2 / 6
2
しおりを挟む
晴臣の目線に瑛の頭上がある。
背中に回していた手で、瑛の短く刈り込んだ頭を荒くなでた。
「切ったんだな。黒に染め直したの?」
と聞くと、うなずいた。
黒目がちな瑛の瞳には、黒髪があっている。
「似合っている」
「はるなら、そう言ってくれると思った」
頭にやった手を下ろさせながら言った。
会うまでは寂しさが心の大半を占めていたが、会うと嬉しさが勝った。
おろされて手持ち無沙汰になった手で、行き先をしめす。
「この靴よさげ。ここ見る?」
ショーウィンドウにスマートな黒の革靴が展示してあった。
「いけど、ほしいのは仕事用じゃないんだ」
「……、あき、もしかして、デート用?」
流すこともできた。
問うたあとの瑛の顔を見て、聞かなきゃよかったとも思った。
照れくさそうにする顔に、質問した数秒前に戻って、質問を取り消したくなってしまった。
まだ、彼女とは続いているのかと、気持ちがずんと重くなる。
「オーケイ、オーケイ。見るか」
ひくついた笑顔になってなきゃいい。
取り繕った笑顔になりたくはない。
せっかく一年ぶりに会えたのだ。この時間を楽しもう。
落ち込みそうになる気持ちをとりなし、店内に入った。
あれは、これは、と靴を見ていく。
大型の商業施設に入り、靴屋を転々とする。
瑛が店内の靴から晴臣の靴に目線を移した。
今日は、カジュアルな服に合わせて、シンプルなメーカーのひも靴。色は白。瑛は、だぼっとした紺地のトレーナーに合わせてか、黒に白のライン線が入ったスニーカーだ。
全体に黒目なので、スニーカーも黒地を進めてみたが、購入までは気持ちが進まないようだった。
「はる、サイズって、27センチ?」
「正確には27.5」
「白、好きなんだっけ?」
「オレ?」
晴臣が履いている靴が白だから、そう聞いたのだろうか。なぜ、そんなことを聞くのかと気になったものの、
「黒」
とだけ答えた。
え、と、意外そうな目を向けてくる瑛に、理由は問わないでほしいと、内心思いつつ、ニコリと笑みを返した。
晴臣が黒を好きなのは、瑛が黒が似合うから。
ただそれだけだった。
自分でもあきれるが、まあ、恋は盲目だから、仕方ないと、自称気味に笑んだ。
瑛は思ったような靴がないのか、店をでた。フロアをぶらついていると、瑛がアウトドア用品の店に入っていった。
「キャンプ?」
並べてある用品を興味深そうに見ている瑛に聞いた。
「大学時代は、お金もなかったから、借りてたけど、今なら買えるかなって」
晴臣は、瑛がキャンプで彼女と楽しそうにキャンプしているさまを思いうかべてしまった。
いやいや。と想像を手で払って思考から追い出した。
自分から寂しい気持ちになることもない、と、晴臣も用具を手にとって見ていく。
キャンプに行く予定はなくとも、見ているだけで、心が躍る。
晴臣はキャンプよりも行くなら登山だった。
登山靴を手にとっていると、瑛が「気に入ったの?」と、手元をのぞき込んできた。
「いや。かっこいいなって見てた。買わないけど」
「なんで?」
「行く用事がないから」
「用事作れば」
「じゃあ、あきが一緒に行ってくれる?」
半分冗談で、半分は勢いで言った。
「そうだね。考えとく」
「いい返事を期待してるよ」
瑛は、ははっと笑って、他のテントを見に行ってしまった。
『考えとく』か。『期待してる』と言ってしまったが、待つのは辛い。どれだけ待てば答えがくるのか。期待しないで待つことなんて、できない。
晴臣は、登山靴を置いて、他を見回った。
しばらくして、お店の人と瑛が話をしていた。注文するから、店の外で座ってて待ってて、と言うので、意味もなくスマホでSNSを見て過ごしていると、
「ごめん。待たせた」
瑛が駆け寄ってきた。
歩きながら晴臣は瑛を見た。満足そうな顔に、肩をすくめた。
