ある新緑の日に。

立樹

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 晴臣はるおみは、どこのコンビニの、どの飯がうまかったか、夜アパートに帰ってカーテンを閉めようとしたら、気配がして怖かったとか。当たり障りのない話をした。
 そのたびにあきらが、相づちをうってくれるので、しゃべるのも楽だった。

 話の最中、笑ってくれる瑛の顔をずっと見ていたい。

「お待たせいたしました」
 店員が注文の品がテーブルに次々に置かれていった。
 ロースやバラなどの肉の盛り合わせに、焼き野菜など。
 五人前でも二人で食べきれそうだ。それでもまだ足りないかもしれない。

「んじゃあ、おれ焼くよ」

 瑛はトングを持って、さっそく肉を網の上にのせていく。

 もう一つトングがあるので、晴臣も空いたスペースに置いていった。
 じゅっと音がして、焼けた肉から油がしたたり落ちれば、火が網を越して、ボッと燃えあがる。
 さっきまで会話していたのがウソのように、無言で焼いていく。火の勢いが強いからだろう、手を動かさないでいれば、すぐに焦げてしまう。
 焼けた肉から、瑛の皿に入れていく。

「食えよ」
「いいよ。はるが先に食べなよ」
「あのな」
 手を動かしつつ、瑛を見た。

 目を合わせると、彼の手が止まった。

 真剣な顔をしているからか、あらたまった口調になったから、なにを言うのかと気になったのだろう。

「予約を取ったのはオレ」
「そうだね」
 ありがとう、と言いつつ首を傾げている。

「そのオレは、あきが美味しそうに食べてるところをみたいわけ」
「……」
「つーわけで、ほら、食えって」

 どんどん入れていくと、あきらめたように苦笑顔になって、トングを置いて箸を持った。

 瑛が、肉をたれにつけて口に入れて咀嚼する。ほら、見ろよ。とばかりに、目線を合わせてくる。

「ちょっ、あき。挑戦的な目線を送ってくんな」
 ぞくりとしてしまって、視線から逃れたくなってしまう。

「もっと、うまそうに食えって」
 と続けた。

「……意識するじゃん」
 小声だったので、聞こえた言葉が合っているかわからずに、
「もう一回」

「だから、うまそうとか美味しそうとか、食べてるところが見たいなんていうから、顔が強張ってんの。聞こえた」

「あー、つまり。挑戦的、なんじゃなくて、強張ってんのね」

 にやりと笑うと、すねて顔をそむけてしまった。まあ、そんな顔も――

「かわいいな」
 聞こえないぐらい小さくつぶやいた。

 そうしているうちにも、肉も野菜も焼けていく。

「肉の山になってるし。『うまそうに』は、いいから、食べて」
 顔を戻し、「ほら」と箸つまんだ肉が差し出された。

「え?」
 差し出された肉と、瑛の顔を交互に見た。

「食べさせてあげる」

 にっこりと作り笑いを浮かべている。
 その笑みに、ほほがひくつく。

 こんな笑みを浮かべているときは、瑛が腹を立てているときだ。

「お、おこった?」

「『かわいい』おれからの、お礼だよ」

 ああ、さっき言ったのが聞こえていたようだった。

 失敗したとは思ったが、瑛がさしだしてくれたのだ。
 ありがたくいただけばいい。

 箸を持つ手首をつかみ、自分の方へとひっぱる。それを横から、かじりとった。

 ちょうど横を向いたときに、となりで焼いていた女性二人と目があった。
 じっと、こちらを見ていたが、さっきの瑛のような作り笑いを浮かべると、ぱっと顔を逸らしてしまった。

 ふっと鼻から息を出し、瑛を見れば、瞬きもせずに固まっている。

「もう一回」
 リピートをお願いすると、瑛は、はっとした顔になった。

「いや。やめとく」
 と言いつつ、大きなため息をついていた。

「なんでため息?」

「はるって、こちらが意趣返しをしても、それさえ返されるからずるよね。もっと、自分の顔の影響力を考えた方がいいよ」

「……、それって、ちょっとはドキッとしてくれたってことでいい?」
 瑛が、自分を意識してくれているようで、テンションが上がった。

 けれど、彼は眉をひそめ、

「焼くのをさ、一先ずおいといて、はるも食べないよ」
 淡々と山になった肉を、晴臣の皿へと入れていった。

 まあ、そうだよな。と、テンションは普通に戻り、淡々と皿に入れられた肉を消化していった。
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