夜食を、君と。

立樹

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「だったら、水族館か遊園地、どちらがいい? 晴れたら海もいいな。今からレンタカー手配する手もあるけど」

「いいんすか?」

「俺も休みだし、家にいるより遊びに行くほうが、リオンくんも楽しいだろ」

 そう言うと、急に藍生に抱きしめられた。

「え、ちょっと。おい」

 藍生の細いストレートの髪の毛が鼻先をくすぐる。風呂上がりのほんのりと甘いにおいまでしてくる。

「もう、誠也さん。どうしてそんなにいい人なんすか」

 ぼそっと、耳元でささやくような声がする。

「そんなことないよ」

 下心があって提案したわけじゃないけれど、役得というか、好きな人に抱きついてもらえて、心臓が破裂しそうなぐらいバクバクしている俺は、いい人なんだろうか。

「いい人です。ただ隣ってだけなのに、夜遅くに子連れでおしかけてきたのに、嫌な顔せずに面倒みてくれて。それに、明日のことまで」

 首に回された腕に力が入ったのがわかる。
 ダメだ、心臓がもたない。
 がまんできずに、べりっと引きはなした。

「す、すみません。勢いあまって。男の抱きつかれるなんて嫌ですよね」

「いや、そうじゃなくて」

 顔が熱い。気づかれやしないかと、手で顔をかくして横を向いた。

「……、もしかして照れてます?」

 顔をのぞきこまれ、目が合った。

「照れるさ。君みたいなきれいな人から抱きつかれたら」

 ソファから立ち上がりながら、早口で言った。
 そのまま藍生に背を向けて、ポケットからスマホをだし、『レンタカー』と文字を打ちこむ。
 検索しているうちに、速かった鼓動も、だんだん落ち着いてきた。

 ワゴン車のほうがゆったりしていていいよな。色は黒、いや無難に白?

 などと考えながら画面をスクロールしていると、となりに藍生が来た気配がした。

「あ、そうだ。車種の希望ある?」

「そうっすね」

 藍生が、俺がスマホを持つ手を自分のほうに引きよせ、スマホをのぞきこんでくる。

 ち、近い。

 横を向けば、形の良い耳がすぐ側にある。

 長いまつ毛に、白い肌。シャープな輪郭。
 落ち着いていた鼓動が、また速くなった。

 友だちなら、この距離でもドキドキなんてしないだろう。

 動けば藍生の肩に俺の胸があたってしまう。不用意に動けずに固まっていると、藍生が顔をスマホからあげた。

「誠也さんって意外と、スキンシップに弱いんですね」

「だ、ダメか?」

「ぜんぜん! むしろ好感度あがってます」

「え」

「リオンのスキンシップは頼もしいぐらいなのに、オレには弱くみえる。それって、オレのこと意識してくれてるってことじゃないすか」

「……それって、イヤじゃないか。男なのにって」

「男も惚れるぐらい、オレっていい男ってことでしょ」

 普段の顔じゃない、仕事用だとわかる顔を向けた。

「……! っあはははは」

 自慢気に言ってるのに、ナルシストだとは思わない。これは、俺を思って言ったことだとわかったから。
 ひとしきり笑うと、気持ちがスッキリとしていた。

 もう好きでいいんじゃないか。

 藍生の言葉は俺にそう思わせてくれた。

 藍生は、笑っている俺が落ち着くまで、スマホを見ていた。
 笑いが引いた俺に「これがいいです」とスマホが差しだされる。

「小型車か。いいんじゃない」

 車は、スズキのソ○オ。色は白にしたようだ。
 藍生と相談して時間と行く場所を決めるたあと、予約を入れた。
 ついでにチャイルドシートもレンタルする。

「藍生は俺のベッド使って」

「誠也さんは?」

「このソファで寝るから」

「明日運転してくれるのに、オレがベッド取っちゃ悪いです」

「いいって。それに、リオンくんが目を覚ましたときに、しらない人が寝てたら驚くだろ」

「誠也さんはもう知らない人じゃないですから。あ、じゃあ、オレと寝てください」

「……」

「ちらっと見えたベッドって、シングルサイズじゃなくてダブルっぽかったし。二人、いけます」

「セミダブルだよ。大人二人は、狭いって」

「大丈夫ですって」

 さわやかな笑みを浮かべている藍生に、俺はたじたじになっている。
 一緒になんて寝たら心臓がもたないし。きっと、藍生が気になって寝られないだろう。
 やっぱり、断ろうと思ったときだ。
 となりの寝室から泣き声が聞こえてきた。

「起きたみたいだね」

 俺が言うと、藍生はさっととなりの扉を開けて、中に入って行った。

 リオンは、いつもと違う場所だからか、それとも母親が恋しいのか、なきじゃくり、藍生が俺に「ヘルプ」と、助けを求めてきた。

 俺は、リオンを寝かせつけようとして、いつの間にか、一緒にベッドで寝てしまっていた。
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