背中に回していた手で、瑛の短く刈り込んだ頭を荒くなでた。
「切ったんだな。黒に染め直したの?」
と聞くと、うなずいた。
黒目がちな瑛の瞳には、黒髪があっている。
「似合っている」
「はるなら、そう言ってくれると思った」
頭にやった手を下ろさせながら言った。
会うまでは寂しさが心の大半を占めていたが、会うと嬉しさが勝った。
おろされて手持ち無沙汰になった手で、行き先をしめす。
「この靴よさげ。ここ見る?」
ショーウィンドウにスマートな黒の革靴が展示してあった。
「いけど、ほしいのは仕事用じゃないんだ」
「……、あき、もしかして、デート用?」
流すこともできた。
問うたあとの瑛の顔を見て、聞かなきゃよかったとも思った。
照れくさそうにする顔に、質問した数秒前に戻って、質問を取り消したくなってしまった。
まだ、彼女とは続いているのかと、気持ちがずんと重くなる。
「オーケイ、オーケイ。見るか」
ひくついた笑顔になってなきゃいい。
取り繕った笑顔になりたくはない。
せっかく一年ぶりに会えたのだ。この時間を楽しもう。
落ち込みそうになる気持ちをとりなし、店内に入った。
あれは、これは、と靴を見ていく。
大型の商業施設に入り、靴屋を転々とする。
瑛が店内の靴から晴臣の靴に目線を移した。
今日は、カジュアルな服に合わせて、シンプルなメーカーのひも靴。色は白。瑛は、だぼっとした紺地のトレーナーに合わせてか、黒に白のライン線が入ったスニーカーだ。
全体に黒目なので、スニーカーも黒地を進めてみたが、購入までは気持ちが進まないようだった。
「はる、サイズって、27センチ?」
「正確には27.5」
「白、好きなんだっけ?」
「オレ?」
晴臣が履いている靴が白だから、そう聞いたのだろうか。なぜ、そんなことを聞くのかと気になったものの、
「黒」
とだけ答えた。
え、と、意外そうな目を向けてくる瑛に、理由は問わないでほしいと、内心思いつつ、ニコリと笑みを返した。
晴臣が黒を好きなのは、瑛が黒が似合うから。
ただそれだけだった。
自分でもあきれるが、まあ、恋は盲目だから、仕方ないと、自称気味に笑んだ。
瑛は思ったような靴がないのか、店をでた。フロアをぶらついていると、瑛がアウトドア用品の店に入っていった。
「キャンプ?」
並べてある用品を興味深そうに見ている瑛に聞いた。
「大学時代は、お金もなかったから、借りてたけど、今なら買えるかなって」
晴臣は、瑛がキャンプで彼女と楽しそうにキャンプしているさまを思いうかべてしまった。
いやいや。と想像を手で払って思考から追い出した。
自分から寂しい気持ちになることもない、と、晴臣も用具を手にとって見ていく。
キャンプに行く予定はなくとも、見ているだけで、心が躍る。
晴臣はキャンプよりも行くなら登山だった。
登山靴を手にとっていると、瑛が「気に入ったの?」と、手元をのぞき込んできた。
「いや。かっこいいなって見てた。買わないけど」
「なんで?」
「行く用事がないから」
「用事作れば」
「じゃあ、あきが一緒に行ってくれる?」
半分冗談で、半分は勢いで言った。
「そうだね。考えとく」
「いい返事を期待してるよ」
瑛は、ははっと笑って、他のテントを見に行ってしまった。
『考えとく』か。『期待してる』と言ってしまったが、待つのは辛い。どれだけ待てば答えがくるのか。期待しないで待つことなんて、できない。
晴臣は、登山靴を置いて、他を見回った。
しばらくして、お店の人と瑛が話をしていた。注文するから、店の外で座ってて待ってて、と言うので、意味もなくスマホでSNSを見て過ごしていると、
「ごめん。待たせた」
瑛が駆け寄ってきた。
歩きながら晴臣は瑛を見た。満足そうな顔に、肩をすくめた。
22
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる