機械の森

連鎖

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暇つぶし

対決

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 タクシーの窓から見える景色が、ゆっくりと変わっていく。

(穏やかな日常…これから…)

 曲がりくねった山道は、いつしか平坦な舗装になり、
 小さな商店やコンビニが並び始め、町の気配が濃くなる。

 街路樹の影が風に揺れ、その車内に差し込む日差しとは対照的に、
 シートに触れている肌や日差しを浴びている場所が濡れ始め、
 麗華は自分の姿を思い出す。

(そういえば…私って…)

 その姿を思い出してしまうと、
 白シャツ越しに見える美しい肌が男を誘っている事や、
 今も子宮が精子を欲しがって女性器を愛液で濡らし、
 そこから立ち昇る匂いが、車内に充満していると気づいてしまう。

「やばっ…」

(こういうのって…痴女…変態…アイツラが言う通り…)

 そんな麗華を見つめる運転手の視線が強くなり、
 さすがにまずいと気づいた彼女は、慌てて前ボタンを全て留め、
 濡れた肌や覗けていた場所を、服の内側へと押し込む。

 しかし、白シャツの前を全てとめても、
 座った麗華の下腹部に一番下のボタンが来てしまい、
 綺麗な太腿が揃っている姿は見えて、逆にその場所が強調されてしまう。

 もちろん、巨大な乳房が苦しそうに布の表面に浮き出ているし、
 突起は布で押しつぶされて布地を押し上げ、
 陰影で乳輪の形までもが強調されていた。

(違うのよ…この反応は絶対に違う…車内が熱くて…汗で…)

 明らかにサイズの合わない白シャツの布が肌に擦れるたび、
 男の視線を浴びていると妄想するたび、
 そしてオスの欲望にまみれた意志に絡め取られている姿を想像するたび、
 さまざまな感情が背筋を這い上がってくる。

 麗華は無意識に合わせ目を引き寄せ、
 自分の姿を確かめようとバックミラーを覗いた瞬間、
 運転手の視線が自分に向けられていることに気づく。

 その目に明確な欲望と意志を感じ、跳ね上がるほどに緊張してしまい、
 慌ててスマホに視線を落とした。

(見られるのはいい…やっぱり、この格好は…着替え…わたし…が…我慢)

 麗華はその気持ちを忘れようと、山本に言われた事を思い出していく。

 スマホの検索窓には「ナメクジ 退治方法」。

 画面に並ぶ結果は、塩、乾燥、薬剤……どれも現実的でありながらも、
 あの3mを超える大きなナメクジには、全て無力に思えた。

(塩に乾燥……水分を奪うのが鍵? 薬剤…でも、あんな巨体に効くの?
 そんな事より……あんな数…どうやって?)

「ウフフ…アハハハ…」

 頭の中で散布機やバケツを持って、夜の境内を走る姿を思い描くが、
 その滑稽さに笑いまでこみ上げてしまい、唇がわずかに歪んでしまう。

(そうね、現実的じゃない……これじゃあ、ムリよね…じゃあ、どうする?
 けれど、体液や粘液に対抗できる装備。他には…何か…実は…何か…)

 粘液や体液に溶けない金属の鎧。
 フルプレート。チェーンメール。リングメール。他に…

 脳裏に浮かべては自分に着せて見ると、あり得ない程に滑稽な格好。

(個人で用意なんて無理……。組織が用意するなら「成果」の見返りだけ。
 何も持ち帰らない人に、服一枚すら寄越さないんだから……)

 冷たい笑みと共に、思考は「生体サンプル」へと戻る。

 ――山本の声。「子宮からも回収できた」
 ――指や肉棒を使って擦り、精液を子宮に出して貰っても拭えなかった。
 ――身体の奥にあの粘液が、しっかりこびりついていたという事実。

 胸の奥で激しい吐き気と寒気に、今も求める心地いい快感がせめぎ合う。

 嫌悪に足を引かれながらも、理性は冷酷に計算を続けていると、
 タクシーの揺れが、心の動揺を揺さぶるように答えを求めてくる。

 やがて車が減速し、窓の外に巨大な看板と広い駐車場が見えてきた。
 地方都市らしい、何でも揃う巨大なホームセンター。

「すみません…その辺の端で停めて下さい」

 麗華は深く息を吸い、スマホを握り直すと、
 羞恥も怒りも、すべてを戦術に変えろ――そう自分に言い聞かせながら。

 ここからが、本当の戦いの入口だった。

「ちょっと、お話が……」

 さっきまで残念そうだった運転手の顔が、驚きや欲望に染まり、
 シャツの合わせ目に触れる麗華の手を、食い入るように見つめていた。


 対決
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