠さない。わたくしに対しては態度を悪く、口だって悪い。
「失格紋の儀式をしておいて、よくもまあ、わたくしのところに来たわね。失格紋をされても、あんたを殺せるのよ!!」
「きゃー、ナインー」
「やめろ」
 ティッシーが手を出してきても、わたくしの前に筆頭魔法使いナインが立ちはだかる。
「やめろ、ティッシー」
 ついでに、ティッシーの夫となったメフノフがティッシーを止めてくれた。
「それで、僕は戦争に出征しなくていいという話は、本当か?」
「本当です。ほら、皇族の尊い血筋は残さないといけませんから、失格紋持ちの皇族を戦場に出したら、犬死にです」
 当初、失格紋持ちの皇族を戦争に出征させる話になっていた。新しい女帝であるわたくしに敵対した皇族だから、失格紋の儀式を行ったのだ。生かしておいても、女帝の足を引っ張ることとなる、と皇族間の話し合いで決まったのだ。
 でも、失格紋の儀式をされたのは、若い皇族ばかり。わたくしがいっぱい処刑しちゃったので、後から冷静に、名簿を見て、このままだと皇族が絶滅しちゃう、と気づいたのだ。仕方なく、失格紋持ちの皇族は、城でお留守番となった。
 その決定を手分けして、失格紋持ちの皇族たちに伝えるため、わたくしは、メフノフとティッシーの部屋にお邪魔したのだ。
 お邪魔といっても、強制的に入ったのですけどね。皇帝は、城のどこでも入れるの。ティッシーが拒否したけど、わたくしは、城の支配者である皇帝だから、無理矢理、入ったわけだ。
「だから、お前は動くな、と言ったんだ!!」
 この伝言役、わたくしはやめたほうがいい、と止められた。
「メフノフとティッシーには、わたくしから、ぜひぜひ、伝えたかったんです」
 でも、この二人への伝言だけは、わたくしがしたかったので、無理矢理、分捕った。
 わたくしは、使用人が出したお茶をのんびり飲んで、怒りでとんでもない形相となったティッシーと向かい合った。
「二人とも、思ったよりも元気そうですね。もっと、痩せたりしていると想像していました」
「死んだら、あんたのせいよ!!」
「ここは、どこよりも安全で、快適な場所ですよ。死ぬだなんて」
「失格紋のせいで、わたくしたちは、妖精の加護を失ったんだから!! ただの人に暗殺されるし、食事に毒を盛られたら、死ぬのよ」
「気にしすぎです。失格紋の儀式から、随分と経ちましたが、何も起こっていませんよ。だいたい、誰がするのですか」
「………」
 わたくしと名指ししないティッシーは、机を睨むように見下ろした。別の誰かがすると思っているのだ。
 ティッシーを気遣うように、寄り添うメフノフ。
「僕が毒見しているが、これまで、薬を盛られたこともない。夜は、ぐっすりと眠っている。シーアがいう通り、大丈夫だ。それに、万が一の時は、すぐに解毒してもらえる」
「う、うううう」
 ティッシーは辛い毎日を思い出し、優しくされて、メフノフの胸で泣いた。
 感情に振り回されるティッシーに対して、メフノフは落ち着いている。失格紋の儀式を同じようにされたのに、メフノフは頼もしい感じになった。
「メフノフは、すっかり、一家の主、といった感じですね。その調子で、子作り、頑張ってください。きっと、立派な皇族が誕生するでしょうね」
「シーア、すまなかった」
 メフノフは、ティッシーを慰めながら、わたくしに頭を下げた。
「十分、罰は受けました。謝罪は不要です」
「僕は、いい婚約者ではなかった」
「?」
「シーアは、婚約者となってから、祝い事には贈り物をしてくれた。きちんと僕と向き合い、常に笑顔で、僕を支えてくれた。なのに、僕は、皇族失格になるんだから、とシーアを下に見て、何もしなかった」
「気持ちなんか、これっぽっちもこもってない、礼儀でやっていただけですよ。だから、メフノフに浮気されました。メフノフだけが悪いわけではありません。わたくしにも、悪い所はありました。お互い様です」
「それでも、何もしなくていい理由にはならない。僕は、不誠実だった」
「まあ、わたくしも、不誠実な部分がありましたけど」
 過去、思い返してみれば、わたくしも悪い所があったなー。
