ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【15】2006年6月6日 17:11・送迎車・大雨。帰宅(レン視点)。

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どこまで行っても田んぼや木々、そして雨雲という単調な景色が続いていた。大雨は一向に降やむ気配がない。


《・・・お?》

いったいどれくらい時間が経ったのか分からないが急に送迎車が減速して傾斜のある道を上り始めた。・・・かと思うと、しばらくして停車する。


窓から外を見ると高さが4メートルくらいありそうな門が自動で開き、開ききった所で固定されている最中だった。この特殊仕様の送迎車は運転席と後部座席を真っ黒なセパレーターで仕切られているが諸々の理由から車内での防音性能は信憑性が疑わしい。

要するに勝手な憶測として、護衛の観点からこちらの会話が運転席に丸聞こえなのではないかと思っているのだが、逆に外からの防音性能はかなり優れていて、ほとんどの音をシャットアウトしてくれるので門が開く音や固定されている音も車内まではあまり響かなかった。


《やっと着いた・・・》

この門が私たちの家の敷地への入り口となっており『出入り口門』と呼ばれている。その名の通り、ウチの敷地内への出入り口はココしかない。送迎車がゆっくり門の敷居である門閾(もんいき)に乗り上げる。

ガタンガタンッ―。

この門閾、結構高さがありと時間差で前輪と後輪から段差を越えるときの衝撃がお尻に伝わってくる。特殊仕様なのでこの程度の衝撃で済んでいるのかもしれない。普通乗用車ではもっと揺れがヒドイと思う。


門閾の段差を乗り越える衝撃。これが我が家へ帰ってきたというある種の合図になっていた。


しかし、まだ家までは送迎車で1分程緩やかな坂を上る必要がある。恐らく、運転している護衛たちにはもう家が見えているかもしれないが後部座席にいる私たちには前方の状況がまるで分からない。

窓から地面を見ると山道には不釣り合いな真新しいアスファルトと等間隔おきに設置されたこれまた山道に不釣り合いな照明灯が見えた。お祖父様は何を思ったのか、出入り口門から家まで元々舗装されていなかった山道を車が走りやすいようにわざわざアスファルトで舗装してしまった。さらに、出入り口門から家までのたった数百メートルの距離のために一定間隔おきに360度録画可能な監視カメラつきの照明灯も設置したのだ。


当然、道路の両サイドはさっきの出入り口門と同様の高さである4メートル程度の柵が外部からのあらゆる者の侵入を阻むように続いてた。



しばらく坂を上っていくと後部座席からでも家が見えてきた。正確には家の周りに設置されたかなり高さのある柵だが・・・。


あの柵もお祖父様ならではの拘りがあったらしく害獣が家に入ってこれないように、出入り口門から続く高さ4メートルの柵とは別に長い柵が設けられている。イヤ、柵というよりは『柱』と言った方が良いかもしれない。


一見すると何かの金属で出来ているようなその柱はお祖父様が特注で作らせた特殊素材で出来ておりチェーンソーでも切断不可能らしい。

その特殊素材製の柱は直径約20センチ、長さ30メートルで地面に10メートルほど打ちこんで地面からの高さを20メートルに揃え、子供や小動物も通れない間隔で家を中心にグルリと円形に囲んでいた。


分かりやすく表現するならばオーソドックスなドーム型の鳥かごの天井がないバージョンを思い浮かべると良いのかもしれない。

さらにその外側には出入り口門から続いている4メートルの柵も家を中心に円を描くように配置されており、囲い壁ならぬ仰々しい2重の囲い柵が我が家のトレードマークとなっている。


ウチの家は山奥なので熊やイノシシといった害獣がよく出没するらしいとの情報を得てお祖父様なりに対策を講じてくださった結果がこれだった・・・。そして極めつけは家の裏にある山からの土砂対策として柔軟性と強固さを兼ね備えた特殊な素材のフェンスを柵に張り巡らせている。


まだ一度も土砂崩れが起きてないので効果のほどは定かではないがお祖父様の特注にハズレはないのできっと大丈夫だと思う。その鳥かごの中にある4階建てのコンクリートの建物これが現在私たちが住んでいる家だ。


