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第一章
とんでもない出会い 3
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「いただきます」
「いただきます……、って、高科さん!」
箸を持ったかと思ったら、居眠りを始めている。今にも箸を落としそうなその状態に、慌てて席を立って箸を掴み、握らせた。
「あらあら、変わらないわねえ」
変わらないって……。大谷さんの楽しそうな声。いいんですか、このままで?
とにかくこの人の目を覚まさせないとと思い、高科さんの顔の前でパシンと手を鳴らした。
「……っ」
ビクンと反応して固まった。どうやら目が覚めたらしい。
「ちゃんと目を覚まして、しっかりご飯を食べて下さい。そんないつ食べたかわからないような食生活では駄目ですよ」
「別に……、昨夜食べたのは覚えている」
バツの悪さから来るのか、高科さんはそっぽを向いてぼそぼそと呟くように話した。
全くもう、本当にこの人は。大きな成りをしている癖に、まるで小学生のようだ。いや、もしかしたら小学生の方がまだしっかりしているかもしれない。
「たったクロワッサン一つでしょう。そんな物夕飯の内には入りませんよ」
「煩い奴だな、構うなよ。俺は研究さえしていればいいんだ。その他の事なんてどうでもいい。本当は飯食う時間すらもったいな……」
「バカなこと言わないで下さい! 体あっての研究でしょう? そんな無茶して体壊したら、好きな事なんて出来なくなりますよ。ちゃんと仕事してお金だってあるんですから、栄養のある物をしっかり食べて下さい。子供じゃないでしょうが!」
人ごととは言え、あまりにも自分の体を顧みない高科さんに思わず切れた。つい大声で捲し立て、一瞬室内がシンと静まり返る。
「あ……、っ」
ど、どうしよう、やっちゃった。
間違ったことを言ったとは思わないけど、こんな風に切れて押し付ける言い方をしていいってわけがない。
「そうよ~、高科さん。白山さんの言う通りよ」
「あ……」
「もっと自分のことを大事にしなきゃ、ねえ?」
「は、はい!」
大谷さんの柔らかな声が、固まった空気を柔らかく崩してくれた。ホッとして高科さんを見ると、バツが悪そうに箸で和え物を弄くっている。
良かった。どうやら怒っているわけではなさそうだ。
「怒鳴ってしまってすみませんでした。でも、仕事が大事なら余計に、体を大事にしてほしいんです」
「そうそう、そういうこと! じゃあ、いただきましょう」
大谷さんは明るくそう言って、味噌汁を啜った。
今日の日替わりメニューは、肉野菜炒め定食だ。もやしにピーマン、人参キャベツと豚肉の炒め物に、味噌汁にホウレン草の和え物が添えられていて、デザートにヨーグルトも付いている。
隣の高科さんは最初はそれこそ箸を握るのも面倒だという風情だったけれど、それでもゆっくりゆっくりと口の中に運んで行き、しっかりと食事を進めていった。
「高科さん、美味しい?」
そんな高科さんを見て、大谷さんがにこやかに聞く。その穏やかな声につられて、高科さんも素直に頷いた。
この人、研究なんてすごい仕事をしているくせに、見た目も生活能力も相当低いよね……。
呆れちゃうけど。でも、だからなのかなあ。他の研究員の人たちと接する時のように、変な緊張感が湧いて来ないのは。
それにしても、素直に黙々とご飯を食べる姿って、まるで図体のでかいひよこみたいで、可愛いと言えなくもない。さっきまでは呆れを通り越して苛立ちすら感じていたのに。私もかなり単純だ。
「あの、高科さん」
「……何だ?」
「これからはちゃんと、三食きちんと取って下さいね。ここでのお昼は皆さんの健康を考えてのメニューになっていますから、夜は外食でもいいですし」
「ああ、……努力する」
「高科さん……」
「良かったわねえ、白山さん。高科さんも、約束したんだから頑張るのよ」
「敵わないな、大谷さんには。でも、はい。頑張ります」
そう言ってしっかりと頷き箸を進める高科さんを見て、大谷さんと二人で破顔した。
そして昼食を終えた高科さんを見送り、私は片付けを済ませた後、定時の四時で仕事を上がった。
「いただきます……、って、高科さん!」
箸を持ったかと思ったら、居眠りを始めている。今にも箸を落としそうなその状態に、慌てて席を立って箸を掴み、握らせた。
「あらあら、変わらないわねえ」
変わらないって……。大谷さんの楽しそうな声。いいんですか、このままで?
