ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【16】2006年6月6日 17:15・送迎車・大雨。丹加部さん①(レン視点)。

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敷地内専用道路である坂道をしばらく上っていると再び送迎車が止まった。どうやら正門に着いたらしい。送迎車はしばらく止まったまま動かなかった。恐らく正門の前で護衛たちが色々と引き継ぎやら重要事項の確認やら、護衛同士にしか分からないやり取りをしているのだろう。


護衛同士がどういうやり取りをしているのか私は知らない。というか、私から部外者へ漏れる可能性もあるので教えてもらえない。

正門で待機している他の護衛が後部座席までやってきて私たちを確認するとお辞儀をした。私もそれに応じて軽く会釈する。その護衛は頭を上げるとスーツの襟についている小さいマイクみたいな機器に向かって何か喋りながら正門へ戻っていった。


護衛は皆、サングラスとスーツ姿に似たような髪型と黒髪なので正直あまり見分けがつかない。それに昔からお祖父様の教育として必要以上に護衛と親しくしないように教え込まれてきたので執事やメイドと違って名前すら知らないことが多い。



そして護衛側も家族の者に必要以上に接するなという教育がされているのか機械的な反応する者が多い。『そもそも護衛なんて必要なのか?』と
思っていたこともあったが、本邸で過去に数回侵入者騒動があったらしい。

いかんせん私が生まれる前だったか生まれてすぐだったか、だいぶ前の話なので噂で聞いた程度だけど・・・。

お祖父様の商売の都合上、自然と敵が多くなってしまうのでお祖父様に言わせると『仰々しいくらいで丁度良い』のだそうだ。ちなみに西冥所有の敷地内に侵入してきた輩は護衛が即座にとっ捕まえて、今のご時世『拷問』という言葉は問題がありそうなので別の言い方をすると・・・『ちょっと過激な質疑応答』を行った後警察につきだすというプロセスをとっているらしい。


実際に見たわけじゃないから詳細は私も知らない・・・。



送迎車が止まり1分経った頃、正門が開き始めた。正門を抜けると、送迎車は後部座席が玄関の正面にくるようにゆっくりと弧を描がくような軌道に入った。

「あ・・・ッ」

玄関に私たちの出迎えをしようと待ってくれている執事の丹加部(にかべ)さんの姿が見えた。

「ウグー、やっと着いたかよーー」

「アイナッ!今日は丹加部さんがいるからドアを開けてくれるまで待ってねッ!それから態度もきちんとしてッ!」

「げーー、ニカベがいるのかよ。ウー・・・」

「アイナ??」

私は雰囲気で態度を改めるようにアイナに釘を刺した。

「・・・わーーったよーー、ウグー。おーーらよっとー」

アイナが気だるそうに起き上がり座席の肘かけを元に戻すと行儀良く座り直した。

「アイナ、顔ッ」

「へーーーい」

私がそう指摘すると不満タラタラなアイナの表情が違和感ありまくりな引きつり笑顔になった。

《まぁ、及第点かな。ギリギリアウトな気もするけど仕方ない・・・》


もう玄関はすぐそこまで迫っており、丹加部さんからは車内の様子も見えているはず。下手な指摘でアイナに癇癪を起こされるよりはいくらかマシだ。



送迎車が玄関に止まる動作に合わせて丹加部(にかべ)さんがお辞儀をしながら私たちを出迎えてくれた。が、年老いているせいか全ての動作が少し遅かった。

「遅い遅い遅いッ!!丹加部、速く速く速くッ!!」

アイナはもうとっくに限界のようだ。

「アイナ、頼むからちょっと黙ってて」

丹加部さんからでは私がちょうど背を向いているのでその隙を見計らってアイナを注意する。護衛が運転席にいる手前大声を出せないのがツライ・・・。下手に失態を晒せばお祖父様の耳に入る・・・。それはつまりこの生活の終了を意味することに等しい。だから、いくら注意してもしすぎることはないのだ。



