2 / 3
2
しおりを挟む
こうして始まったモーニングコール。
なのに、神楽との距離はあまり縮まっていない。
前と今との違いはといえば、モーニングコールだけ。
朝以外にも連絡をしようと思えばできる。
それができないのは、学校で会う神楽との間に壁を感じるからだ。
廊下で出会っても「よう」「おう」の挨拶だけ。
視線を合わせようとしてもすぐにそらされる。
だからメッセを送ったり、遊びに誘うのは迷惑なのかもしれない。そんな考えがよぎってメッセを打つ指が止まり、誘うのに尻込みしてしまう。そんなこんなでオレと神楽の距離は依然となんら変わっていない。
一緒に行動することは皆無といってよかった。
朝のモーニングコールは大学に着いてからしている。
A棟とB棟の間をつなぐ一階通路には吹きさらしの広いホールがある。
通路は生徒がよく行き交っているが、外れれば、ひっそりとしていて人気がない。
均等に並ぶいくつかの太い柱にもたれかけるように電話をしていた。
通話を切ったとき、後ろから声をかけられた。
「谷川ってば、誰と電話してんの?」
「大見か」
ボブカットに大きな目が特徴の同級生、 大見小友梨だ。
そして、オレの高校からの友人である 秋元光陽の彼女でもある。
「だから、誰と?」
「いいだろ、誰だって。ミッチーは一緒じゃないのか?」
「光陽は、二限目から来るって」
「え、なんで?」
「昨日、遅くまで飲み会に付き合わされたんだってさ」
「あっそ」
行こうとするオレの腕を「待って」とつかんできた。
そして、持っていたスマホをオレの手からするりと抜き取った。
「え、ちょっ、ちょっとなにすんだよ」
取り返そうとしても、さっとかわされる。
画面がちらっと見えた。
やばい、スリープ画面になっていない。
誰と通話していたのか一目瞭然だ。
「ええっ! どういう関係なの? それとも同姓同名……ってことはないよね?」
スマホの画面とオレ。大見の視線が往復する。そして、驚いた顔をオレに向けた。
「大見には関係ないだろ? 返せって」
「電話してもいい?」
「いいわけないだろ!」
本気で怒っているのがわかったのか、「ごめん」と言ってスマホを返してきた。
「ったく、なんでオレの通話相手を気にするんだよ。お前の彼氏はミッチーだろ」
眉を寄せて言うと、ちっちっち、と指を左右に振った。
「その彼氏からだって」
「は?」
「だから、最近、谷川が変なんだって言うの。朝も誰かと電話してることが多いし。スマホを見て考え事をしてるから、きっと誰が好きな人でもできたんじゃないかって」
「ミッチーが?」
「そう! 光陽は谷川が言ってくれるまで待つって言うんだけどさ、気になって。ごめんね。でも、意外だったよー! 電話の相手が、まさかあのちかま……ふぐっ」
「おいっ」
とっさに大見の口を手で覆った。
すると、目でうなずく素振りをしたので、手を離した。
辺りには人が増えてきていた。
そんな中で、彼の名前を出したくなかった。
「知り合いなら、紹介してよ」
「……いやだね」
紹介も何も、大学では挨拶ぐらいしか交わさないのに、できるわけがない。それに、仲のいい人物を持たないのにもなにか理由があるかもしれないのに、あえて負担になるようなことをしたくなかった。
けど、大見はこんなことで諦めるような奴ではない。諦める奴なら、ミッチーと付き合ってないだろうし。
今だってメッセを送っているのか、指が画面の上を素早く動いている。しかも鼻歌交じりで。
その後、すぐに合流したミッチーと、大見にあれこれと尋ねられたが、のらりくらりとかわしつつ、教室に入って授業の始まりを待った。
この分だと、神楽が来たら、すぐにでも詰め寄りそうだ。
でも、きっと神楽のことだ、いつもの余裕の笑みでかわすはず。
と思っていたのに、予想は外れた。
授業が終わった後、神楽を見つけた二人はさっそく声をかけに行った。
神楽の周りにはいつも人がいる。
それをもろともせずに声をかけた。
少し離れているから、なんて言ったかまではわからない。
すると、神楽と目が合った。
その目がすっと細められる。
笑みとも睨むとも違う視線は初めて見る表情だった。
とたんに、神楽の視線を追って、周りの奴らもオレを見てきた。