とにかくこの人の目を覚まさせないとと思い、高科さんの顔の前でパシンと手を鳴らした。
「……っ」
ビクンと反応して固まった。どうやら目が覚めたらしい。
「ちゃんと目を覚まして、しっかりご飯を食べて下さい。そんないつ食べたかわからないような食生活では駄目ですよ」
「別に……、昨夜食べたのは覚えている」
バツの悪さから来るのか、高科さんはそっぽを向いてぼそぼそと呟くように話した。
全くもう、本当にこの人は。大きな成りをしている癖に、まるで小学生のようだ。いや、もしかしたら小学生の方がまだしっかりしているかもしれない。
「たったクロワッサン一つでしょう。そんな物夕飯の内には入りませんよ」
「煩い奴だな、構うなよ。俺は研究さえしていればいいんだ。その他の事なんてどうでもいい。本当は飯食う時間すらもったいな……」
「バカなこと言わないで下さい! 体あっての研究でしょう? そんな無茶して体壊したら、好きな事なんて出来なくなりますよ。ちゃんと仕事してお金だってあるんですから、栄養のある物をしっかり食べて下さい。子供じゃないでしょうが!」
人ごととは言え、あまりにも自分の体を顧みない高科さんに思わず切れた。つい大声で捲し立て、一瞬室内がシンと静まり返る。
「あ……、っ」
ど、どうしよう、やっちゃった。
間違ったことを言ったとは思わないけど、こんな風に切れて押し付ける言い方をしていいってわけがない。
「そうよ~、高科さん。白山さんの言う通りよ」
「あ……」
「もっと自分のことを大事にしなきゃ、ねえ?」
「は、はい!」
大谷さんの柔らかな声が、固まった空気を柔らかく崩してくれた。ホッとして高科さんを見ると、バツが悪そうに箸で和え物を弄くっている。
良かった。どうやら怒っているわけではなさそうだ。
「怒鳴ってしまってすみませんでした。でも、仕事が大事なら余計に、体を大事にしてほしいんです」
「そうそう、そういうこと! じゃあ、いただきましょう」
大谷さんは明るくそう言って、味噌汁を啜った。
今日の日替わりメニューは、肉野菜炒め定食だ。もやしにピーマン、人参キャベツと豚肉の炒め物に、味噌汁にホウレン草の和え物が添えられていて、デザートにヨーグルトも付いている。
隣の高科さんは最初はそれこそ箸を握るのも面倒だという風情だったけれど、それでもゆっくりゆっくりと口の中に運んで行き、しっかりと食事を進めていった。
「高科さん、美味しい?」
そんな高科さんを見て、大谷さんがにこやかに聞く。その穏やかな声につられて、高科さんも素直に頷いた。
この人、研究なんてすごい仕事をしているくせに、見た目も生活能力も相当低いよね……。
呆れちゃうけど。でも、だからなのかなあ。他の研究員の人たちと接する時のように、変な緊張感が湧いて来ないのは。
それにしても、素直に黙々とご飯を食べる姿って、まるで図体のでかいひよこみたいで、可愛いと言えなくもない。さっきまでは呆れを通り越して苛立ちすら感じていたのに。私もかなり単純だ。
「あの、高科さん」
「……何だ?」
「これからはちゃんと、三食きちんと取って下さいね。ここでのお昼は皆さんの健康を考えてのメニューになっていますから、夜は外食でもいいですし」
「ああ、……努力する」
「高科さん……」
「良かったわねえ、白山さん。高科さんも、約束したんだから頑張るのよ」
「敵わないな、大谷さんには。でも、はい。頑張ります」
そう言ってしっかりと頷き箸を進める高科さんを見て、大谷さんと二人で破顔した。
そして昼食を終えた高科さんを見送り、私は片付けを済ませた後、定時の四時で仕事を上がった。
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