丹加部さんがドアをゆっくり開ける。

「レンお嬢様、ユアル様、アイナ様、お帰りなさいませ」

長年の執事生活で培った優雅で気品溢れる所作で、仰々しくない完璧なお辞儀を見せる丹加部さん。丹加部さんは私から外へ出るように手を差し伸べエスコートしてくれた。

「ごめんなさい。丹加部さんだって他に色々やることがあるのに・・・」

「いいえ、レンお嬢様。この丹加部、今は執事としての任を解かれ後進の育成を任されている身ではありますが、常駐でなくともこうしてまた西冥家にお仕えできることに至上の喜びを感じております」

丹加部さんはたしか今年で74歳だったと思う。お祖父様の護衛として雇われたのが40年以上前。それからずっとお祖父様の護衛として雇われていたが、護衛以上の素晴らしい働きに感心したお祖父様が護衛兼秘書兼執事として側に置くほど優秀な人だったらしい。

それ以来、丹加部さんは西冥家のことならほぼ全て把握している重鎮となった。お祖父様の都合上、自然と敵が多くなってしまうため暴漢や暗殺未遂という危険な目に何度か遭っているが、その都度、丹加部さんは身を挺してお祖父様を守ったという逸話がいくつもある。


私は直接見たことはないけど身体(からだ)にはそのときに負った傷がたくさんあるとかないとか。去年、本邸でちょっとしたゴタゴタがあった時に私たち3人でこの家に住む条件として定期的に丹加部さんがこの家を訪れ私が近況を伝えるという義務が生じた。

要するにお目付け役ということだ。



丹加部さんは私に続いてユアルを降車させた。

「ユアル様、お帰りなさいませ。さぁお手をどうぞ・・・」

「ただいま帰りました、丹加部さん」

ユアルはスーパーモデルのような長い脚を無駄のない動きでスッと地面につけると丹加部さんに寄りかかりすぎず、かと言って丹加部さんのエスコートを無下にすることもない絶妙な力加減で車を降り首を少し傾けて挨拶をして見せた。

これには丹加部さんも大満足だったのか笑顔のまま何度も頷いている。

《さすがユアル、何というグッジョブ。完璧すぎる》

2人のやりとりはまるで映画のワンシーンを見ているようでユアルの完璧な対応に私もついつい見惚れてしまった。


「アイナ様、お待たせして申し訳ありません。さ、どうぞこちらへ」

「ただいま帰りました」

最後は問題児だ。

《頼むからトラブルを起こさないでくれ・・・》

アイナは丹加部さんのエスコートに応じて特に問題なく降車した。ユアルほど愛想はないが丹加部さんはユアルのときと同様に笑顔で頷いていた。

《アイナ!やればできるじゃんッ!!よしッ!》

思わず心の中でガッツポーズをする。


「ユアルとアイナは先に家に入ってて。私は少し丹加部(にかべ)さんとお話があるから」

降車からココまで良い流れができているのでボロが出ないうちに私はユアルとアイナに先に家へ入るように促した。

「はい、レン。では、丹加部さん、お先に失礼します。もしお許しいただけるのであれば、いつかまたお屋敷の方にご挨拶に伺わせて頂きたいと
永由(ながよし)様にもどうぞ宜しくお伝えください」


西冥永由(ながよし)、お祖父様の名前だ。

「はい、その旨十分お伝えさせていただきますよ。ほっほっほ・・・」

こういう大人な対応のときのユアルは本当に安心感がある。

《できれば、保武原さんの時もこうしてほしかったんだけど。まぁ、ココまでは理想的な流れだし、あとは私が丹加部さんの質問にそつなく答えれば今日という難関は突破だ》

「うぅーー腹減ったーー!っつーか風呂入りてー!!」

「ッ!!??」

《アイナ、最後の最後でやっぱりダメだったか・・・》

私はユアルの完璧すぎる対応に安心しきって少し緊張感を緩めてしまったのかもしれない。

ココでようやく今日は気の緩みが仇となる最悪な日だと理解した。


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