ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【25】2006年6月6日 19:25・浴室・大雨。本邸での生活(レン視点)。

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さらに本邸から出られて良かったことと言えば、インターネットを自由に利用できるようになったことだ。

見聞を広げるというか大まかに言ってしまえば勉強のためという名目でノートパソコンを買ってもらいネット環境も整えてもらった私は、この家に引っ越してきた当初、狂ったようにネットを徘徊していた。そのおかげで本邸にいた頃には知り得なかった一般常識や世の中の情勢、ネットのスラング用語など色んな知識を得ることができた。


と、同時に、この数ヶ月間で自分がいかに愚かな箱入り娘だったのかという無知の知をこれでもかと自覚できた。


様々な情報に触れる中である意味、現代人としての自我がようやく目覚めような感じとでも言えば良いのだろうか?さらに、ネットで知識を得る過程において情報が全て正しいわけではないということと情報過多になって思考が停止してしまう危険性というモノを知ることが出来たのは個人的に大きかった。


元々疑り深いネガティブな性格が功を奏した珍しいケースだと思う。それらのステップを経てネットサーフィンによる情報は自分で精査し要点をまとめた上でその情報の信憑性を最終的に自分で判断しなくてはいけない自己責任が伴うモノであることも理解できた。


もし、ネットの存在を知らずに着の身着のまま世の中に放り出されていたらネギを背負ったカモ状態の箱入り娘が無限に詐欺に遭っていたことだろう・・・。


考えただけでとゾッとする。


図書館なんかより遥かに知識量が膨大でルドベキア女学園で勉強するよりも数十倍タメになるネットサーフィンはあっという間にやめられない趣味となった。これも本邸から脱出したからこそ得られたモノであることは間違いない。本邸でもお祖父様に言えばすぐに環境を整えてくれたかもしれないが私がネットサーフィンしてる隣でメイドが待機してたらと思うとストレスがべき乗で増えてしまう。



それからこれは本邸を出て良かったことに直接結びつかないかもしれないけどテレビを自由に視聴できるようになったことはそれなりにラッキーだったかもしれない。


ネットほどの情報量はないが自分で操作をしなくてもある程度色んな情報が勝手に流れてくるのは楽だし面白かった。この家で3人の同居生活が始まってテレビを見るようになったのだが、とにかくニュースの面白さにハマってしまった。正直、下手なバラエティ番組より面白かった。


『事実は小説よりも奇なり』を体現してくれていた。

ネットのニュースサイトも見てはいるが、ニュースサイトに載っていない情報や個人ではカバーしきれない情報が報道されるとついつい見入ってしまう・・・。我が家のテレビはリビングにしか設置されておらず3人で食事中のときはニュース番組を見るのが決まりだ。


もともと、私は小さい頃から『テレビはくだらないモノ』という洗脳に近い教育を受けてきた。その影響が大きかったことに加えて、何より学園でバラエティ番組の内容を喜々として語ろうものならクラスメイトから低俗の烙印を本人が知らない間に押されてしまったり、学園の教師にバレれば生徒指導室に呼び出され親を巻き込んでの三者面談を開かれかねない。


そういった危険性もあるため『自分の部屋には要らないがせっかく本邸を出られたのだから』という理由でリビングのみに設置することにした。

当然、本邸の私の部屋にはテレビなんてなかった。天窓つきの浴室での長時間入浴と同様に、テレビを見ない生活もまた私の当たり前の習慣になっていた。そのせいかバラエティを始めドラマや音楽番組は1週間程度で飽きてしまった・・・。




ニュースの何が私をココまで釘づけにしたのか考えたとき、明確な答えがあった。日本全国いたる所で詐欺や殺人事件がほぼ毎日巻き起こっている事実があまりにも衝撃的過ぎたのだ。


本邸にいた頃の私はそんなにしょっちゅう殺人事件が起きてるなんてまったく知らなかった。最初にこの事実を知ったときはこの国の暗部を見てしまったというかタブーに触れてしまったような気がして少し怖かったくらいだ。しかし、蓋を開ければなんてことない。ただの箱入り娘が世間を知らなさすぎたというありきたりなオチにすぎなかった。


本邸と一般社会がいかにかけ離れていたのか思い知らされた。

そういえば新聞もあまり本邸で見かけたことがない。もっと言うと、お祖父様が新聞を読んでいる姿も見たことないかもしれない。


それはやはり私に世間に興味を持たせたくなかったのだろう。今になって思えばお祖父様や周りのメイドたちが情報を隔絶していたのも何となく理解できる。私にもし子供ができて一般社会と触れ合う必要性が無いというか、例えばお祖父様クラスのお金持ちだったら毎日殺人事件が起こる『下界』のことなんて子供に触れさせたくないと思うのかもしれない。

・・・そのときになってみないと分からないけど。

まぁ、本邸を出た今となってはどうでも良いことかな。




ニュースの他にはアイナが1人のときにアニメを熱心に見ているくらいだろうか?