元々この家はお祖父様がいくつか経営しているうちの何とかという企業の保養施設だったらしく社員であれば誰でも自由に利用できたらしい。去年ちょっとしたゴタゴタがあり、私がお祖父様に無理を言って私とユアルとアイナの3人用の家として用意してもらったのがこの家だった。


正直、今でもあの時のことを思い返すと、よくあんな無茶が通ったものだと肝を冷やすことがある。私としては保養施設の設備のままでも十分だったのだが、お祖父様の配慮で内装やら防災対策として色々な箇所をほぼフルリフォームしてもらえた。


窓ガラスは送迎車顔負けの防弾仕様で家の外壁の至る所に監視カメラを設置。もちろん地震大国日本においての対策も抜かりない。保養施設として建てたときには既に地震の揺れを家に伝えない免震構造を取り入れていたらしい。社員とは言え、他人のためにそこまでやるのかという徹底ぶり。


お祖父様の先見の明というか用心深さには毎回驚かされる。不審者避けや害獣・災害対策としてやりすぎ感が否めないが、ココまでしてくださったお祖父様に意見なんてできるわけもなく・・・。

当時はフルリフォーム工事にかかる期間について不安があったが、幸い近隣の住民が一切いないので昼夜問わず3交代制で4ヶ月かかるリフォーム工事が1ヶ月半程度という異例のスピードで完了したのはラッキーだった。


大人の本気を見せられて少し引いてしまった孫はぎこちない笑顔でお礼を言うのが精一杯たった。

以上のことから1時間20分の通学時間も我慢せざるを得ない状況なのだ。


通学時間の問題はさておき、スピード工事のおかげで思いのほかかなり早く『本邸』を出ることができた。『本邸』というのは私が生まれた頃から去年の9月まで住んでいた実家のことでお祖父様のお屋敷だ。


お屋敷と言ってもかなりモダンな造りにはなっていると思う。今までの説明の中で薄々理解していると思うが、お祖父様はどちらかと言うと古臭いだけの様式美よりも合理的で実用性のある機能美を重視している。


なので、本邸もただデカイだけの木造の屋敷ではなくこの家のように防災フル対策のモダンな・・・えっと、何とかという特殊素材で家の外壁を造った?イヤ、コーティングした??まぁ、そんな感じの防災・防犯対策最新鋭特盛フルコースらしい。


敷地や家の大きさはココの4倍くらいだろうか・・・?本邸の敷地内は移動するだけでも結構な運動になる。しかし、今の家と決定的に異なるのは何と言っても家族よりも人数が多い執事やメイドたちの存在だろう。

どこに行くにも何をするにも気を遣われる落ち着かない家だった。





金銭的には不自由ない暮らしだったけど自由やプライバシーはほぼ存在しなかった。お祖父様は執事やメイドたちをまとめて『使用人』と呼んでおり、お祖父様自身にはメイドと執事を祖母と私にはメイドのみを世話係としてあてがっていた。


私が本邸を離れたかったのは別に使用人たちが嫌いというわけではなく誰にも干渉されない自分だけの空間が欲しかったという身勝手で子供っぽい理由が原因だ。しかし、いかに子供っぽくてもそれがどうしても欲しかった。誰にも干渉されない自由な空間が欲しかった。


そんな私はとある時期から『他人が家の中にいる』と強く感じるようなり、とうとう耐えられなくなってしまった・・・。


使用人たちは本当に優しく、よく働き、気遣ってくれる。でも、他人に変わりなかった。それ以上でも以下でもなく、他人なのだ。



15歳の子供と言っても曲がりなりにも一応多感な時期の乙女としては四六時中、自宅で他人にまとわりつかれたり気を遣われるのはかなりシンドかった。今はユアルがある程度家事をやってくれてはいるが全てをまかなってくれているわけではないので当然自分でやらないといけな部分が出てくる。


初めは面倒だと思っていた雑事も今となっては生活の一部と言えるくらい慣れてきた。少し不便なところもあるが、その代わりプライバシーは圧倒的に守られ尊重されるようになったのは素直に嬉しかった。
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