特定の友人を作らない神楽の友人なのかと目で問われている気がした。
羨望、嫉妬。そんなうっとうしい視線。
ふと、神楽はこんな視線をずっと受けているんじゃないかと思った。
これまでずっと距離を取っていたのは、もしかして、この視線をオレに向けないためだったりして……。
ってなことはないか。
さすがに思い上がりだろう。
オレは、その考えを笑い飛ばした。
視線を無視して「神楽」と呼んだ。
神楽がオレの前まで移動してきた。
「ごめん」と謝ろうとした。
たぶん大見は自分ともアドレス交換をしてほしい。と言っただろうから。それに続いて他の生徒だって言ってくるかもしれない。
そんなきっかけを作ってしまったことへの謝罪。
けれど、それを口に出して言うことはなかった。
神楽はオレの隣に立って、肩に手をかけた。
そして顔をオレの方に少し傾け、こっちに注目している生徒を見渡した。
「この人、俺の想い人なんだ。だから、あきだけにモーニングコールしてもらってるんだ。あ、これ、告白ね」
「っえええー!」
「なんでー!」
悲鳴が聞こえる。
ざわめきは廊下まで届くほどに大きく、幾人かが扉から顔をのぞかせている。
教室の視線をあび、どよめく中、オレも同じように驚いていた。
そんな告白、ここで言う!ってか、どうなってこうなった?
開いた口がふさがらない。
金魚が酸素不足で口をパクパクしているみたいになっている。
「だから、ごめんね。ライン交換できなくて。温かく見守ってて。ほら、あき、行こ」
神楽はオレの背中を押して、移動をうながした。
「谷川! で、へ、返事は?」
見れば大見が乗り出すように聞いてきた。
目が輝いている。
面白そうだと顔に書いてあった。
それに受け答えできる余裕なんてない。
手を振って、ざわめきと好奇の目が矢のように飛んでくる教室を出た。
なのに、神楽との距離はあまり縮まっていない。
前と今との違いはといえば、モーニングコールだけ。
朝以外にも連絡をしようと思えばできる。
それができないのは、学校で会う神楽との間に壁を感じるからだ。
廊下で出会っても「よう」「おう」の挨拶だけ。
視線を合わせようとしてもすぐにそらされる。
だからメッセを送ったり、遊びに誘うのは迷惑なのかもしれない。そんな考えがよぎってメッセを打つ指が止まり、誘うのに尻込みしてしまう。そんなこんなでオレと神楽の距離は依然となんら変わっていない。
一緒に行動することは皆無といってよかった。
朝のモーニングコールは大学に着いてからしている。
A棟とB棟の間をつなぐ一階通路には吹きさらしの広いホールがある。
通路は生徒がよく行き交っているが、外れれば、ひっそりとしていて人気がない。
均等に並ぶいくつかの太い柱にもたれかけるように電話をしていた。
通話を切ったとき、後ろから声をかけられた。
「谷川ってば、誰と電話してんの?」
「大見か」
ボブカットに大きな目が特徴の同級生、 大見小友梨だ。
そして、オレの高校からの友人である 秋元光陽の彼女でもある。
「だから、誰と?」
「いいだろ、誰だって。ミッチーは一緒じゃないのか?」
「光陽は、二限目から来るって」
「え、なんで?」
「昨日、遅くまで飲み会に付き合わされたんだってさ」
「あっそ」
行こうとするオレの腕を「待って」とつかんできた。
そして、持っていたスマホをオレの手からするりと抜き取った。
「え、ちょっ、ちょっとなにすんだよ」
取り返そうとしても、さっとかわされる。
画面がちらっと見えた。
やばい、スリープ画面になっていない。
誰と通話していたのか一目瞭然だ。
「ええっ! どういう関係なの? それとも同姓同名……ってことはないよね?」
スマホの画面とオレ。大見の視線が往復する。そして、驚いた顔をオレに向けた。
「大見には関係ないだろ? 返せって」
「電話してもいい?」
「いいわけないだろ!」
本気で怒っているのがわかったのか、「ごめん」と言ってスマホを返してきた。
「ったく、なんでオレの通話相手を気にするんだよ。お前の彼氏はミッチーだろ」
眉を寄せて言うと、ちっちっち、と指を左右に振った。
「その彼氏からだって」
「は?」
「だから、最近、谷川が変なんだって言うの。朝も誰かと電話してることが多いし。スマホを見て考え事をしてるから、きっと誰が好きな人でもできたんじゃないかって」
