夜食を、君と。

立樹

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 人の温かさで目が覚めた。

 久しぶりに小さい子の相手をしたからか、体がだるい。もう少し寝ていたくて、目を閉じていた。胸元と腰に布団ではない重みを感じる。

 そうだ、リオンと一緒に寝たっけ。

 いつもは一人で寝ていたから、人の温度が心地よかった。

 大智も同じようにくっついてよく寝ていたっけ。

 そのときの感触を思い出して、どうしているのだろう、と懐かしくなった。
 夢うつつに考えていると、どんと背中に何かがぶつかってきた。

「……?」

 ぱっと目を開けた。

「え」

 胸に抱き込んでいたのはリオンではなく、藍生だ。
 たしかに、よく考えればわかることだった。

 リオンにしては大きい……大きすぎるぐらいなのに。

 意識が覚醒すると同時に、心臓がうるさく鳴る。

 寝ころんだまま後ろへ顔だけ向けてぶつかってきたものを確認する。小さなふわっとした柔らかい髪が見える。リオンだ。

 二人を起こさないようにゆっくりと状態を起こす。
 左の壁側にリオン。反対側に藍生。セミダブルのベッドに三人で寝ていた。

 寝かしつけてからの記憶がない。が、そう言えば、藍生に布団は?と聞かれたときに、クローゼットの中と答えるのも眠くて、「これを使って」と言ったような……。
 これ、とは、ベッドの布団。

 つまり、藍生は、ここで寝たらいいと思ったのだろう。俺も半分夢の中で聞いていたからあまり頭が回っていなかったんだな。

「……ん」

 藍生が身じろぎをして、今までこちらを向いていた体が反対側へ、寝返りを打とうとしている。

「そっちは落ちるぞ」

 反射的に藍生の肩を持ち、落ちないようにベッドのヘリに手をついた。

「ん、おはよう……、え、誠也さん?」

 うっすら開いた目が、一瞬にして見開かれた。
 落ちないようにと取った体勢が、ちょうど俺が藍生を押し倒したような格好になっていた。起きて、俺の顔が真上にあったら、そんな顔にもなるだろう。

「わ、悪い! 落ちそうになってたんだ、それで、とっさに」

「あ、いや。だ、大丈夫……うわっ」

 どさっと鈍い音がした。

「大丈夫か?」

「平気です。せっかく落ちないようにしてくれたのに、落ちるなんて、ダサいっすね。ははっ」

 藍生の表情は、長い前髪と下を向いていてよく見えなかった。

 立ち上がり、
「顔洗ってきます」
 と、寝室からでていった。

 ふっと息をはくのと同時に、リオンがごろんと寝返りをうって目をこすっている。起きるかもしれないと、しばらく待ってみたが、また、スースーと寝息を立てはじめた。

「まだ起きそうにもないな。先に出掛ける支度をするか」

 ただ、さっきの驚いた藍生の顔が頭から離れてくれない。
 まともに顔を見れるだろうかと思いながら、クローゼットから今日着る服を手に持ち、寝室をあとにした。

 洗面所に行く前に、リビングをのぞくとすでに身支度をすませた藍生が荷物の整理をしていた。
 寝室をでていくとき、慌てている感じがあったけれど、もう落ち着いただろうか。

 俺は、声をかけずに通りすぎた。 
 洗面所で顔を洗い、歯をみがく。髭をそって、髪の毛をセットし、念のため日焼け止めもぬってから、着替えを済ませビングに向かう。

「あ、誠也さん」

 リビングから藍生が俺を呼び止めた。その彼の眉が寄っている。

「どうした?」

 さっきまで荷物の整理をしていたのに、この数分で良くないことでもあったのかと、駆け寄った。

「今、姉さんから連絡があって、これからホテルをでて、十時ぐらいに迎えに来るそうです。すみません、車まで手配してもらったのに」

 手に持ったスマホを操作しながら言った。
 それを聞いてほっとした。

「よかったじゃないか」

「でも、オレ、楽しみだったのに」

 子どものようなすねた言いかたに、顔がほころぶ。

「そんなに行きたかったんだ」

「はい。誠也さんとだったら絶対楽しいだろうなって」

「そうだ。車はもう手配しているし、お姉さんさえよかったら、リオンくんを送っていくこともできる。そのあと、遊びに行くか?」

「あ、それ、いいっすね!」

 明るい笑みを浮かべ、
「聞いてみます」
 と、さっそく手に持ったスマホを操作しはじめた。
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