「そうよ!! この女、貴族の学校で、若い貴族を口説いていたのよ!!! あんただって、浮気してたじゃない!!!」
 やはり、ティッシーは知ってたんだなー。
 だから、メフノフはティッシーと浮気したのだ。貴族の学校で、婚約者がいるというのに、わたくしは、ここぞという若者にお付き合いを申し込んでいたのである。全部、お断りされたけど。
「それは、僕にも悪いところがあった。それに、シーアは仕方がない。誰もが、シーアは皇族失格すると信じていたし、シーアの前で言ったんだ。シーアなりに、皇族失格となった後のことを考えたんだ。僕たちが悪かったんだ」
「わたくしは、ずっと、メフノフのこと慕っていたというのに、皇帝の姪だからと、安易に婚約者となったシーアが悪くないなんて、おかしい!!!」
 ぼろぼろと泣いて責めるティッシー。そうか、ティッシーは本気で、メフノフのことを愛してるんだ。
「気づかなくて、ごめんね。言ってくれれば、メフノフとの婚約解消、したのに。シオンは、ただ、わたくしから誕生する子のことを心配して、メフノフと婚約させただけ。わたくしは、皇族として残った時は、子を持つつもりはなかった」
 先帝シオンのわたくしへの心遣いは、わたくしの身近な人を不幸にした。
 ティッシーだって、最初は、わたくしのことを憐れんで、仲良くしてくれたのだ。それが、どんどんと、色々と積み重なって、わたくしを憎しみ、裏切った。
「もっと、本音を言い合えばよかったね。でも、生きてるんだから、やり直しが出来る。これからは、もっと、本音で話して。じゃあね」
 もともと、報告のみで来たのだ。わたくしは席を立った。
「シーア、産みの母親のことは、知ってるか?」
 突然、メフノフが、今更な話題を持ち出した。わたくしは、立ったまま、メフノフを見返した。
「シオンからは、それなりに、聞いています」
「僕は、ネフティから聞いてる。ネフティは、シーアの母親の一族を根絶やしにするために、暗部を動かしたんだ」
「母の身内は、母の兄夫婦のみだとか。わたくしを産んだばかりの母は暗部に殺されたと聞きました」
「当時、十歳の君の従兄が消息不明となってる。暗部が探したが、見つからなかったとか。魔法使いを動かすと、シオンに知られてしまうから、ネフティは、君の従兄のことは諦めたと言っていた」
「ネフティは、母の兄夫婦の周辺を調査しましたか?」
「君の産みの母親の家族構成のみだ。だいたい、貧乏貴族な上、一族というほどの連なりもなかった」
「兄嫁のことを調べなかったのですね」
 処刑された皇族ネフティは、爪の甘い人だ。ただ、わたくしの産みの母親の血筋だけを憎んだのだろう。だから、母の兄嫁のことは除外したのだ。
「兄嫁には、弟がいたんです。兄嫁の弟は、王国へ移住する手続きをとっていました。わたくしが誕生する前に、王国に移住しています」
「まさか」
「わたくしの産みの母は、とても頭のいい女性だったとシオンは誉めていました。城で働く貴族たちも皆、口を揃えて、わたくしの産みの母のことを賢い人だといいました。そんな頭のいい人なんです。何も準備しないわけがないでしょう」
 世間知らずな皇族は、底辺の世の中を見る目と賢さを甘く見ている。それは、先帝シオンもだ。
「足手まといなわたくしの従兄を先に、王国に移住させたのですよ。だから、探しても見つからなかった。それだけです」
「はははは、君は、こんな短時間で、そこまで、調べたのか」
「少し考えれば、わかることです。皇族は、世間知らずすぎます。だから、こんな簡単なことがわからない。お母様は、そこまで頭が回らなかったのですよ」
 つい、処刑した皇族ネフティを母と呼んでしまう。それに、苦い顔をする筆頭魔法使いナイン。仕方がない。生きている内のほとんどをわたくしはネフティを母と慕ったのだ。だから、ついつい、母と呼んでしまう。
 産みの母は、母を探す皇族に見つからない事を期待した。だけど、万が一のことを考えて、こっそりと、わたくしの従兄を逃がしたのだろう。本当に、頭のいい人だったんだな、と感心してしまう。
