ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【35】2006年6月7日 13:27・教室・曇り。限界(レン視点)。

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キーーーーン。

《耳、いったぁ》

私たちよりもうるさいクラスメイトはたくさんいるし、何よ注意する本人が一番うるさいパターンってヤツだ。要するに昨日の件を根に持って『何でも良いから難癖をつけにきた』と言ったところだろう。

「おぉ、出た首なし」

「誰が首なしだッ!!!」

「プフーーー!!」

アイナが昨日起きた首なし連続殺人事件になぞらえた瞬発力バツグンのイジリを放つとたまらずユアルが吹き出してしまった。私も耳のダメージがなければ
余裕で吹き出していたと思う。危なかった。



《ユアルが自分のことを話してくれるなんて滅多にないチャンスなのに。もっと聞きたかったな・・・》


しかし、また昨日のような騒ぎになっても困るので渋々この場を収めることにする。

「保武原(ほむはら)さん、ごめんなさい。少しうるさかったよね?今後気をつけるってことで良いかな?」

怒鳴られたときの鼓膜へのダメージとほんのり沸いた殺意、そして耳鳴りが止まらないストレスで保武原さんに対する態度が少しおざなりになる。ぶっちゃけてしまうと学園じゃなければ反射的に手が出てたかもしれない。


「西冥さん、その外人たちアナタの遠い親戚らしいけど少しマナーが悪すぎじゃない?」

《おぉッ?今日はいつにも増してアグレッシブだな。何だ?どうした?》

「うーん、まだ日本の文化に慣れてない部分もあるからちょっと至らない所もあるかもしれないけど、私がしっかり注意しておくから今日のところは多目に見てくれないかな?」

昨日、丹加部さんに指摘された言い訳を適当に再利用する。

キーーン。

《あー、まだ耳が痛い。さっさとあっちに行ってくんないかな》

「プフフフフッ」

ユアルに助け舟を期待するが完全にツボに入ったらしく顔を隠して必死に笑いを堪えている。が、肩を上下させて笑っているのが丸見えで顔を隠している意味がない。まさに顔を隠して何とやら状態だった。保武原さんからすればユアルの態度は不快極まりないだろう。



私の説明では納得してないのかそれともユアルが笑っている姿が気に入らないのか、保武原さんはまだこの場を去る気配がない。このままこの流れが続けば昨日の二の舞になるのは必至だ。



《ちょっと面倒なことになってきた。さて、どうしよ・・・》


「ポミュちゃん、パン食べる?」

《バッ!?》


唐突にアイナが保武原さんに話しかける。

「いらないわよ!!あと私は保武原(ほむはら)だ!!」

「プフフフー!」


更にツボに入るユアル。

キーーン。

この流れはダメだと脳が何度も警告を出しているが、いかんせん私も耳鳴りと怒りのせいで正常な判断と思考ができないでいた。

《ちょ、ちょっと笑い堪えるのキッツイ》


今気づいたが、さっきからクラスのあちこちでクスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。

「なーんだ、ダイエット中かよー」

クスクス。クスクス・。

《アイナ、やめてお願い》


「じゃーそーだなー、ヨシ!!」

アイナは意を決したように何かを手に取り保武原さんの前に差しだした。


「ホラよ!野菜ジュースだったら、太る心配なく飲めるだろ!?アイナお姉ちゃんからの大切な支給品だ!ありがたく飲めよな?ポミュ腹!」

《クソバカアイナ何てことを》


膨張した空気が一気に限界まで達し爆発するような衝撃が教室中に走る。

「「「 ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!! 」」」

「「「 ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!! 」」」


その場にいたクラスメイト全員のツボにはまったのかクラス中が爆笑に次ぐ爆笑で包まれた。


こうなってしまうと人は気持ちが落ち着くまで永遠に笑ってしまうもので下手に刺激すると―。


「 何 が お か  し い の よ ッ !!! 」


「「「「  キャ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!! 」」」」


こんな感じでエンドレス状態に突入してさらなる笑いが起きてしまう。



本人がそのことに気づかず怒れば怒るほど笑いの連鎖は終わらない。それはまさに火に油ではなく燃料を投下してしまっている末期的な状態。私も例に漏れず思いきり笑ってしまった。どうにも場が収まらないと悟った保武原さんはしばらくの間、目をギョロギョロと一定間隔で動かしながら無言で私たち3人を睨み続けていた。



睨まれていると分かっていても私も他のクラスメイト同様にどうにも笑いを止められなかった。


《腹の底から笑うのってどれくらいぶりだったっけ?》


時間の経過とともに耳鳴りもだいぶ収まってきた。そしてアイナのおかげなのかせいなのか、この際どちらでも良いが、死ぬほど笑ったせいか耳のダメージによる怒りも吹き飛んでしまった。ギリギリと歯を食いしばる保武原さんの口が少し開く。


「覚えときなさいよ・・・」


私の耳がたしかなら保武原さんが背を向ける瞬間たしかにそうつぶやいた。悪いとは思っているけど、私だって危うく耳が逝きそうになったんだからお互い様だと思う。


数分経ってやっとクラスに静寂が戻ってきた。


「ひーーふーー、ひーーふーー。あーそっか、そうだった」


初等部の頃から知っている保武原さんとココまで険悪な関係になったのは初めてだったことに気づく。

謝った方が良いのかもしれないが、よくよく思い返してみると初等部の頃から何故かいつも高圧的な態度で接してくる彼女の言いがかりに、これまた何故か
私がいつも謝っていたので、今日は今までの分のお返しということで何だかとてもスッキリした。


そろそろ保武原さんの無意味な圧に屈して無条件で謝罪するのを卒業したいとも思っていたので『結果的にまぁ良し』と自分を納得させる。


私はべつに保武原さんの使用人ではないのだから。


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