ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【8】2006年6月6日 13:06・教室・大雨。家訓(レン視点)。

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「はぁー、ユアルのクソ長い説教終わったー」

《アイナ、また何て余計なことを》

「あら?私は知世田先生の声の件はもう追求しないと言っただけで他の件についてはまだまだ話があるのよ、アイナ?」

「まだ何かあんのかよー・・・」

アイナが椅子の背もたれに全体重をかけながら寄りかかると顔を背けて今度はアンパンを食べ始めた。

「アイナ、今の言動もそうだけどあなたの教師に対する態度は目に余るモノがあるわ」

「やっぱりそういう話なるよね。今日の角刈り・・・じゃなくて知世田先生への態度はさすがにちょっと酷かったと思う。
あれじゃ『目をつけてください』って言ってるようなもんだよ、アイナ」

ココは残念ながら私もユアルに加勢せざるを得ない。

「んだよー!レンはユアルの味方かよッ」

「レンが言ってるのはそういうことじゃないでしょ?仮にこのままアイナの悪態が続いたとして教師たちに目をつけられたらどうなると思っているの?」

「・・・もう既に目をつけられてるかもしれないけどね」

私はそれとなくつぶやいてみた。

「レン、言いたいことがあるなら、オレの目を見て言えよな?」

「エヘヘへ、特に無いよ?」

「アイナ、今は私の話にだけ集中しなさい」

「ケッ・・・」

「話を戻すけど、目をつけられたアイナが教師の間で話題になり尚も悪態が続いた場合、考えられる未来は2つ。1つ目は教師たちのアイナに対するイメージが地の底まで落ちて成績など正当に評価してもらえなくなること」

「望むところだよ、バカヤロウ」

《ロックだなぁ。言葉の使い方あってるのか分からない上に真面目に話をしているユアルの前でこんなこと口に出して言えないけど、ロックだなぁ》


「正当に評価してもらえない程度で済めばまだマシ。アイナがどう評価されようが私やレンには関係ないから。大問題なのは2つ目。悪態続きのアイナに教師たちの注意もむなしく改善が見られない場合、教師たちがレンのお祖父様に直接連絡をする可能性があるということ。
私とレンが危惧しているのはソレよ、アイナ。あなただってそれがどういう意味なのかくらい分かっているでしょ?」

「・・・・・・・・・・・」

さすがのアイナも黙ってしまった。頭のどこかで気をつけていたとは思うけど最近のアイナの言動はちょっと見過ごすことができないレベルになっていた。特にあの角刈りモアイについては先程のように日に日に悪態がエスカレートしていた。

本人からしたら悪態ギリギリ手前のスリルを楽しんでいたのかもしれないが私やユアルに言わせれば余裕でアウトだった。膨張し続ける風船がいつか破裂するようにいずれ取り返しのつかない問題に発展するのは目に見えていた。

今日はそれを正す良い機会だったのかもしれない。

「わーーったよ!注意すりゃ良いんだろ?」

「『ユアルさん、分かりました。今後注意します』・・・でしょ?」

「ウゼェ」

「まぁまぁユアル、今日はこのくらいで良いじゃない?言葉も少しずつ改善していけば、ね?アイナ?」

「フン!!」

アイナも環境が変わって数ヶ月、色々とストレスが溜まっているのかもしれない。

と、まぁこんな感じで繰り広げられている私たちの会話は部外者から見るとまったく意味不明に思えるかもしれないが、これにはちょっとした深いワケがあった。


「さて、じゃあ今度こそ気を取り直して3人で弁当食べよ?・・・んん??」

「レン?どうしました?」

「イヤ、アイナ。ユアルが作ってくれた弁当は?」

何故、今になって気づいたのか自分でも不思議だが、さっきからアイナは購買部で売ってるパンやらジュースを口にしている。さらに思い返してみるとココ数日アイナは昼食やそれ以外でパンやジュースを当たり前のように飲み食いしていたような気がする。

それの何が問題なのかという話なってくるのだが、そもそも私の家には小遣いという制度がなくお金を持たせてもらっていない。その代わり欲しい物は余程おかしなモノや低俗なモノでなければ購入してもらえる。


去年、『見聞を広げてこれからIT社会に対応するため』という何となくな名目でノートパソコンを購入してもらいネット環境も導入してもらったこともあり、ちゃんとした理由があれば値段など気にせず買ってもらえるのだが、逆に間食用のパンやらお菓子などは一切買って食べたことがなかった。


なので、下校途中に友だちと自由に寄り道や買い食いしたりという経験も今の今までしたことがない。で、そんな小遣い制度がない我が家のルールをかいくぐって、当たり前のようにアイナは菓子パンやらジュースを飲み食いしているという不思議な状況が目の前で起きているのだ。


「弁当?そんなモノ午前中に食べちまったよ」


「『お弁当ですか?それなら午前中に食べてしまいました』・・・でしょ?」

「うるせーな」

「じゃ、じゃあ、そのパンとかジュースってどうしたの?」

話が変な方向に飛んでいく前にアイナに問い詰める。まさかとは思うけど盗んだりなんてしていたら、それこそ角刈りモアイへの悪態とか比べモノにならないくらいヤバイ。

「んー?貰ったー」

「「 貰 っ た ??」」

私とユアルの声がシンクロする。

「貰ったって、誰から貰ったの・・・?」

「さぁ?知らないヤツだった」

「『 知 ら な い 人 か  ら 貰 っ た 』?それ本当なの、アイナ?」

「な、何だよ・・・?」

私はアイナの顔に自分の顔を目一杯近づけて確認した。

『他人に恩を売られるな』
この言葉はお祖父様の口癖であり、西冥家の家訓でもある。

要するに相手の素性がはっきり分からない場合、ならず者や闇社会の人間である可能性も捨てきれないので、変な恩を売られてしまうと
後々面倒なことになるという意味で、私も年齢を重ねるうちに色々と言葉の真意に気づいてきたところだ。そんな家訓を打ち立ててしまうくらいなので我が家では他人からの施しを一切受けないように教育される。

同居を始めて数ヶ月、私は時折我が家のルールをアイナに教えてきたつもりだしアイナもそれを理解しているはずだった。

「ちょっとアイナッ!知らない人に勝手に恩を売られないでよッ!!」

今度はまたとんでもない問題を持ってきてくれたとさすがに私も声を荒げてしまう。貰ったときの状況は知らないが、学園の生徒に物乞いなんて真似をしてるのがバレたらお祖父様になんて説明すれば良いのか・・・。


《あーー気絶しそう。まだ1口も食べてないけど、弁当どころじゃない・・・》
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