ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【21】2006年6月6日 18:30・自室・大雨。癖(レン視点)。

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部屋で宿題をしていると携帯が鳴った。着信音の種類からメールを受信したことはすぐに分かった。携帯を手に取り時間を見ると午後6時30分を過ぎたところだった。

《ほぼ間違いなくユアルからだな・・・》

私はそう予想しながら携帯のメールを確認する。

『夕食ができましたので降りてきてください♪』

音符マークが余計だがやはりユアルからのお知らせメールだった。このメールは毎食ほぼ決められた時間にユアルからの届くようになっている。



普通に考えてウザいと思われるかもしれないがこれでもだいぶマシになった方だ。同居を始めた頃はわざわざ電話で食事のお知らせをしていた。しかも、その電話に数コール以内にでないと4階までいちいち上がってきて部屋のドアノック&お声掛け攻撃が始まってしまうという嫌がらせつきだ。

嫌がらせと言ってもユアルには微塵も悪気がない。それが一番性質が悪いのだが、ユアルはただ心配して私が出てくるまで延々と部屋のドアノックと声掛けを繰り返しているだけなのだ。

そう、私が出てくるまで延々と・・・。

さすがに私もシンドイので過去に一度だけ食事のルールについて徹底的に話し合ったことがあった。その話し合いの中で何度も『先に食べてて良いから』と促したり『部屋で食べるから』と断ったのだが、まったく聞き入れてもらえなかった。


どうやらユアルは3人で食事をすることに何かしらの拘り(こだわり)があるらしい。まったく迷惑な拘りだ。

『それならせめてメールで知らせて欲しい』と私は数時間粘りに粘り何とか勝ち取ったのが現在のお知らせメールスタイルだった。総合的に見ると負けているかもしれないが、あのとき初めてユアルが異常な頑固者であることを知った。


ただ、いちいち部屋の前で永久にノックされるよりはだいぶマシになったのも事実だ。ユアルの頑固さはある種病気レベルだと観念して以来、家でも学園でも3人で食事をするようにしている。もうちょっと宿題を片付けてから夕食にしたいと思っていたがもたもたしているとユアルが4階まで上がってくる可能性があるので、それを考えるとさっさと夕食を済ませた方が時間の節約にもなる。



『了解。すぐ行きます』

私はメールを返信すると、教科書や参考書にノートそしてノートパソコンを閉じてからドアの横に備えつけられている鏡の前に立った。

「んーー、まぁ良し」

自分の格好を確認する。そこにはジャージにTシャツ姿の自分が映っていた。本邸にいた頃は到底考えられなかったラフな格好。何をするにも楽で良い。

この部屋を出る前に鏡の前に立つのは本邸にいた頃からのクセだった。『寝癖はないか?服は乱れていないか?』など諸々チェックする。そしてお祖父様に本邸内でバッタリ遭遇してしまったときの笑顔の練習も欠かさない。


お祖父様はこの家に一度も来たことはないしお祖父様の前でこんなラフな格好なんてできるわけもないけど、この練習だけは万が一に備えて本邸を離れた今でも続けている。


《他の金持ちが行っている習慣とかルールとかあまり知らないし興味もないけど、高校生にもなって身内のために笑顔の練習をしてるのってたぶん私くらいなんだろうな・・・》

なんだか少しだけ虚しくなってくる。

「よし、じゃあ行きますかッ」

私は電気を消して部屋を出た。
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