不思議体験・外伝。

ポンポコポーン

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「信長からの下賜」ベンツの咆哮。

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配電盤を確認していた。・・・・いわゆる「電気の盤」だ。

扉を開け、

中のブレーカーひとつひとつの電流値を測定する。


一般家庭のものとは、その大きさが違う。

ボクの身長ほどの高さがある配電盤だった。


会社のエントランス。

入ってすぐの通路に設置されている。


この会社との付き合いも長い。

15年ほどになるのか・・・


勝手知ったる何とやらで、

オフィス内、いたるところをウロウロしていても何も言われない。

むしろ、知ってる社員さんが声をかけてくる。



運送会社だった。

ここは、長距離は業務としていない。

近距離の配送がメイン。

メーカーからの依頼で、スーパーやコンビニなどへの配送を請け負っている。

最近伸びてきた「軽配」も行っている。

敷地内には普通免許で乗れる配送トラックが数台とまっていた。



空調の増設が依頼内容だった。


休憩室。・・・・というより、「休憩場所」って感じで、


事務所と同じ場所のすみっこ。

事務所、休憩室、

共に、簡単な壁で仕切られた場所で、

その壁、上部が風が通るようになっていた。


で、
事務所部分にしか空調がない。

その空調で、フロア全てを冷やしたり、温めたりをしているんだった。


冬は、休憩場所にストーブが置かれる。

夏は扇風機。


最近の日本は「酷暑」だ。


事務所部分の「おこぼれ」のような冷気では、休憩場所は冷やせなくなってきた。・・・・扇風機では用を為さなくなってきた。


それで、

専用の空調を入れようとなったんだった。


空調機を入れる。

新規にエアコンを入れる。


意外と大変な作業になる。


機械を入れるだけでも、


室外機の設置。

室内機の設置。

それらを繋ぐ配管の敷設。


・・・それらに、設置面は耐えられるのか・・・壁面、建物の強度。


そして電源の確保。


一般家庭とは違って、

事務所、

オフィスとなると、

大きな機械になる。・・・・電気容量が大きくなる。


そうなると、

既存の配電盤から、その電力が取り出せるのか・・・・

新規に空調機を設置するだけの、電気容量の余力があるのか・・・・


そんな下調べが必要になってくる。


事務所内、

建物内を、時間をかけてウロウロすることになる。



「あれ・・・・いつもと感じ違いますね?」


顔なじみの女性社員さんに声をかけられた。


はっはっは・・・

照れ笑い気味に返事を返す。


いつものジャンパーだ。


何年着てるんだか・・・ってな、「МA2フライトジャケット」のコピー品。


その昔・・・バブル期、日本には大量に溢れていた。・・・・それの名残だ。


コピーとはいえ、生地が良かったのか、

丈夫で、未だに着続けていた。


いつもは、作業服の上に羽織っているのが、

今日は、

黒のチノパンにブルーのボタンダウンだった。


取引先に出入りする時には作業服姿が多い。


天井裏に上がったり、

はたまた、床下に潜ったり、


そんなことになるからだ。


・・・・が、

今日はラフな格好とはいえ、作業服ではなかった。


コピーフライトジャケットが、

心なしか、

ビンテージのものに見えなくもない。



下見、確認作業が終わった。


事務所の担当者に声をかけて後にした。


見積もりは、後日提出することにする。



駐車場を歩いていけば、

自販機コーナーにも、顔なじみが数人いた。

工場の休憩時間だということだろう。

数人が珈琲タイムだった。


車のリアを開けて、測定器のカバンを入れた・・・・



「ノブさんに貰ったんだって?」


定年間近かってな工場長が言った。

真っ白な髪。髭さえが真っ白だ。

工場・・・のみならず、会社の「主」といっていい存在だ。・・・じっさい、役員に名を連ねているしな。


「ノブさん」ってのは、

先輩社長・・・・兄貴と慕う社長のことだった。


通称は、ノブさんと呼ばれていた。

もちろん、名前からの呼び方だ。


先輩社長の名前は「伸之」


仲間内、

業界内での知り合いは「ノブさん」と呼ぶ。


会社は違うとはいえ、

工場長もトラック業界の人間だ。


兄貴のことは顔見知りだ。

「ノブさん」と呼ぶ。


で、

この場合の、ノブさんは、


「信さん」の意味がある。


伸之なのだが、

信さんと呼ばれる。


信は、「信長」の意味があった。


兄貴は、

地元・・・・このあたりのエリアでは知らない人間はいない。

一族で、この「市」の2/3は治めているという家系だった。


市会議員、県会議員は当然として、

国会議員すら頭を下げに来るという一族だった。


・・・そして、

業界では・・・いや、このあたりの経済界では「切れ者」で通っている。


それも、そのはずだ。

日本屈指の有名私立大学を出て、都銀に就職。

後に、実家の運送業を継いだというサラブレッド中のサラブレッドだ。

しかも、

頭脳の切れ方は半端じゃない。


兄貴の代になってからでも、4社もの運送会社を買収している。

ますます、ビジネスを拡大している。


そして、

その攻め方の苛烈さから、


「信長」を連想させ、


親愛をもっての呼び方、


「ノブさん」の中に、

「信さん」の意が込められていた。



・・・・どういうわけか、

ボクは、

兄貴に可愛がられた。


そこから、

横の繋がりで、


県下の運送会社が次々と顧客になっていったんだった。・・・・ここも、そのひとつだ。



車に乗り込んだ。

エンジンをかけた。

ガオン!!

野太いV6エンジンの咆哮。


珈琲タイムの、工場の人間たちの注目の的となっていた。


・・・なんだか、
お尻がムズムズする・・・・

まだ慣れない。

恥ずかしさが込上げる。


太い革巻きのステアリングを握る。


愛想笑いで会釈して、車をスタートさせた。



・・・・そうだ。


ボクは、


兄貴から、


「メルセデスベンツ・AMG」を譲り受けたんだった。


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