ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【46】2006年6月8日 時間・場所・天候不明。中年と青年①(レン視点)。

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先程まで八恩慈駅近くのビルの屋上にいた私の目に別の景色が展開された。



《ココはオフィス?》


視界に映るそのオフィスはどちらかと言えば部屋と言うより貨倉庫もしくは工場跡と言ったほうが正しいのかもしれない。だだっ広いだけの安っぽさが目につく。


ドアつきの部屋が一切なくパーテーションで仕切られたいくつかある簡易スペースの出入り口はそれぞれカーテンで遮られている。この場所が地下なのか地上なのか朝なのか夜なのか窓がないので判断できない。


カーテンの向こう側は見ることができないが至る所から常に携帯の着信音と誰かが電話で話している声が聞こえていた。

「いつ返すんだよ!!」

「さっさと返せ、死にてぇのか!ああぁッ!?」

「今からテメェん家行くからなぁ!金揃えて待ってろよぉおお!!」



話しているというより、怒号や奇声を発しているだけのような気がする。とにかく柄の悪そうな男の声が至る所から響いていた。視界が動き始める。どうやら一番奥のスペースに向かっているようだ。しばらく歩きカーテンの前で立ち止まると、ツヤやハリがまったくない男の手が視界に現れてカーテンを勢い良く開けた。


カーテンを開けると、小さいスペースにこれまた小さい1人用の机と椅子が2つ設けられており1人の男性が奥の方に座っていた。

「おいタサキィ、オマエあの損失の穴埋めどう責任とるんだよ!!」


不意に視界から発せられた男の声。それは先程ビルの屋上から見ていたスーツの中年の怒号とそっくりだった。それもそのはず、これはこの男の『過去の記憶』なのだから。


私は今この男の過去を追体験しているのだ。


《成功した。この前はユアルにフォローしてもらったけど今回は1人でできたみたい。それにしても随分タバコ臭いオフィスだな・・・》



ユアルの説明によれば、ココで起きたことは『変えようのない過去であり事実』ということになるらしく、そのため味覚や嗅覚などの五感も体験できるが、身体への影響はまったくないとのことだった。なので、いくらオフィスにタバコのニオイが充満していても、身体への影響はないらしい。だからと言ってタバコの臭いが好きかと聞かれれば死ぬほど嫌いなのだが。



他人の口の中に入った煙が外に吐き出されそれが見えるという恐怖。至近距離で煙を吐かれたら絶対不可避で強制的に吸い込んでしまう恐怖。副流煙でガンになるのではないかという恐怖。さらにその喫煙者が歯周病だった場合、何かしら影響があるのではないかという恐怖。

梅雨ほどではないが、かと言って好きになる理由もタバコにはまったくなかった。


《おッ?》

中年はカーテンを閉めると小さい椅子にふんぞり返って座った。


《さて、このオジサンの過去に良い判断材料があることを期待しようかなッ》


中年は目の前に机を挟んで座っている男を叱っているようだった。

《名前はたしかタサキだっけ?》


タサキは沈痛な表情を浮かべて椅子に座っている。


《いくつくらいだろう?20代であることは間違いないと思うんだけど》



普段の生活であまり若い男性と接する機会がないので22歳だと言われればそう感じてしまうし、27歳だと言われればそれも納得してしまう。タサキは中年の部下なんだろうか?現時点では関係性がよく分からない。ただ確実に分かることはこの中年よりは明らかに若く清潔感があるということだった。



爽やかという言葉がしっくりくる青年だった。


「す、すみません。ですが、まさか先方が飛んで行方不明になるなんて」


「おいおいおい!?テメェ、ここで働いて2年だよな!?ヤミ金っ・・・と、それは去年までだったな。金融業者が金を貸す際に相手の身元をしっかり洗っておくのは基本中の基本だろ?きっちり調べたのかよ!?」


「調べました!かなりの大口だったので社長をはじめ幹部全員が連帯保証人になるって申し出てくれて。事業計画も返済計画もしっかり、しっかり・・・説明してくれて。良い方たちだったんです」


「で、結果その良い人たちだった全員が『グル』で2000万持って消えたと?」


《あぁ、なるほど》


この中年とタサキの素性、そしてこのオフィスがどういう場所なのか少しずつ見えてきた。少し前まで違法な金融業をやっておりタサキは多額の融資を行った会社に幹部ぐるみで騙され金を持ち逃げされたと、どうやらそんな感じの話らしい。

私は何となく状況を把握した。



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