夜食を、君と。

立樹

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 その次の週の日曜日の夜。
 いつもより帰宅が遅くなった。忙しく休憩もあまりとれずにいたのもあって、おなかが空いていた。
 二十二時を過ぎた今、スープのほうがいいとはわかっていても、どうしてだかパスタが食べたい気分だった。
 冷蔵庫を開けると、トマトとアボカドがある。

「パスタサラダにするか」

 鍋を火にかけてお湯がわくのを待っていると、呼び鈴が鳴った。

 夜更けのこんな時間に、宅急便でもないどろうし。
 もしかして藍生かも知らないと、スマホを見ても、広告の通知ばかり。

「藍生じゃないよな」

 すると、もう一度、呼び鈴がなった。

 あやしいと思いつつ、いったん火をとめて玄関の扉ののぞき穴から外を見た。

 藍生……?

 フードをかぶって下を向いているが、明るい色の長めの前髪は藍生だ。

 勢いよく玄関の扉を開けた。

「こんばんは。あ、あの誠也さん、助けてください!」

 勢いよく頭をさげた藍生の脚に隠れるようにしがみついている小さな子どもがいた。

 俺は、驚きすぎて言葉が出ない口をパクパクさせていると、その子がくしゃっと顔をゆがめて泣きはじめた。

「え……ん……、いやっ! かえるー」

 脚から手を離して、階段のほうへ駆けだそうとした子どもを、藍生がつかまえた。

「帰らないよ。だいじょうぶだって。おなかすいただろ? プリン。プリン好きだったよな?」

 藍生があやすように言っても、泣き声は大きくなるばかりだ。

「とにかく、入って」

 扉を開けて、中にうながした。

「ありがとうございます。ほら、行こう」

 けれど、藍生が子どもの腕を引っ張っても、足をつっぱって行こうとしない。

「ちょっとごめんな」

 俺は、ひょいとその子を抱きあげて、中に入った。

 びっくりしたのか、一瞬だけ泣き止んだものの、再度泣きはじめた声はだんだん大きくなっていく。玄関で靴をぬがせて下ろすと、すぐに藍生の脚にしがみついた。

「リビングで適当にくつろいでいて」

「すみません」

「いいから」

 靴をぬいだ藍生が子どもの手を引いて、リビングに入って行くのを見送る。
 子どもは反発しないで藍生に手を引かれてたどたどしくも歩いていた。
 ほっと息をはいて、飲み物をとりにキッチンへ向かった。

 麦茶、でいいよな。

 小さい子どもの相手をするのは、久しぶりだった。
 実家では、十三歳も年の離れた末っ子である大智のお守りをしていたが、それ以来だろう。でも大智よりもよく泣いている。

 ってか、誰の子? 
 まさか、藍生? 
 じゃあ、母親は前に出会ったあの女性……?

 動揺しつつも、それを顔にはださないようにリビングにいる藍生のところへ飲み物を持って行った。

「麦茶でいい?」

 二つのカップをテーブルに置いた。

「ありがとうございます。ほら、リオン」

 コップを渡そうとしても、リオンと呼ばれたその子は、ぷいっと横を向いた。

「のどかわいてるだろ」

 顔の前にコップをもっていくと、
「いらない!」
 と言って手がでた。

「あっ」と思ったときには、コップに手が当たって、コップが床に落ちた。
 リオンと藍生の服とズボンがぬれている。

「わ、やばっ!」
 藍生がイスから立ち上がり、キッチンに行こうとするのを止めた。

「俺がふくから、この子を」 

 さっきまで泣き止んでいたリオンは、また大泣きしている。

 その頭を「大丈夫だからな」と言ってなでてから、雑巾をキッチンに取りにいった。そのついでに風呂も入れにいく。

 リビングにもどってきても、泣いている。小さいのに、どこからこんな声がでるのかと思うほどに大きい。

「かえる~」
「明日な」
「いやー」
「ママ、用事が終わったらすぐ帰ってくるから……」

 二人の会話は聞いているとループしていて、リオンも気持ちが治まらないのか泣いたままだ。

「藍生」

 呼ぶと、こっちを向いた。その顔はほとほと困り果てているのか眉尻がさがっている。
 手馴れていない様子から、ふと、リオンの父親は藍生じゃないのかもしれない、と思った。
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