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二人の行く先は何も無い真っ白な雪だけが残り、その積もる雪をただひたすらに踏みながら渡ってゆく。旅人はトランクケースを持ちながら無言でハット帽子越しから前の雪の様子を見て、その後ろに魔物が旅人の背中を見つめながらついてくるように歩いている。
すると突然旅人が魔物に背中越しから質問するかのように話しかけた。
「何で魔物なんかになったんだい?」
その急な質問に魔物は動揺する。旅人が自分の事について初めて追求しようとしたのである。それまであまり私に対して質問などして問いかけなかったのに彼は今、魔物とされている私を知ろうとしているのだと。魔物の表情は一気に硬くなると同時に空からは大粒の雪が降り始めた。
「どうしてそんなことを……?」
暗そうな気持ちの声で返事する魔物に旅人はその変化にすぐ気づくが、止めることなくそのまま話を続けた。
「不思議に思ったからさ。君は自分自身をこの峠の魔物だと言っていたけども、私から見るとあまり恐ろしい魔物には感じないのだ」
魔物は返事した。
「それはあなたが恐れていないからでは?」
「そうかもしれない、だが魔物、というよりも心のある人間の女性のようにどうしてもそう見えてしまう。だから今、君を知りたくなったのさ。まぁ、嫌なら話さなくてもいいんだがね——」
大粒の雪は風に乗ってさらに強くなりだし、旅人は歩きながら風に飛ばされないように帽子のツバを持ってそう話すと、後ろの魔物は黙り出してしまい旅人の背中を何か悲しそうな目で見つめだした。
それから百メートルほど雪道を歩きながら同じ状況が続いていると、魔物は自らその沈黙を破り出して話した。
「私ね、元々人間だったの……」
その声は小さきながらも冷酷な美しい声とは違い、穢れの無い乙女の声だった。声の変化を気付いた旅人は魔物の話を興味深く聞く。
「やはりそうですか」
口元から出る白息が吹雪によって流される。背後を歩く魔物が続けて言う。
「あなたが生まれる遥か昔にね、ここには王国があったの。それでねここから北の方に大きいお城が建てられてね、私はそこに住んでいたの」
「すると君は姫様とかだったのかい?」
「うん」
空を見上げる魔物の顔の肌に雪の結晶が優しく張りついていた。
「しかし、そんなお姫様がどうして魔物へと変わったのだい? 城に住んでいるのならば幸せに暮らせるはずなのに——」
「ええ、それはとても幸せでした」
「では……?」
すると後ろに歩いていた魔物が旅人の横へ移動し、顔を向けて言った。
「私は人間に騙されたの」
すると突然旅人が魔物に背中越しから質問するかのように話しかけた。
「何で魔物なんかになったんだい?」
その急な質問に魔物は動揺する。旅人が自分の事について初めて追求しようとしたのである。それまであまり私に対して質問などして問いかけなかったのに彼は今、魔物とされている私を知ろうとしているのだと。魔物の表情は一気に硬くなると同時に空からは大粒の雪が降り始めた。
「どうしてそんなことを……?」
暗そうな気持ちの声で返事する魔物に旅人はその変化にすぐ気づくが、止めることなくそのまま話を続けた。
「不思議に思ったからさ。君は自分自身をこの峠の魔物だと言っていたけども、私から見るとあまり恐ろしい魔物には感じないのだ」
魔物は返事した。
「それはあなたが恐れていないからでは?」
「そうかもしれない、だが魔物、というよりも心のある人間の女性のようにどうしてもそう見えてしまう。だから今、君を知りたくなったのさ。まぁ、嫌なら話さなくてもいいんだがね——」
大粒の雪は風に乗ってさらに強くなりだし、旅人は歩きながら風に飛ばされないように帽子のツバを持ってそう話すと、後ろの魔物は黙り出してしまい旅人の背中を何か悲しそうな目で見つめだした。
それから百メートルほど雪道を歩きながら同じ状況が続いていると、魔物は自らその沈黙を破り出して話した。
「私ね、元々人間だったの……」
その声は小さきながらも冷酷な美しい声とは違い、穢れの無い乙女の声だった。声の変化を気付いた旅人は魔物の話を興味深く聞く。
「やはりそうですか」
口元から出る白息が吹雪によって流される。背後を歩く魔物が続けて言う。
「あなたが生まれる遥か昔にね、ここには王国があったの。それでねここから北の方に大きいお城が建てられてね、私はそこに住んでいたの」
「すると君は姫様とかだったのかい?」
「うん」
空を見上げる魔物の顔の肌に雪の結晶が優しく張りついていた。
「しかし、そんなお姫様がどうして魔物へと変わったのだい? 城に住んでいるのならば幸せに暮らせるはずなのに——」
「ええ、それはとても幸せでした」
「では……?」
すると後ろに歩いていた魔物が旅人の横へ移動し、顔を向けて言った。
「私は人間に騙されたの」
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