隣にいて

立樹

文字の大きさ
14 / 36

14

しおりを挟む
「そこまで、心配することもない。いつもの事だ。それに、お前こそ寝なきゃいけないんじゃないか。俺の心配をしている場合じゃないだろ」
「ぼくの事はいいんです」
「いいわけないだろ」
「いいんです」
「寝てくれ」
「いやです」
「何でだよ、何でここまでこだわる? これは俺の問題だ」
 そう言うと、悲しそうな顔をした。傷つけたと思った。詫びを入れようかと口を開いたけれど、隼大はその言葉を飲み込んだ。
 今ここで、詫びてしまったら、杉山が自分の事を後回しにして、寝そこなってしまう気がした。
 
 何も言わない隼大に、杉山はニッコリと笑った。

 その笑みにドキリとした。
 見透かしたような笑み。仮面を貼り付けたような笑み。口を開いた杉山が何を言うのか、不穏にゴクリと唾を飲んだ。

「杉山さん、薬飲んでないですね」
「な、なんで」

口元が引きつる。
寝ていたんじゃなかったのか? 起きていたのか――。

「なぜって、もし薬を飲んでいるのなら、眠くなります。ですから『飲んだから寝るよ』とか『寝るから安心してくれ』ぐらい言いそうじゃないですか。でも『側に居ちゃ駄目ですか』って聞いた後、僕を引き離すような言い方をされた。だから飲まれてないのかと」
「そ、それで。って、俺の態度から飲んでるか、飲んでないかわかるもんか?」
「まー、分かるといいますか、知っていたというか。キッチンに来られた時、飲まれた気配がなかったので」
仮面のような笑みが剝がれ、グッと幼い顔をした杉山が上目遣いにこちらを見て、軽く笑った。
「あー、そうか」
 キッチンに行ったものの、何もしないで部屋に戻ったのだ。隼大は、苦笑しながら聞いた。
「杉山、寝てなかったのか?」
「寝てました。でも、川浪さんが最初に言った通り緊張してたかも知れません。だって、憧れの川浪さん宅で寝ているんですよ。それも、川浪さんのふ……、コホン。いえ、なんでもありません。とにかく、扉が開く音に気づいたんです」

「あー、そうかい」
 杉山は、首に手をやると、つま先の方を見た。隼大は、杉山のつむじから、耳元。そして、白い滑らかなうなじが目に入ってきた。

 綺麗なラインだ。
 
 女の人とも違う男だとわかるライン。肌の張りも色香立つ首筋。
 手が伸びそうになり、慌てて方向を変えた。
 杉山の頭に手を置き、顔を覗き込みながら言う。

「起こしてしまったのは悪かった。飲まなかったのは、次の日絶対に頭痛を起こすと思ったからだ。もう起きるまでに3時間ほどしかない。俺はこのまま起きているから、気にしないで寝てくれ」

 杉山の眉間に一本の皺が寄った。

「それ、無理な要求なので却下します」
「え、いやでも、明日の仕事に、さ」

「差し支えてもいいんです」

「駄目だろ」

「じゃあ、差し支えないようにしますから。隣にいてもいいですか?」

「ん?」


隣とは、どこの隣だと、隼大は首を傾げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×そそっかしい大学生。元秘書の心使いと、口では勝てず悔しい思いをする大学生。久田悠人(18)大学生は、そそかっしい自分の性格に悩んでいるが、前向きになろうと思い、ロックバンド活動をしている。楽器店のバイト中に、近くの企業に勤めている会社員の早瀬に出会う。早瀬はバイト先のオーナーの知り合いだった。憧れの先輩(桜木聡太郎)に付きまっていると勘違いして、早瀬のことをて追い払おうとしたが、付きまとっていることは誤解だったと分かる。誤解が解けた後、早瀬との付き合いが始まった。物腰が柔らかく爽やかな早瀬の笑顔に信用して食事に行く約束をしたものの、その後もデートの誘いが続き、戸惑う。早瀬はそそっかしい悠人のことを可愛いと思い、面倒を見たくて猛アタックする。悠人は早瀬に口では勝てず、早瀬のペースに飲まれては悔しい思いをする。そして、付き合いが続いていくうちに、早瀬の意外な過去を知る。甘々な二人が恋人同士になるまでのストーリーです。  幼い頃より祖母に育てられた悠人は、誰かに求められたい、必要とされたい思いを抱えている。父から高圧的な態度を取られ続けて育ち、大学生になった後も委縮している。早瀬や親友との出会いの中で、自信を付けて行く。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...