ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【7】2006年6月6日 12:50・教室・大雨。お説教(レン視点)。

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キーンコーンカーンコーン。

「ハイッ!日直ゴウレイッ!!」

「起立ー・・・、礼ー・・・!」

《やっと終わった・・・》

今回はいつもと少し状況が違ってあまりストレスを感じなかったとはいえ、倫理の終了を告げるチャイムはやはり何度聞いても心が救われる。

角刈りモアイは何を思ったのか声がかすれているというのに声量フルパワーで授業をし続けた。そのせいで、先程の日直への指示のときには小人が叫んでいるのかと思うくらい声がカスカスになってしまっていた。

《どうかそのままの声量でいてほしい。・・・是非ともお願いします》

机に広げている教科書やノートを片づけていると廊下で角刈りモアイとアイナが会話している姿が見えた。

《やっぱり怒られてるよなぁ・・・きっと・・・》

苦笑いを浮かべる。

《あぁ、そうだ・・・》

私は昼食の前にトイレをすませておこうと席を立ち教室を出た。

廊下に出て角刈りモアイとアイナの横を通りながら聞き耳を立ててみる。
ほんの少しでも会話の内容を聞こうとしたが、角刈りモアイの声があまりにもかすれているのでまったく聞き取れない。

「え?あ、はい。え?あ、はい・・・」

アイナは分かって返事をしているのかそれともまだ煽っているのか、どちらともつかない態度で角刈りモアイと会話をしている。


私は盗み聞きを諦めてそのままトイレへ向かうことにした。





数分後、トイレから教室に戻るとユアルがアイナの席で説教をしている姿が見えた。ユアルの説教を面倒くさそうに聞き流すアイナの様子が教室の入口からでも見て取れる。

私はカバンから弁当を取り出すとそのままアイナの席に向かった。


アイナの前に座っているクラスメイトは昼休みは学食なので座っても良いという許可を貰っており、お言葉に甘えて座らせてもらっている。最近は今日みたいな土砂降りが続いているので仕方なく教室で食べているが、そもそも昼食は中庭とか屋上で食べていることが多い。

こういうところも梅雨が嫌いなポイントして乗算されていく。単純な加算なんかでは足りない。

ホントに嫌いだ、梅雨。




私はアイナの席の前に座ると弁当を広げながらユアルのありがたいお説教を聞いていた。

「アイナ、あれほど宿題しなさいって昨日の夜言ったでしょ?」

「んーー?そーだっけー・・・?」

何でもアイナとユアルはつきあいが長いらしい。幼馴染みみたいな関係なんだろうか?

「毎回先生に怒られるのが分かっているのにどうして宿題をしないの?」

「うーん、テレビが面白いから?」

アイナはユアルと視線を合わさず答える。

「そう・・・。じゃあ、レンに頼んでテレビを撤去してもらうのが良いみたいね。どうです、レン?」

ユアルが突然私に判断を委ねてきた。

「あ、ユアル、それ困るかも。結構、ニュースとか見てるし・・・」

私は慌ててユアルの案をやんわり却下した。

「レンがそう言うのであれば仕方ないですね。では、アイナだけテレビ視聴禁止というルールを設けたいのですが、いかがですか?」

ユアルは基本的にアイナに対してのみタメ口でそれ以外の人には敬語で接している。

「ってユアルさんが立ちっぱなしで仰ってますよ!アイナ!」

「ほっとけほっとけ」

「・・・・・・・・・」

アイナの言葉を受けてユアルの視線に殺意がこもるのが分かった。高身長から繰り出される殺意のこもった視線というのは当事者でなくても心臓に悪い。ユアルとアイナの間にそこはかとなくマズイ雰囲気が漂い始める。


「つーかさー、大昔の思想家なんか学んでいったい何の足しになんの?」

《おッ!まさか私の疑問を何の恥じらいもなくストレートにぶちまけてくれる猛者が現れるなんてッ!ちょっと感動した。そしてユアルの答えが気になる》


「それを言うならこの学園に通うこと自体やめるべきなんじゃない?他の国がどうかは知らないけど、この国の高校は義務教育ではないんだから通うのが嫌なら退学すれば良いだけの単純な話よ」

