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「冥福を祈る」ヨックモックに逃げた。
しおりを挟むスカイツリーが綺麗だった。
夜の空に、
スカイツリーが生えていた。
スカイツリーの周りには高層ビルはない。・・・・元々「下町」といったエリアで、
古き良き、「東京」の町並みの地域だ。
・・・・だから、広い土地が確保できて、
新たな「電波塔」を建てるには、もってこいの場所だったわけだ。
前の・・・
東京タワーは、
今や、
高層ビルの中に埋没してしまっている。・・・・それらが障害となって、本来の「電波塔」としての役割は苦しくなってきていた。
花子の自宅から、
高層ビルの乱立する東京都心部を突き抜け、地元に帰ってきた。
ここまでくれば、
平地にスカイツリーがポツンと建っている風景になる。
すでに、交通量は少ない。
ここは、湾岸エリア、トラックターミナルの集積地だ。
すでに、1日の業務を終えて、
片道3車線の道路は閑散とした雰囲気となっている。
・・・・・そこから、
信号すらない脇道へと入っていく。
外灯もほとんどない、林道のような小路。
砂利道を走る感覚がハンドルに伝わってくる。
しばらく行けば、一気に視界が広がった。・・・・・海だ。東京湾だ。
シエンタを停めた。
エンジンを切った。
一気に静けさに包まれる。
東京だとは信じられない静寂だった。
・・・・そう・・・ボクの隠れ家だ。
考え事をするとき・・・一人になりたいときに逃げ込むいつもの場所だった。
・・・・いくつか星が見えた。
雨は上がっていた。
明日は晴れるのかもしれない。
「・・・・AMGを貰ってくれといわれるんじゃないか・・・・」
・・・しかし、
ボクには、そんなお金は用意できない。
そんな自分の情けなさに、
逃げるように花子の家を後にした。
・・・・・しかし・・・
それだけじゃない。
・・・・静寂・・・・誰もいない・・・・
明かりもない・・・・微かな・・・小さな外灯の明かりだけ・・・・
車内に嗚咽が響いた。
嗚咽だ・・・
グスグスと響いた。
ボクは、
しゃくり上げて泣いていた。
・・・・もう、
花子の家・・・・花子の部屋にいることが耐えられなかった。
花子の家を訪ねた。
通されたのが、花子の部屋だった。・・・・小さな祭壇があった。
花子の死を知った。
・・・・いや、
それは・・・
お母さんから電話をもらった段階でわかっていた・・・
いや、
電話が鳴った瞬間に、「花子の死」悟った。
ここまでボクの身に起きた不思議な出来事。
1ヶ月毎に繰り返される「事故」・・・しかも、「同じ日付」
その原因が、「花子の死」なのだと、
電話の瞬間に悟った。
心の準備をして、花子の家を訪れた。
・・・・部屋に通される。花子の部屋に通される。
・・・・そこで見たのは・・・
花子の、壮絶な闘病の痕だった。
花子の部屋は、病室さながらだった。
介護ベッド・・・・各種の機器・・・
そして、点滴などを吊るす用具・・・・各種の器具・・・
その風景に、
思わず息を飲んだ。
・・・・しかし、
その風景自体には、
圧倒されたというだけで、
一時のショックのようなもので終わった。
・・・・ボクが、
心を・・・・胸を締め付けられるように感じたのは・・・
窓だった。
大きな窓。
ベッド脇。
公園の木々が良く見えた。
四季の移り変わりが良く見えただろうと思う。
・・・・・花子は・・・・
花子は・・・
花子は・・・
何年も・・・何年も・・・
この風景を見てきたんだろう・・・
春の桜・・・・紫陽花・・・
夏は・・・
なんという木だろう・・・ピンクの花を咲かせる樹木がある。
秋の銀杏・・・
・・・・そんな風景を、
花子は何年も見てきたんだろう。
若き日・・・・動き回れた日々から・・・
病床に伏していく日々・・・
次第に・・
このベッドで過ごす時間が増えていった。
・・・・・時には、
ここで、高熱にうなされ・・・・
ただ、伏したまま、耐える時間もあっただろう・・・
・・・・花子は、ひとりでいた。
お父さんは、海外を飛びまわる生活だ。
・・・そして、お母さんも、
花子のために立ち上げた事務所が、幸か不幸か、年々に、忙しさを増していった・・・・
・・・・花子はひとりだったんだ。
日々は通いの家政婦さんがいた。
ひとりで、
この部屋で闘病を続けていたんだった。
・・・・・花子のライン。
返信は、いつも早かった。
常に、いつだって繋がった。
・・・そして、
繋がれば、