「話はそれだけですか。もう、随分と過去の話です。今更、探しても、恨み事を言われるだけです。王国で、平穏に過ごしていることを神と妖精、聖域に祈ることが、わたくしに出来ることです」
「少しは、役立つ情報をと思ったんだが、今更だったな」
「駆け引きなしで、教えようとしてくれたのです。それだけで、十分ですよ。では、これで、本当に失礼しますね。次に会うのは、戦争が終わってからですね。いいお話を期待しています」
 わたくしは、やっと、新婚の部屋を出た。






 王国から書状を持った使者がやってきたという報告を受けた。待ちに待った王国の書状と使者である。過去のやり取りはきちんと文章で残されているので、一応、読んで、色々と予想した。
「今回は、王族が使者にいます」
「珍しいですね。リスキス公爵の身内が代表として来ると思っていました」
「その、リスキス公爵の身内もいます」
 王族がくるので、使者の代表は王族だろう。これは、珍しいことだ。帝国は、皇族いっぱいいるので、皇族を使者に使うことはある。だけど、王国の王族は、国王の家族のみなので、王族が使者として来ることはない。
「代表は、リスキス公爵の身内です」
「王族じゃないのですか!?」
「王国側の事情でしょう」
「調べてください」
「わかりました」
 王国側の事情はしっかりと調べよう。今は味方だけど、内部が腐っていて、内乱起こされたら、敵になっちゃうから。
 わたくしが会談の場に出なくてもいいのだけど、出せる皇族がいない。皆さん、忙しいからね。わたくしは、ほら、命令していればいいから、ちょっとだけ暇なの。それに、戦争への出征回避を企んでいるので、内部を攪乱しているのだ。絶対に戦争なんて行かないんだから。
 戦争関係なので、密談である。だから、こじんまりとした部屋で会談だ。
 先に王国側の使者は、会談場所に揃っていた。筆頭魔法使いナインがドアを開けて、中の安全を確認してから、わたくしを中へと入るようにエスコートである。
 見るからに、それなりにおじさんが代表のリスキス公爵の身内だろう。でも、わたくしは女帝なので、会談の場では、上座に座るのだ。王国の使者たちの前に座るのは、今回の戦争で組織された軍部の皆さんである。
 それぞれ、席に座ってから、会談である。
「王国の皆さん、遠くから、ようこそいらっしゃいました。同じ、神と妖精、聖域の教えを順守する者同士、力をあわせて、敵国を排除しましょう」
「女帝陛下、ありがとうございます。私は、リスキス公爵の弟ベンゼと申します」
「今回は、王族の方がいると聞いています」
「はい、こちらが、国王の末弟テンペスト様です」
「あら、凛々しい」
 王弟テンペストは、どこか、野性味のある感じがする。年齢的には、かなり年上な見た目である。
 王弟テンペストの後ろには、年頃が近い側近らしき男が、じっとわたくしを見つめる。
「無礼な!!」
 突然、筆頭魔法使いナインが怒りだし、王弟テンペストにつかみかかった。
「な、ナイン、やめなさい!!」
「こいつ、俺様の女帝に妖精を差し向けやがった!!」
「テンペスト様!!」
 会談が始まる前から、大変なこととなった。まさか、王弟テンペストは妖精憑きだ。
「筆頭魔法使いの実力をちょっと確かめただけだろう」
 これっぽっちも悪いと思っていないテンペストは、だけど、抵抗はしない。胸倉つかまれて、大人しくしている。
「離れろ」
 テンペストの後ろに控えていた男は、ナインに向かって剣を抜き放った。だが、ナインは一瞥しただけで、剣身は形を失い、鉄の粉となって、床を汚した。
「やめろ」
 テンペストはナインの手を払い、側近の男の前に立ちはだかった。それを見て、ナインは不機嫌ながらも、わたくしの後ろに戻った。
「妖精憑きのお気に入りをこの場に連れてくるとは、お気楽だな」
「離れている間に盗られるかもしれない。だから、側に置いて、守るんだ」
「テンペスト様、やめてください!!」
「ナイン、黙って」
 リスキス公爵の弟ベンゼが間に立たされて、真っ青なので、わたくしはナインを止めた。
「もう、目に見えない戦いはやめてください。ナイン、妖精憑きのお気に入りには手を出さないように。帝国では、それは常識でしょう」