《ですよねー。何と辛辣な正論・・・》

「じゃあ、やめたいでーす。勉強したくないでーす」

《ちょッ!アイナ!?》

さらに喧嘩をふっかけにいくアイナに対してユアルは顔の角度を上げてアイナを見下ろしながら言い返す。


「まぁ、この学園の生徒は大学受験や就職なんて『あまり関係のない』ということは念頭に置きつつ・・・。高校生にとって勉強はより良い大学へ行き高給な仕事を得るための手段としてしか価値はないと思うわ。それにさっきも言ったけど高校は義務教育じゃない。繰り返すようだけど辞めたければ辞めればいいのよ。コネさえあれば就職なんてどうとでもなるのはどの世界、どの業種でも同じことでしょ?

《たしかに・・・》

「それに中卒でも立派な人はいるってアイナのだーい好きなテレビでこの前特集されてたこともあったわね。なるほど、人生は千差万別だし中卒でも別に問題はないのかもしれない。優良企業に勤めているからと言って生涯の幸せが約束されるわけではないものね・・・」


「そこまで分かってんなら勉強なんてやる必要ねーだろ」

「いいえ。勉強の価値をコネが上回ると認めた上で、アイナと私はこの学園に通わないといけないと断言するわ」

「は?どーして?」

「どうして?アイナ、レンのお祖父様との『約束』まさか忘れたわけじゃないでしょ?私たちには他の生徒たちと違って通うことがある意味義務化されている。そして通う以上、勉学に励む義務もまた・・・ね?」

「・・・チッ」

ユアル先生の迫力ある効果絶大なお言葉がアイナの胸にグサグサ刺さっているのか、舌打ちしながらアイナは目をつむってジュースを飲み始めた。その表情には不満がこれでもかと滲み出ている。

《右に出る者がいないくらいお手本のようなふてぶてしさ・・・》

「アイナ、この学園に通う者として舌打ちはまずいんじゃない?」

《ユアル、いちいち追い打ちしなくても》

「うるせー」

「ところでアイナ、知世田先生の声がかすれるように仕向けたのはわざとかしら?」

「はー?何のこと?」

《やっぱりユアルは鋭いな》

アイナの目が開いてようやくユアルと視線をあわせた。
が、互いの顔がどんどん険しくなりマズイ雰囲気に拍車がかかる。


「とぼけないで。レンの隣でのつぶやき、ちゃんと聞こえてたわよ?」

《聞こえてたんだ。どんな地獄耳してんだ》

私は弁当の蓋を開けながら驚きのあまりユアルの顔を見上げた。

《というか、このまま険悪なムードを長引かせるのはマズイ。何とかしなくちゃ、えーっと》

「あ、そうだッ!ほら、ユアル!立ちっぱなしもシンドイでしょ?ちょっと待っててね!」

私は急いで自分の席から椅子を運んできた。


「あぁ、レン。ごめんなさい、そんな重い物を持たせてしまって」

「良いから、ほらほらッ!座る座る!」

私はユアルの肩を掴んで半ば強制的にユアルを座らせた。これで少し話題を変えればミッションクリア・・・の、はずだったのだが、私の考えは甘かったらしい。

「そもそもオレが角刈りモアイの声を飛ばしたっていう証拠はあるのかよ?」

アイナが話を蒸し返し反撃に出た。

「なるほど、たしかにそうね。それじゃ知世田先生の声に関してこれ以上の追求はやめるわ」

《ホッ・・・》

ユアルは大人な対応で流してくれた。

でも、たしかにアイナはただ宿題を忘れただけだし、その都度死ぬほど叫んでいたのは角刈りモアイだから結局は自爆した感じも否めないかもしれない。これ以上責めようは無いと言えば無かった。

「じゃ、話はこれで終わりということでみんな揃ったことだし弁当食べようか・・・?って、あれ?」

「ええ、そうですね、レン。」

ユアルはどこから出したのか既に弁当を用意して食べ始めていた。

《いったい、いつの間に?》

呆気にとられた私はしばらくユアルを見つめていた。
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