いつだって、花子は声を聞くことを望んだ。
ボクも、
昼休み・・・・移動の最中。
車を停めている時は、電話した・・・・声を聞いた。
・・・・花子は・・・
花子は・・・・
いつだってボクを待っていたんだ・・・
花子は、
ここで、
この部屋で、
この病室で、
いつだって、ボクを待っていたんじゃないのか・・・・
花子の闘病生活は長い。
友人たちは、
成長と共に、それぞれの人生を進んでいく・・・そこでの生活が築かれていく・・・
訪れる友人も・・・
ひとり・・・またひとりと減っていっただろう・・・
・・・・花子は・・・
花子は・・・
花子は・・・
ここで・・・
最後は、
ボクだけを待っていたのではなかったか・・・
花子の部屋。
小さな祭壇。
「やっと部屋に来てもらえたーーーー」
花子が笑顔で言ってるように見えた。
・・・・・すぐに、涙が溜まってきた・・・
すぐに嗚咽が込上げそうだった。
・・・・しかし・・・・
泣くわけにはいかない。
お母さんが、
気丈に、
花子の日々を話している。・・・・最後の日々を話している。
最も泣きたいだろう、お母さんが気丈に・・・・時には、笑顔すらを交えて話している。
・・・・そこで、ボクが泣くわけにはいかない。
親として・・・・
母親として・・・
我が子・・・・娘に先立たれるのは、
どれほどの悲しみか。
「逆縁の不幸」
先を歩くものにとって、どれほどの衝撃か・・・・それが、我が子なら、我が娘なら、どれほどの痛みなのか・・・
察するに余りある。
堪えた。
泣くのを・・・・涙を堪えた。
思うまい・・・考えまい・・・・
・・・・泣くのは後でいい・・・・
この部屋を辞した後、
思う存分泣けばいい。
思うまい・・・・考えまい・・・
思考を逸らした。
ボクは、
クッキーに思考を移した・・・・
好物だったヨックモックに、
シガールに、思考を集中した。
・・・・そのクッキーも底をつく。
ボクは、逃げるように花子の家を辞したんだった。
・・・・どれくらい泣いていたか・・・
溜まっていた涙が流れていった。
嗚咽は治まっていった・・・・
目の前は長閑な海だ。
首都高速湾岸線の光に照らされている。
まだ、時間は早い。
夕ご飯が終わった頃か・・・・
通話履歴から選択した。
発信を押す。
すぐに相手が出た。
おお、元気か・・・・?
他愛もない会話が始まった。
そんなに頻繁じゃない。それでも、なんだか、折に触れ・・・何かの時・・・・いや、何もない時に電話する。
「今度・・・奈々・・・受かったわぁ・・・」
弟だ。
相手は、弟だ。
奈々は姪っ子だ。・・・・弟の娘さんだ。
高校受験に合格した。
弟は、
一男一女をもうけて、
立派な父親になっていた。
立派な家庭を築いていた。
何もなくても、
なんら脈略もなく電話する。
・・・ましてや、
今年は、
姪っ子の受験があった。
弟は、地元の建築会社に就職した。
ボクが、
東京へと逃げ出したためか、
弟は、地元で就職して、母親の面倒をみている。・・・・一族の務めも果たしている。
仕事はどうよ?忙しいか?・・・・緊急事態も終わったしな・・・
どうでもいい会話を続ける・・・・
・・・・・ダメだ・・・
言いながら、
また、
涙が零れてきてしまった・・・・
弟は待っていた。
あの日々・・・・
小学生の頃、
親父が会社を潰して、酒乱となり果てた頃・・・
母親が勤めに出て家計を支え、
・・・・ボクは、
弟の面倒をみていた。
小学校が終われば、
真っすぐに・・・一目散に帰って・・・
小さな部屋で待つ・・・
一人で待つ・・・
たった一人で待つ、
3歳の弟の元に走った。
「たまには帰ってきてや。母ちゃんも会いたがっとるわ・・・」
・・・・弟はひとりで待っていた。
ボクの帰りだけを待っていた。
・・・・時には、
待ち疲れて、部屋の隅で寝ていることもあった。
・・・・ボクが、帰っていけば・・・
「カァくーーーーん!!」
玄関に走ってきた。
弟はひとりで待っていたんだ。
毎日、
毎日、
毎日、
ひとりで待っていたんだ。
・・・・・その弟と、花子が重なった。
花子の部屋。
涙を堪えることができなかった。
花子・・・
花子・・・
大変だったな・・・
ゆっくり休め。
ゆっくり休んだら、
今度は、
今度は、
丈夫な身体で生まれこい。
縁があったら、また会おう。
合掌。
彼女の冥福を祈る。
心底に祈る。
皆様、
ありがとうございました。
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