「ミッチーが?」
「そう! 光陽は谷川が言ってくれるまで待つって言うんだけどさ、気になって。ごめんね。でも、意外だったよー! 電話の相手が、まさかあのちかま……ふぐっ」
「おいっ」
とっさに大見の口を手で覆った。
すると、目でうなずく素振りをしたので、手を離した。
辺りには人が増えてきていた。
そんな中で、彼の名前を出したくなかった。
「知り合いなら、紹介してよ」
「……いやだね」
紹介も何も、大学では挨拶ぐらいしか交わさないのに、できるわけがない。それに、仲のいい人物を持たないのにもなにか理由があるかもしれないのに、あえて負担になるようなことをしたくなかった。
けど、大見はこんなことで諦めるような奴ではない。諦める奴なら、ミッチーと付き合ってないだろうし。
今だってメッセを送っているのか、指が画面の上を素早く動いている。しかも鼻歌交じりで。
その後、すぐに合流したミッチーと、大見にあれこれと尋ねられたが、のらりくらりとかわしつつ、教室に入って授業の始まりを待った。
この分だと、神楽が来たら、すぐにでも詰め寄りそうだ。
でも、きっと神楽のことだ、いつもの余裕の笑みでかわすはず。
と思っていたのに、予想は外れた。
授業が終わった後、神楽を見つけた二人はさっそく声をかけに行った。
神楽の周りにはいつも人がいる。
それをもろともせずに声をかけた。
少し離れているから、なんて言ったかまではわからない。
すると、神楽と目が合った。
その目がすっと細められる。
笑みとも睨むとも違う視線は初めて見る表情だった。
とたんに、神楽の視線を追って、周りの奴らもオレを見てきた。
特定の友人を作らない神楽の友人なのかと目で問われている気がした。
羨望、嫉妬。そんなうっとうしい視線。
ふと、神楽はこんな視線をずっと受けているんじゃないかと思った。
これまでずっと距離を取っていたのは、もしかして、この視線をオレに向けないためだったりして……。
ってなことはないか。
さすがに思い上がりだろう。
オレは、その考えを笑い飛ばした。
視線を無視して「神楽」と呼んだ。
神楽がオレの前まで移動してきた。
「ごめん」と謝ろうとした。
たぶん大見は自分ともアドレス交換をしてほしい。と言っただろうから。それに続いて他の生徒だって言ってくるかもしれない。
そんなきっかけを作ってしまったことへの謝罪。
けれど、それを口に出して言うことはなかった。
神楽はオレの隣に立って、肩に手をかけた。
そして顔をオレの方に少し傾け、こっちに注目している生徒を見渡した。
「この人、俺の想い人なんだ。だから、あきだけにモーニングコールしてもらってるんだ。あ、これ、告白ね」
「っえええー!」
「なんでー!」
悲鳴が聞こえる。
ざわめきは廊下まで届くほどに大きく、幾人かが扉から顔をのぞかせている。
教室の視線をあび、どよめく中、オレも同じように驚いていた。
そんな告白、ここで言う!ってか、どうなってこうなった?
開いた口がふさがらない。
金魚が酸素不足で口をパクパクしているみたいになっている。
「だから、ごめんね。ライン交換できなくて。温かく見守ってて。ほら、あき、行こ」
神楽はオレの背中を押して、移動をうながした。
「谷川! で、へ、返事は?」
見れば大見が乗り出すように聞いてきた。
目が輝いている。
面白そうだと顔に書いてあった。
それに受け答えできる余裕なんてない。
手を振って、ざわめきと好奇の目が矢のように飛んでくる教室を出た。
3
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜
四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。
「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない!
__と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで……
※他サイトにも掲載しています。
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる