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第三章
魔が差した
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「球技大会の練習するよー」
帰り支度をしていたら、細井さんが大声で呼びかけた。佳奈や吉田さんは、部活だから参加はしないらしい。
「楓さんたちも、補欠だけどくるでしょ?」
「あ……」
思わず小川君に視線を向けた。目が合うと、彼は口もとをキュッと結び、軽くこぶしを握って見せる。
「楓さん?」
「……うん。参加しようかな」
「えっ?」
傍にいた美穂さんが、驚きの声を上げた。その表情も、あきらかに私を責めている。
あー、うん。そうだね。私が出るって言ったら、同じ補欠の美穂さんとしては断りづらいか。
うん、ごめん。なんだか魔が差した。魔が差して……なぜか小川君のほうを見てしまった。
「じゃあ、行こうか」
細井さんの呼びかけに、美穂さんも渋々と従った。
着替えてグラウンドに集合して、さっそく円になっての練習に入った。補欠の美穂さんと私はそこまで重要視されていないのも事実なので、みんなは練習に参加しているという事実だけで満足してくれているようだった。
期待をされていないというのもアレだけど、私も美穂さんも肩の荷が下りてホッとする。
「ねえ、中山さんと小川君って仲がいいの?」
「えっ、そんなことないよ。ほとんどしゃべらないよ?」
「でもほら、球技大会の選ぶとき、小川君中山さんのこと推薦してたじゃない」
「あれは……変な思い込みがあったからだよ。変わってるんだよね」
「変わってるといえば、本当に変わってるよね」
「……なに?」
意味深な言い方が、ちょっと気になった。
「小川君ってさ、時々下を向いて誰かとしゃべってるみたいに、独りごと言ってるときがあるんだよ」
……あっ。
「分かる分かる、それ私も見たことある」
突然近くにいる麻実さんが口をはさんだ。それを機に、みんなもしゃべりだす。
「そういえば、私も見た記憶ある」
「え~? ほんとぉ?」
「なにそれ、気持ち悪っ!」
ちょ、ちょっと、気持ち悪いは言い過ぎだよ。
「でっ、でも小川君って、悪い奴じゃないよ?」
「ああ、うん。普通に優しいよね」
「でも変」
「言えるー」
こういううわさ話し、みんな好きだな……。
だけど、やっぱりあれは私の見間違いなんかじゃなかったんだ。
「ねえ、ちょっとみんな。おしゃべりはそのくらいにして!」
「はーい」
「二手に分かれてゲームするよ!」
私の入ったグループに、美穂さんが来ようとしたので止められた。へたっぴが偏るのは困るようだ。
「いくよー」
サーブが飛んできた。みんな上手に受けてラリーが続く。そのボールが私の近くにやってきたとき、私はやっぱり受けることができなかった。
「中山さん、自分で取ろうと思って前に出て!」
「うっ、うん。ごめん」
そう注意されても、やっぱりどうしても前に出ることができない。中途半端でみんなには悪いと思ったけれど、積極的になって楽しむのが怖かった。
―― 結局、何度私のところにボールがまわってきても同じような状態が続いて、私はみんなを落胆させて終わってしまったようだった。
帰り支度をしていたら、細井さんが大声で呼びかけた。佳奈や吉田さんは、部活だから参加はしないらしい。
「楓さんたちも、補欠だけどくるでしょ?」
「あ……」
思わず小川君に視線を向けた。目が合うと、彼は口もとをキュッと結び、軽くこぶしを握って見せる。
「楓さん?」
「……うん。参加しようかな」
「えっ?」
傍にいた美穂さんが、驚きの声を上げた。その表情も、あきらかに私を責めている。
あー、うん。そうだね。私が出るって言ったら、同じ補欠の美穂さんとしては断りづらいか。
うん、ごめん。なんだか魔が差した。魔が差して……なぜか小川君のほうを見てしまった。
「じゃあ、行こうか」
細井さんの呼びかけに、美穂さんも渋々と従った。
着替えてグラウンドに集合して、さっそく円になっての練習に入った。補欠の美穂さんと私はそこまで重要視されていないのも事実なので、みんなは練習に参加しているという事実だけで満足してくれているようだった。
期待をされていないというのもアレだけど、私も美穂さんも肩の荷が下りてホッとする。
「ねえ、中山さんと小川君って仲がいいの?」
「えっ、そんなことないよ。ほとんどしゃべらないよ?」
「でもほら、球技大会の選ぶとき、小川君中山さんのこと推薦してたじゃない」
「あれは……変な思い込みがあったからだよ。変わってるんだよね」
「変わってるといえば、本当に変わってるよね」
「……なに?」
意味深な言い方が、ちょっと気になった。
「小川君ってさ、時々下を向いて誰かとしゃべってるみたいに、独りごと言ってるときがあるんだよ」
……あっ。
「分かる分かる、それ私も見たことある」
突然近くにいる麻実さんが口をはさんだ。それを機に、みんなもしゃべりだす。
「そういえば、私も見た記憶ある」
「え~? ほんとぉ?」
「なにそれ、気持ち悪っ!」
ちょ、ちょっと、気持ち悪いは言い過ぎだよ。
「でっ、でも小川君って、悪い奴じゃないよ?」
「ああ、うん。普通に優しいよね」
「でも変」
「言えるー」
こういううわさ話し、みんな好きだな……。
だけど、やっぱりあれは私の見間違いなんかじゃなかったんだ。
「ねえ、ちょっとみんな。おしゃべりはそのくらいにして!」
「はーい」
「二手に分かれてゲームするよ!」
私の入ったグループに、美穂さんが来ようとしたので止められた。へたっぴが偏るのは困るようだ。
「いくよー」
サーブが飛んできた。みんな上手に受けてラリーが続く。そのボールが私の近くにやってきたとき、私はやっぱり受けることができなかった。
「中山さん、自分で取ろうと思って前に出て!」
「うっ、うん。ごめん」
そう注意されても、やっぱりどうしても前に出ることができない。中途半端でみんなには悪いと思ったけれど、積極的になって楽しむのが怖かった。
―― 結局、何度私のところにボールがまわってきても同じような状態が続いて、私はみんなを落胆させて終わってしまったようだった。
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