ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【9】2006年6月6日 13:20・教室・大雨。保武原さん(レン視点)。

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「ちょっとあなたたち・・・」

「はい?」

不意に背後から声をかけられ振り向く。

「あ、保武原(ほむはら)さん。何か用?」

「『何か用?』じゃないわよ、西冥(さいみょう)さん・・・。この外人2人の保護者としてきちんと日本のマナーを教えといてほしいんだけど?」

『外人2人』というのはもしかしなくても緑がかった銀髪のユアルと金髪お団子頭のアイナのことだろう。そして『保護者』というのはユアルもアイナも私と同じ『西冥』を名乗っているため私が責任者として認識されているんだと思う。

ユアルとアイナは私の遠縁でありこの学園に留学にやってきた、ということになっているのだ。

《こっちはそれどころじゃないんだけど、さっきの角刈りモアイの件もあるしココは穏便に済ませておくか・・・》

「ごめんね、保武原さん。話の要点がよく分からないんだけど良かったら詳しく教えてくれない?」

「ユアルさんのことよ。みんなが通るのにこんな風に居座られたら邪魔じゃない。どいてよ」

そう言いながら保武原さんはユアルが座っている椅子を軽く蹴った。どうやら通路に椅子を置いて座ってるのが気に食わないらしい。

「あら、それはどうもごめんなさい?」

ユアルはサラッと謝ると少しだけ椅子をひいてアイナの席へ寄せた。しかし、保武原さんの意図とは違ったらしく、保武原さんの眉間にどんどんシワが刻まれていく。


「そうじゃないだろ・・・?」
とうとう口調まで変わってしまった。


「では、保武原さん。私にどうしろと仰っているのですか?」

ユアルがゆっくり立ち上がり威圧するように保武原さんを見下ろした。


保武原さんもアイナと同様に背は前から数えた方が早く、このクラスでは二番目に背が低かった。

そして、あまりこういうことは言いたくないのだが・・・その何というか見た目が個性的というか、全世界に数人くらいはどストライクな男性もいるかもしれないというか・・・。平たく言うとぽっちゃり、イヤ、マスコットキャラクター等身とでも言えば良いのか表現するには難しい体型をしていた。

これ以上はちょっと私の性格が疑われそうなのでやめておくが、つまりはそんな感じのクラスメイトだ。対するユアルはクラスで1番背が高く、モデルよりもモデルっぽい上に出るところは出ているという向かう所敵無しな完璧スタイル。2人の対峙は端から見ると人間と地球外生命体のファーストコンタクトと表現するほかない。

断っておくが悪気も悪意もない。
そう表現せざるを得ないだけだ。

「だから、邪魔だって言ってんだよッ!」

「邪魔って・・・通れるじゃないですか?私はあなたの指摘を受けて、それに従い対処しました。今度はあなたがそれに応える番なんじゃないんですか?少しお腹を引っ込めて通るとかやりようはあるでしょ?さすがにあなたの体型の問題まで私になすりつけないでくださいね?」

《コラコラコラコラコラッ!!》

ユアルと保武原さんのやり取りを悠長に眺めている場合じゃなかった。私は何とか一触即発な雰囲気を変えようと慌てて2人の間に割って入る。

「あ、あの!保武原さん、ごめんねッ?ほら、ユアルももうちょっと椅子をひいてさッ!はい、2人ともスマイルスマイルッ!・・・ね?」

恐る恐る保武原さんを見ると、そこには唇を思いきり噛みしめ目をカッと見開きプルプルと怒りに震えている姿があった。

《これはもしかしてお手上げというヤツなのでは?》


「アンタたちの振る舞いはこの学園にふさわしくないのよッ!!!」

保武原さんがユアルを見上げるのに疲れたのか今度はアイナに視線を移して大声をあげた。教室にいるクラスメイトの視線が一斉にこちらに集まる。

学園にふさわしくない認定された内の1人であるアイナはケタケタ笑いながら机の中からアンパンを出して楽しそうに頬張り始めた。

《アイナはいったい、いくつパンを貰ったんだろ・・・》

教室にいるクラスメイト全員が私たちを注目しているトラブルが起きてるのに私の目はアンパンに釘づけだった。今はそれどころではない状況なのはよく分かっているが、以前から購買部のパンに興味があるのにも関わらず1度も食べたことがなかった私は、正直アイナが羨ましくてたまらなかった。


「たしか、通行の邪魔という話だったと思うのですが、見事に論点が変わってしまいましたね。まぁ、それは一旦置いといて・・・。なるほど、保武原さんはこの学園にふさわしい生徒をご存知なのですね?でしたら、後学のために是非その方を私に紹介してもらえませんか?」

「あ゛?」

「ですから、この学園にふさわしい生徒というモノを学ばせて頂きたいのです。その方が双方のために良いと思いまして。
・・・まさかとは思いますが、だらしない体型のあなた・・・ではないですよね?」

《しまった!!!っていうかそれが言いたかっただけでしょ、ユアル!》

顔を限界まで上げて腕を組み、保武原さんをこれでもかと見下ろすユアルの態度は到底教えを請う姿には見えない。アンパンなんかに気を取られている場合じゃなかった。これは確実に私の失態だ。



《やりすぎ。ただのやりすぎッ》

私の記憶が正しければ、ユアルはさっきアイナにトラブルを起こさないよう注意してたはずなんだけど。

「プッ!!クックックックックッ・・・」

アイナが時間差で突然吹き出した。しかし、よく見るとユアルの発言で笑ったわけではないらしい。どこか一点を見つめたまま笑っている。

《・・・??》

アイナの視線の先を見てみるとどうやら保武原さんの足元に向かっているようだった。誘導されるように私もアイナの視線の先を追う。

《なッッ!?》

すると視線の先からとんでもないモノが飛び込んできた。

保武原さんはユアルに見下されているのが屈辱だったのか、つま先をこれでもかと限界ギリギリまでピンと立てて対抗していたのだ。


《顔を上げてユアルを見上げている時点で面白いんだから、そんなストイックに笑いを追求して限界を超えなくても良いのに》

ふつふつと笑いがこみ上げてくる。

《マズイ、ダメだ。堪えろ。私まで一緒になって笑ったら、終わる・・・》

しかし、笑うなという方が無理があった。

「何がおかしいのよぉ!!??」
保武原さんがアイナの視線に気づいて机に詰め寄ろうとこちらに向かってきた。

私はそのタイミングでユアルを強引に引き離し椅子に座らせる。さらに保武原さんの視界にユアルとアイナが映らない距離まで近づいて保武原さんをなだめた。

「保武原さん!ホントにごめんね?今度から気をつけるからさ!!この2人にもよ~く言い聞かせておくからッ!本当にごめんなさいッ」

「ふぅ!ふぅふぅ・・・フンッ!」

保武原さんの鼻息が私の脚に勢いよくかかる。相当頭にきているらしい。しかし、私の必死の謝罪が功を奏したのか、興奮していた保武原さんの身長が少しずつ低くなっていくのを私は見逃さなかった。

保武原さんに気取られないように一瞬だけ足元を見ると、かかとはしっかり床についている。どうやら保武原さんの戦闘モードが解けたらしい。

「次回から気をつけてよね・・・」

保武原さんはもっと何か言いたげな雰囲気だったが怒りを抑えて自分の席へ戻ってくれた。

何とかこの場を収めることに成功した私は一仕事終えたような充実感に包まれる。そして緊張が解けたせいか、よく考えたらまだ1口も弁当を食べていないことを思い出した。

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