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第一章

「可哀そうに秋永君」、「?」

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「未花、さっきの何だったの? びっくりしたよ。気分でも悪かった?」
「あ、ううん。そんなんじゃなくて……、ちょっとボーッとしてた」

 私があんな風に注意されるのは初めてだったので、雅乃は心配してくれていたようだ。授業が終わるや否や、席を立って私の方に一直線でやってきた。

「……ボーッと?」
「うん、ボーッと……」
「らしくないなあ。どれどれ。……んー、熱は無いね」

 私のおでこにスルッと手を当てて、雅乃は首を傾げた。

「未花ちゃん、熱あるの?」
「え? 秋永君?」
「うわっ、びっくりした!」

 雅乃との会話に突然秋永君が割り込んできてびっくりした。さっきまで自分の席に着いていたはずなのに、今は雅乃の後ろから顔を覗かせている。

「未花ちゃん?」
「あ、ううん。熱は無いよ」
「うん、これは平熱だね」
「……そっか、良かった」

 あからさまにホッとして安堵の表情になる秋永君に、今度はこっちが落ち着かない気分になる。だってさ、私と秋永君って別に友達でもなんでもないし、それどころか私は男嫌いだから、どちらかというと絡んでほしくないって思っているのに。

「あ~、へええー。なーるほーどね~」
「……? 何よ、雅乃」

 私がそんなふうに戸惑っているその横で、雅乃がなんだかニヤニヤしながら頷いている。そんな彼女の様子に秋永君は一瞬ドギマギしたような顔をした後、パッと私の方に視線を向けた。

「で、本当に具合が悪いとか、そういうことは無いんだね?」
「え? うん」
「そうか、良かった。未花ちゃ……」
「ぅおーい、ヒロー!」
「あの、……、と。なんだよ!」

 背後からの椎名君の呼び声に、秋永君が鬱陶しそうに振り返った。

「あれ? そこか。悪い、悪い」

 悪いと言いながらも、椎名君は何度も何度も手招きしている。秋永君はため息を吐いて、椎名君の下へと歩いて行った。

「秋永君って、いいね~」
「……ああ、もしかして秋永君のこと好きなの雅乃?」
「はっ? ヤダ、違う違う、そうじゃなくて!」
「うん?」
「……ま、そうだよね。未花は男嫌いだもんねえ」
「なに当たり前のこと言ってんのよ」
「いや、うん。まあいいや、何でもないよ」
「……?」

 何が言いたいのかさっぱり分からなくて首を傾げる私に、雅乃は笑いながら手を振った。

「可哀想に、秋永君」
「なんで?」
「ううん、いいの。いいの。こっちの話。……でも、同情するなあ」

 頬杖をついて意味不明な言葉を発する雅乃を見ながら、私は首を傾げた。
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