隣にいて

立樹

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 杉山と目が合い、手をあげた。それに、気づいた堂岡が応えるように手をあげる。
 応えてくれる相手が違うと、手を左右にふると、堂岡は、手のひらをこちらへと向け、左右に振った。笑顔まで付けて。
 
 苦笑していると、隼大の方へやってきた。
「珍しいじゃないか、手を振ってくれるなんて」
 そう言いながら、まだ手を振っている。

「堂岡に、じゃない。杉山に振ったんだ」
「俺の方が付き合い長いのに」
 ちぇっ、とふくれる堂岡をスルーして、後ろに立つ杉山へと目を向けた。
 目が合うと笑みが返ってきた。けれど、どことなく疲れが見える。昨日ほとんど寝ていないのが原因だろう。

「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
 杉山の声には張りがあった。その声に安堵していると、
「何が、大丈夫なんだ? どこか、体調が悪いのか?」
堂岡が杉山を覗き込んだ。

「いえ、寝不足を心配されただけですから。風邪とかじゃないです」
「……ほう。寝不足、ね」
 一瞬、考えた素振りをしたあと、
「今朝、一緒に出社したのと関係ありか……?」と、隼大を伺うように見た。

「ああ、昨日、杉山と飲んだんだよ。それで、と――」
 泊まったと言い終わらないうちに、杉山が隼大と堂岡の間に入った。
「ぼくの寝不足のことと、仕事は別ですから。要件があったんですよね。おっしゃられていた用紙はどこですか?」
「え、ああ。用紙な。でもさ、杉山。俺は気になる」
 じっと杉山を見つめる堂岡の腕を押し、
「堂岡さんが気にすべきは、ぼくじゃなくて、新規参加企業への書類の方です。ぼくはそれを受け取ったら会社を出ますから」と言い、早くしてくださいとばかりに、堂岡を追い立てた。
 その堂岡は、眉をひょいと上げると、隼大のいる席から離れていった。



「川浪主任」
 隣の席の女性スタッフから声がかかった。
「杉山さんと飲みに行かれたんですか?」
「あ、ああ」
「いいな。一緒に飲みに連れて行って下さいよ」
「そうですよ」
 隼大が口を出す間もなく、次々に口を開いていく女性陣。

 先ほど、『泊まった』と言おうとしたのを杉山があえて遮ったのだとしたら、あまり話題にしない方がいいのだろう。

「主任、杉山さん、誘って行きましょうよ」
 期待の目で隼大を見ている女性スタッフに愛想笑いを返す。

「そういった交渉は、堂岡に頼めば?」

「堂岡さんに何度もお願いしたんですよ」

「でも、杉山と飲みたいんだったら直接頼めの一点張りで。堂岡さんは杉山さんと飲みに行ったりしてるのに、頼んでくれないんですよ」
「そうか」
「だから、主任、お願いします」
ニッコリと笑い手を合わせるスタッフ。

「俺の場合、飲みにといっても家飲みだから誘うのは無理だ」

「……!!」

 女性スタッフたちは、一瞬目をぱちくりさせたあと、お互に顔を見合わせ、

「家飲みですか!!」

と、いう声が社内に響いた。
 彼女たちの声に社内にいるスタッフ、堂岡と杉山もこちらを顔を向けていた。

「尚更どうして、私たちも誘ってくれないんですか?」
 諦めさせようと思って言ったことが、逆に彼女に火をつけたようだった。ギラっと獲物を狙うような目で隼大を見る。

 キッパリと断ろうと口を開きかけた時、会話に入ってきたのが堂岡だった。
「そうだ! この俺を指しおいて二人だけで家飲みするなんてズルいぞ」
 悔しそうな顔をして、近寄ってきた。そして、杉山の肩を持つと、
「俺とも家飲みするか」と言った。

 杉山を見ると、完璧な営業スマイル。
 困っているのか、そうでないのか分からない。

「仕事中ですので、仕事終わりのことは終業後にお聞きします」

 そう本人から言われてしまっては、女性スタッフたちは何も言えず、仕方なさそうな顔で座り直し、各自の業務に戻っていった。

「川浪」
 堂岡に呼ばれて、顔を向けると、目線で扉を示した。
 フッと息を吐くと、ワークチェアから立ち上がりオフィスを出た。
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