「お前に妖精を差し向けたんだぞ!!」
「帝国最強の妖精憑きであるナインに勝てるはずがないでしょう。年上なんだから、大人の余裕を見せてください」
 国王の弟だから、テンペストはナインよりも若い。国王の年齢を思い出して、わたくしはナインを注意した。大事な話をするのに、妖精憑き同士で喧嘩しないで。
「ヘイズ、あの女が、お前の探していた女だ」
「まさか、そんな」
 テンペストに守られていた側近らしき男は、テンペストの前に出て、わたくしを凝視する。
 なんだか、イヤな感じだ。会話を聞いて、わたくしは、この側近らしき男の正体をなんとなく予想する。ちょっと前に、皇族メフノフが、わたくしの行方不明の従兄の話なんかするから、まさかー、なんて思って見てしまう。
「なんてことだ」
 ナインは、魔法を使って、この、側近らしき男の正体を見破った。
「まさか、あなたは、わたくしの母方の従兄ヘイズですか?」
 産みの母のことを先帝シオンは調べた。だから、従兄の名前だって知っている。つい最近、話題となったから、わたくしは、改めて、シオンが残した調査報告書を読み返した。
「まさか、よりによって、女帝陛下が、ヘイズの探していた人だなんて」
 リスキス公爵の弟ベンゼは、頭が痛いとばかりに、頭を抱えた。






 これは、本当に偶然で起こったことだ。だが、それは、神と妖精、聖域の導きのような偶然であった。
 わたくしの従兄ヘイズは、兄嫁の弟と王国へと先に移り住んだ。王国と帝国では、移住の際、貴族の身分はそのまま与えられることとなっていた。ただ、その身分は、それぞれの国が決めることだ。
 兄嫁の弟は、帝国では子爵だったという。そのまま、子爵を与えられるものと思っていたが、国王の前に立った従兄ヘイズを見て、王弟テンペストが気に入ってしまったのだ。兄嫁の弟は伯爵となり、従兄ヘイズは、テンペストが離さないため、リスキス公爵の養子となり、テンペストの側で過ごすこととなったという。
 幸い、ヘイズとテンペストは同い年だ。環境が変わり過ぎて混乱するヘイズをテンペストは優しく接し、妖精憑きらしく、囲ったのだ。
「父さんと母さんが待ってるから、行かないと」
「王国に到着したら、すぐ、ここに呼び寄せよう」
「叔母が赤ん坊を連れてくるんだ。病気だったらどうしよう」
「王国にさえいれば、私が病気からも守ってやろう」
 そうして、テンペストはヘイズを言葉巧みに宥め、側に置いたという。
 さすがに、ヘイズの身内である兄嫁の弟に面会させないわけにはいかなかった。兄嫁の弟は、定期的にヘイズと面会した。
「帝国の知り合いから手紙がきた。姉さんたちは死んだ」
「そ、そんなっ」
「屋敷が火事で死んだそうだ。遺体は、知り合いが丁重に葬ってくれた」
「う、ううう」
「まさか、死ぬなんて」
 兄嫁の弟は、一気に身内を亡くしたことに驚いたという。
 兄嫁の弟は、王国への移住をしたくなかった。だが、万が一のことがあるから、とわたくしの母に説得されたのだ。何事もなければ、一年ほどして戻ればいい、と説得され、兄嫁の弟はヘイズを連れて王国に移住したのだ。
 兄嫁の弟は、わたくしの母から、詳しいことは聞いていない。ただ、母のお腹の子は、尊い血筋だ、という話だけである。父親が誰か、と何度も質問したが、知らない方がいい、とはぐらかされたとか。
 兄嫁の弟は、身内を一気に亡くしたことで、帝国に戻ることは危険と自覚した。帝国への手紙のやり取りも、そこで途切れさせたという。
 しかし、従兄ヘイズは諦めなかった。誰か生きているかも、と希望を持って、帝国へ行くことをテンペストに願ったのだ。
 王族であるテンペストが、帝国へ行くのはなかなか難しい。かといって、ヘイズ一人を帝国に行かせるなんて、テンペストはしない。
 だから、今回の戦争の協力を利用して、テンペストはヘイズの望みを叶えようと、王国の使者の一人となって、帝国にやってきたのである。
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