4 / 75
第一章
秋永君のせいだよ
しおりを挟む
態度がぶれないのは確かだけど、だからって言って、根性があるかどうかは分かんないけどね。でも……。
「そう言えば、秋永君が怒ってるところって見たこと無いなあ……」
時々さっきのように私の拳や足が飛んできても、実際笑ってかわすことのできるような人間だ。
……でもそれってさあ、やっぱりなんだかいい人過ぎて胡散臭いって思わない?
欠点の無い人間なんているわけないと思うし、そんな『優しく完璧ないい人』、なんてのを目の前にしたら、裏があると考える方が普通だ。
そんなことを思いながら、覗き見気分で秋永君の席を窺ってみる。視線の先の秋永君は、楽しそうに話す周りに対して相槌を打ち、ほぼ聞き役に徹しているようだった。
「聞き上手……」
聞き上手に笑顔を絶やさない優しい人? やっぱりこれってどう考えても裏のある胡散臭い人じゃないの? 漫画に出てくるサブキャラの良い人っぽい人物って、そういうのとかよくあるじゃん。
「何? どうしたの、未花。もしかして秋永君のこと気になってきてるの?」
「え? や、そういうわけじゃないけど……」
「けど?」
私が重度の男嫌いということを知っている雅乃は、興味津々というよりも、私が男子を気にして見ているという事実に驚いているようで目をまん丸くしている。
「秋永君ってたいていいつもニコニコへらへらしてるじゃない? 何考えてるか分からないっていうか……。だからちょっと胡散臭いかもなーって思って」
「へらへらして胡散臭いって……。私はそんな印象無いけどな。穏やかな人だなーって感じだよ?」
「穏やか……。まあ、そうだね。いきなり拳が飛んできても、怒ったりしないものね」
「アハハ。そうだね。あ、先生来た!」
雅乃は慌てて自分の席に戻って行く。私はそれに手を振って応えて、チラッと視線を秋永君の方に戻した。
彼の周りの人たちもそれぞれ座りなおして前を向き、秋永君も姿勢を正して前を向いた。その時に彼とパチッと目が合う。
ヤバッ。私が秋永君のこと見てたの気づかれちゃった。
慌てて目を逸らす私の視界の端に、驚く顔からうれしそうな表情に変化する秋永君の顔が映っていた。
「…………」
……何、あれ。あの表情。
あまりにもうれしそうなあの表情の意味が分からなくて、戸惑った。もぞもぞするというか、何と表現していいのか分からない微妙な気持ちに、手のひらを軽く握って口元を覆う。
「あ~、やっぱり訳わかんない。変」
「どこが分からないのかしら? 糸魚川さん」
「え? あ、いえっ!」
驚いて見上げた先には、いつの間に立っていたのか怖い笑顔の小田原先生。教科書も広げずにポケーッと秋永君のことを考えていたので、その気配に全く気が付かなかった。
先生の表情があまりにも怖すぎたので、何とか胡麻化そうと慌てて教科書を捲るも、今どこのページに進んでいるのかも分からない。焦ってキョロキョロしていると、先生が低い声で「三十二ページ」と呟いた。
「すみません……」
いやな汗を掻きながら、言われたページを開いてため息を吐く。先生は一瞬チラリとこちらを見て、そのまま前の方に歩いて行った。
……あ~、マジ焦った。質問されないだけでも良かったよ。
一瞬、ピンと張りつめた空気になっていた教室も、どうやら普段の緩んだ雰囲気に戻っているようだ。それにホッとして、この時間中はしっかりと授業に集中した。
「そう言えば、秋永君が怒ってるところって見たこと無いなあ……」
時々さっきのように私の拳や足が飛んできても、実際笑ってかわすことのできるような人間だ。
……でもそれってさあ、やっぱりなんだかいい人過ぎて胡散臭いって思わない?
欠点の無い人間なんているわけないと思うし、そんな『優しく完璧ないい人』、なんてのを目の前にしたら、裏があると考える方が普通だ。
そんなことを思いながら、覗き見気分で秋永君の席を窺ってみる。視線の先の秋永君は、楽しそうに話す周りに対して相槌を打ち、ほぼ聞き役に徹しているようだった。
「聞き上手……」
聞き上手に笑顔を絶やさない優しい人? やっぱりこれってどう考えても裏のある胡散臭い人じゃないの? 漫画に出てくるサブキャラの良い人っぽい人物って、そういうのとかよくあるじゃん。
「何? どうしたの、未花。もしかして秋永君のこと気になってきてるの?」
「え? や、そういうわけじゃないけど……」
「けど?」
私が重度の男嫌いということを知っている雅乃は、興味津々というよりも、私が男子を気にして見ているという事実に驚いているようで目をまん丸くしている。
「秋永君ってたいていいつもニコニコへらへらしてるじゃない? 何考えてるか分からないっていうか……。だからちょっと胡散臭いかもなーって思って」
「へらへらして胡散臭いって……。私はそんな印象無いけどな。穏やかな人だなーって感じだよ?」
「穏やか……。まあ、そうだね。いきなり拳が飛んできても、怒ったりしないものね」
「アハハ。そうだね。あ、先生来た!」
雅乃は慌てて自分の席に戻って行く。私はそれに手を振って応えて、チラッと視線を秋永君の方に戻した。
彼の周りの人たちもそれぞれ座りなおして前を向き、秋永君も姿勢を正して前を向いた。その時に彼とパチッと目が合う。
ヤバッ。私が秋永君のこと見てたの気づかれちゃった。
慌てて目を逸らす私の視界の端に、驚く顔からうれしそうな表情に変化する秋永君の顔が映っていた。
「…………」
……何、あれ。あの表情。
あまりにもうれしそうなあの表情の意味が分からなくて、戸惑った。もぞもぞするというか、何と表現していいのか分からない微妙な気持ちに、手のひらを軽く握って口元を覆う。
「あ~、やっぱり訳わかんない。変」
「どこが分からないのかしら? 糸魚川さん」
「え? あ、いえっ!」
驚いて見上げた先には、いつの間に立っていたのか怖い笑顔の小田原先生。教科書も広げずにポケーッと秋永君のことを考えていたので、その気配に全く気が付かなかった。
先生の表情があまりにも怖すぎたので、何とか胡麻化そうと慌てて教科書を捲るも、今どこのページに進んでいるのかも分からない。焦ってキョロキョロしていると、先生が低い声で「三十二ページ」と呟いた。
「すみません……」
いやな汗を掻きながら、言われたページを開いてため息を吐く。先生は一瞬チラリとこちらを見て、そのまま前の方に歩いて行った。
……あ~、マジ焦った。質問されないだけでも良かったよ。
一瞬、ピンと張りつめた空気になっていた教室も、どうやら普段の緩んだ雰囲気に戻っているようだ。それにホッとして、この時間中はしっかりと授業に集中した。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる