修行のため、女装して高校に通っています

らいち

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第六章

最強の影響力 1

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何故か貴重な休憩時間にピリピリとした不穏な空気が流れている。
これはどうにかしなくては…と僕は頭を抱えた。

「今日は皆、忙しい中見学に来てくれてありがとうね。みんな由紀也のお友達なのよね? どうだった? 由紀也の踊り」

場の空気にそぐわないふわんとした声。
顔を上げると姉さんのにこやかな笑顔があった。

姉さんの柔らかな口調と笑顔に固まっていた空気が壊れ、場の雰囲気が変わった。
梓も宇野もお互い絡めあっていた視線を外して、それを姉さんに向けている。そしてその表情も、どこか苦笑交じりだ。

「あたしは由…由紀也の舞台は見たことあるんですけど、稽古を見学するのは初めてで、ちょっと感動しました。…こんな風に頑張ってるからこそ、あの舞台上の雪乃丞がいるんだなって思って…」

梓はそう言って、こちらに視線を向ける。凄く優しい瞳に、僕の胸が甘く高鳴ってしまう。

うわ~どうしよう。顔が熱くなっちゃった。
パタパタと手で顔を扇いでいると、ちょっと呆れ顔の佐藤が目に飛び込んでくる。

…う。分かってますよ!
浮かれてる場合じゃないって言いたいんだろ。
だけど、この場ではどうしようもないよ…。

宇野にはちゃんと僕の気持ちは伝わっているし、そのうえでさらに今ここで僕の方からその事を持ち出すのはどうかと思うし…。

「…それに関しては私も同感。舞台上の由紀也もかっこいいと思うけど、稽古してる時の由紀也も私は好きだな」

宇野も静かな口調で姉さんの問いに答えていた。さっきまでの冷ややかな感じとは違って、本当に思っていることを吐露しているといった風情だった。

余りにも静かな口調だったので、僕は突っ込むことも出来なかった。こういう時、どうする事が正解なんだろう。僕って実はへたれだったりするんだろうか?

なんて、もだもだと考えていると、僕のぐだぐだな神経を引き裂くぐらいの大声が稽古場に響き渡る。

「休憩終わり! 稽古、始めるぞ!」
「行こうか由紀也」
姉さんは表情を仕事モードに切り替えて、スクッと立ち上がる。

「うん」

今日は見学者は3人だけだが、最近平日とかにも見学希望者が多いせいで(平日は主婦の見学者が多いのだ)親父は見学時間を午後2時から4時までと時間制限を設けていた。

「みんな今日はありがとうな。また稽古に戻るから見送ることは出来ないけど、気を付けて帰って」
「うん、頑張って」

3人に激励されて手を振られたので、僕もそれに応えて手を振り、待っている前田さんの下へと小走りに走って行った。
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