隣にいて

立樹

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「それがどうした」
 
 意味ありげな顔つきをする堂岡を椅子から振り払いつつ言った。
「で、本当なのか?」
「別にどうってことないだろ。杉山が誰と出社しようと自由だろ。そんな事を聞くために来たのか?」
「そう言うなって。いや、良かったなって思ってさ」

 良かった?

 首を傾げると、
「いや、杉山が気にしてたからさ。話せたのかと思ってたんだよ。それに、ここのところずっと、お前の表情が暗かったしな」
と言った。

 もしかして、気遣われている?

 堂岡の柔らかい眼差しに、ふと思った。
 昨日、杉山から堂岡が心配していると聞いたから、いつもと違った風に見えているのだろうか。

 誰彼ともなし、距離を取っていたのは、人との関わりに関心がなかったから。
 それに、寝られない事を詮索されたくないのもあり、関りを必要最小限にしていた。

 相手の事が見えていなかった?
 見ようとしていなかった?

 そうしていたのは――、自分……。

「どうした?」
 堂岡が、目の前で手のひらを振った。
「いや、なんでもない」
 かざされた手から顔を背けたあと、
「わかった、一四時な。ありがとな」と言った。
「ふっ」っと、鼻から息が抜けるような軽い笑いが聞こえた。
 堂岡は、隼大の肩に手を置いたあと、自席に戻って行った。

 スリープ状態のパソコンの画面は暗く、自分のシルエットが映っている。
ぼんやりとした輪郭だ。

 それを見ながら隼大はふと思う。
 人の認識とは意識しなかったら、そんなものなのだろうか、と。
 知ろうとしなければ、見えない部分の方が多いのかも知れない。
 スリープ状態を解除し、まだ湯気が上がっているコーヒーに手を伸ばすと一口飲んだ。

 苦みが口の中に広がる。

 堂岡の何を見ていた?
 仕事の面だけを見ていたのか?
 数字に異様に強い彼を、ただ、負けたくなくて、意識的に遠ざけ、本質を見ていなかった?
 いや、そんなことはない。
 そんなことはないけれど、さっき見た堂岡の表情は、確かに杉山が言う通り、相手を気遣う気配を感じた。
 堂岡のイメージが以前と今と混ざり合い、マーブル状になる。

 どっちが本当の堂岡なのか――。

 決める事ができない自分に、ため息をつきそうになり、それをコーヒーと一緒に飲み込んだ。




 積み上がった、気の遠くなるような分厚いファイル。
 捲りながらデーターを処理しながら、分析し入力する。
 次の企画に繋がりそうなデーターがあれば、メモを取っていく。

 どれぐらい時間が経ったのかわからない。腰と目の疲れが限界に達し、画面から目を離した。大きく伸びをしたところで、扉が開く音がした。

 そちらへ顔を向けると入ってきたのは堂岡だ。
 誰かと話しているのか、扉を開けたあと、後ろへ声をかけている。

 なんだ堂岡か――。と、画面に戻そうとした時、

「あれ、杉山さんじゃない」
「ほんと、ラッキー」
という女性スタッフの話声が、ざわざわと聞こえてきた。
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