恐らく我が家で一番テレビを観ているのはアイナだと思う。アイナは幼児向けからスプラッターなモノまで幅広くなんでもカバーしているらしく『アニメの何が面白いのか?』との問いにアイナは『勉強になるから・・・』とだけ答えてくれた。



その熱意が少しでも勉強に向いてくれれば嬉しいんだけど。

ちなみに、もし私がテレビOKな環境だったとして、本邸での生活においてテレビを観ていたかというと答えは当然『NO』だった・・・。


本邸にいた頃はそこら辺のサラリーマンより忙しかったと思う。とにかく毎日毎日習いごとに追われていた。テレビを観る暇が私の生活に入り込む余地なんて微塵も無かった。


ピアノ・水泳・英会話・家庭教師は曜日ごとに固定で、不定期に体験入会みたいな感じで色んな習いごとを短期間やらされた。基本的に家庭教師はほぼ毎日あり、それから別の習いごとと学園での宿題という詰めこみ中の詰めこみだった。


もちろん、自発的にやりたいと言った習いごとなんて1つも無い・・・。全てお祖父様からのオーダーであり怖くて拒否なんて出来るわけなかった。さらに学園は学園でエスカレーター式のくせに山のように宿題を出してくるので、習いごとと宿題が終わる頃には午前0時を過ぎていることなんてザラだった。


寝るまでの限られたちょっとの時間、それこそ眠くなるまでずっと浴室の天窓から空を眺めては『いつか本邸を出ていきたい・・・』とずっと考えていた。


小学5年生から本邸を出るまでの間、私はずっとそんな感じの生活だった。






プルルルルルルプルルルルルルッ

「お?電話・・・」

プルルルルルルプルルルルルル・・・ブルッ。


湯船に浸かっていると固定電話の着信音が聞こえてきた。着信音は数コール鳴ったあとで聞こえなくなった。この家には各階に1台ずつ電話が設置されており、フルリフォームする際に防音性能が高すぎて本邸からの緊急連絡など聞こえないと困るという理由で屋内どこにいても聞こえるようにと天井に埋込式のスピーカーが設置されている。


スピーカーと言っても爆音ではなく、電話が鳴っていたら必ず気づく程度の音量だ。


「たぶんユアルが出てくれたのかな?あとで電話の内容教えてもらえば良いか。もうちょっとしたらお風呂出よっと・・・」


私は湯船の温度を少し上げるために給湯器のリモコンに手を伸ばした。







「 何 で こ ん な 大 事 な こ と 黙 っ て い た の ! ! 」


「 う る せ ぇ ! い ち い ち 怒 鳴 る な ! ! 」


ユアルとアイナの叫び声がかすかに聞こえてきた。

その叫び声はもしかしたら廊下からかもしれなかったが防音性能がしっかりしているこの家において例え廊下であっても浴室の中にまで声が聞こえるということは考えにくかった。にも関わらず、私の耳までユアルとアイナの声が届いてくるというのはとんでもないレベルで叫んでいる証拠だった。


「はぁ~~今度は何ー??もー今日は勘弁してほしいんだけどッ」


まったり入浴タイムは突然終わりを告げた。

「は~~~あっとぉー!!」

私は鬱憤を晴らすように声を荒げながら湯船から出ると脱衣所で着替え始めた。

急いで着替えているだけでもストレスなのに湯船で上がった体温と蒸し暑さのおかげで汗がどんどん吹き出してくる。


「あー、もぅ!!せっかくお風呂に入ったのにッ!」



しかし、このままあの2人を放置しておくと、外にいる護衛が心配して様子を見に来る可能性があるので、それはそれでもっと厄介な面倒を引き起こしかねない。不快だろうが何だろうが、汗だくでベトベトになりながら早く着替えて2人の所に行くというのがこの状況での唯一の正解だった。



あと残すは上着のみというところで私は脱衣所を出て、着ながらダッシュで2人のもとへ向かった。


《本邸にいる頃でさえこんな全速力で走ったこと、あまりなかったかも・・・》


悲しみと怒りが混ざり合いながら私の感情はよく分からないモノになっていった。

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