雪の旅人

士鯨 海遊

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 女は一人であるが不思議な格好をしている。この寒さにこの大雪だというのに薄そうな白いドレスを着ており、足元はブーツどころか裸足で雪の上を立っていた。
 金髪の長い髪はきらびやかに舞い、旅人と同じような若い肌をしているが、目を細くしてじっと旅人をしている。その姿はなんとも美しい女神のように見えていたが、この白い空間で寒そうにも苦しそうにもせずに佇んでいるのがとても不気味であった。なおかつ女の口元は何か企むように微かな笑みを浮かべている。
 
 旅人は数秒間その女を見て低い声を出した。
 
 「——何か御用ですか?」
 そう問いかけると女の口元は動き始めた。
 「ええ、ここに人がいたもので——」
 女は冷酷なその美しい声でそう話すと突然旅人に質問をした。

 「——あなたは何故この峠へ?」
 「前を歩いたらこの峠に入ったからさ」
 「何をしに来たのですか?」
 「見てのとおり旅をしている、——ただそれだけさ」
 「変わった方ですね」
 「君こそ変わっているよ、何者だい?」
 「あなたがそう思う者よ」
 「さては峠にいる魔物というのは君のことかい?」
 「——ええ、町の人間達からそう呼ばれています」
 
 すると白い空間に雪が降り始める。女はこの峠の魔物であり、それが旅人の前に立っていた。だが旅人は驚くどころかむしろ魔物であることを最初からわかっていたのである。
 「私に何の用だ?」
 「ええ、用があります」
 「私を殺すのかい?」
 「さあ——、どうでしょう」

 すると魔物は少し笑い出し、旅人の前へゆっくり近づく。旅人を殺そうとした。
 
 ところが魔物にとって予想外な事が起きた。
 旅人は逃げるどころか怯えてすらおらず、抵抗する姿勢も警戒すらもせず、ただじっと立って女の目を見ていたのであった。
 魔物は旅人の目の前で止まり、しばらく見つめると少し慌てる感じで質問をした。

 「あなたは死ぬのが怖くないのですか?」
 すると旅人は顔を上げて言う。

 「何故、恐れるのですか?」
 鋭く低い声で魔物に逆質問した。
 「何故って……、それは……」
 魔物は戸惑った。
 「な、ならあなたは後悔しないのですか?」
 「後悔? どうして?」
 「どうしてって……」
 「死んだところで後悔も何もありませんよ」
 「あなたは死にたいのですか⁉︎」
 魔物は大きく声を上げると旅人はゆっくりと顔を下げ、澄み通る声で答えた。

 「私はこの命が尽きるのをただ待っているだけであります。生命を持つ生き物は死ぬ為に生きているのでございますから……」
 その答えに魔物は旅人の前から動けずに沈黙してしまうのであった。
 数十秒間の静寂が続くと旅人が再び顔を上げ、目の前の魔物に向かって、「何も無ければ私はこれで失礼します」と言い、小さく一礼をして道へ戻り、そのまま歩き出すのである。
 魔物はただ旅人の後ろを見るだけで、去ってゆく背中は無常を解く僧侶のような、無常さを表す死神のような姿に写していたのであります。雪は再び止みだした。
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